ナタリー PowerPush - 喜多村英梨×小松未可子

キタエリ×みかこしの「神ない」サウンド解体新書

喜多村英梨「Birth」=「神ない」の額縁

──ご自身のボーカルレコーディングはスムーズでした?

ちょっと矛盾する言い方になっちゃうんですけど、時間をかけられたぶんスムーズでした。仮レコーディングをする機会が3回くらいあって、いろいろな歌い方を試せたので。今回、CDに収録したバージョンとは全然違う歌い方、例えば「なんかすごくうがった感じで物事を見ている面倒くさい女」みたいな歌い方をしてみたりとか(笑)。そうやっていろいろ試したり、じっくり考えたりする時間があったから、本チャンのレコーディングには、スタジオにいる全員が揺るぎなく「これだ!」って思える歌い方で臨めました。

──「これだ!」という歌い方って?

みかこしが対談で言ってくれた「神様」の視点ではないんですけど、第三者的な目線で「神ない」という作品と「Birth」という楽曲を眺めつつ、だけどいつも以上にエゴイスティックで情熱的な曲にしたかったし、実際にそういう歌い方ができたかな、とは思っています。というのも「Birth」って、大きなくくりで見たら「RE;STORY」の延長線上にある曲、4枚目のシングルの「Destiny」の姉妹曲と捉える方もいると思うんですよ。

──確かにどの曲もキタエリサウンドの系譜にある楽曲ですよね。

でも単なる延長線上にある曲、姉妹曲ではなくて、明らかに質の違う曲を作りたかったんです。以前お話させていただいたように「RE;STORY」の収録曲は、どこか「公式カラオケ」みたいな存在。「ライブでは一緒に歌ってくださいね」という姿勢で作っていたんですけど「Birth」はそうではなくて。「喜多村が歌わないならイヤだ」と思っていただけるような曲にしたかったんです。「Destiny」もちょっとクラシカルな世界観を歌うという意味では「Birth」に近い曲ではあるし、同じくタイアップソングではあるんだけど、やっぱり「Birth」とはアプローチが違う。「Destiny」は「円卓の生徒 The Eternal Legend」というゲームの主題歌で、私はそのゲームのメインヒロインの1人を演じていたので、女性視点で歌えたんですけど、「神ない」で私が演じたキャラクターはまたヒロインとは違うポジションでしたので。

──そうですね。

「神ない」に参加はしているんだけど、主役のような作品の代表者ではない。だけどテーマソングを歌っている。「神ない」という作品における喜多村英梨という人は、ある意味すごく不確かな存在なんです。あと「神ない」のストーリーに対する私の感想もある意味不確かで。死んでもなお生にしがみつきたい人たちに対しても、それを否定する人たちに対しても、気持ちがわかってしまう。だからどちら一方の味方にはなれないし、どちらかを非難するようなこともしたくもなくて。あとヒロインのアイの住んでいた村人たちが、アイや村を守るためについていた優しいウソを否定できるか、と言われたらやっぱできないし。当然ウソなんてつかないほうがいいはずなんですけど。

──だからあくまで第三者というフラットな視点に立とうと思った? 対談での言葉にならうなら「神ない」の拡声器になろうとした?

そうですね。「『神ない』の額縁」と言ってもいいとは思うんですけど、「Birth」を歌う私はあくまで「神ない」という作品を飾るための存在。その中身であるキャラクターやストーリーについて「ここがいいよね」とか、逆に「ここはイヤだな」といった判断はしない。ただその代わり、私自身大好きな作品だから皆さんの目を引くように全力で飾りたいと。歌っているときはそういう気持ちでしたね。

俯瞰で眺めつつ、エゴイスティックに振る舞う

──ただその一方で「喜多村さんが歌わないとイヤだ」と思われる曲にもしたかったんですよね。

だから時間が欲しかったんだと思います。作品を俯瞰する立場で歌うことも、「喜多村じゃなきゃイヤだ」と思っていただけるように歌うことも新しい挑戦ですから。それに「『神ない』の世界や楽曲全体を落ち着いて俯瞰しつつ、でもいつも以上にエゴイスティックに、情熱的に歌う」って、ちょっと矛盾しているといえば矛盾しているじゃないですか。その2つを1曲の中で両立させるには、やっぱりいつも以上に仮レコーディングを繰り返したかったし、そのラフミックスを何度も何度も聴いてみたかったんです。

──そして「Birth」の中の喜多村さんは実際にその矛盾する2つを両立させてみせた。ラフミックスを聴きながらどういうプランを立てたんですか?

いつも以上に押し引きをはっきりさせることは意識しました。Aメロ、Bメロ、サビという箱があるとしたら、それぞれの箱をどう飾り付けるか、その飾り付けた箱同士をどう組み合わせるかを考えたというか。例えば普段の私なら絶対にコブシを回したり、ビブラートを効かせたりしたくなっちゃうようなフレーズがBメロにあったとしても「いや、待て待て」「落ち着け自分」「初心者の生け花みたいになんでも飾るんじゃない」と(笑)。「Bメロという箱に花を1輪だけ置いておくようにすれば、たくさんの花で飾られたサビが余計に華やかに見えるんだから」「逆に1コーラス目のサビをハデに盛ると、花を1輪だけ飾ってある2コーラス目のAメロが引き立つんだから」みたいなことは、CDに収録されているバージョンのレコーディングの直前までずっと考えてました。だから最初に言っていただいたように、重いし速いんだけど、どこかスッキリと洗練されてはいる。情熱的なんだけど、どこかクールで俯瞰的な新しい喜多村英梨の音ができあがったかなと思っています。

喜多村英梨 ニューシングル「Birth」/ 2013年8月7日発売 / KING RECORDS
初回限定盤[CD+DVD] 1890円 / KICM-91460
通常盤[CD] 1200円 / KICM-1460
CD収録曲
  1. Birth
  2. Lifetime Trader
  3. Birth (Off Vocal Ver.)
  4. Lifetime Trader (Off Vocal Ver.)
初回限定盤DVD収録内容
  • Birth(Music Clip)
小松未可子 ニューシングル「終わらないメロディーを歌いだしました。」/ 2013年7月24日発売 / スターチャイルド
通常盤[DVD] 1500円 / KICM-91464
通常盤[DVD] 1200円 / KICM-1465
初回限定盤収録曲
  1. 終わらないメロディーを歌いだしました。 [作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
  2. LISTEN!! [作詞・作曲・編曲:前山田健一]
  3. 終わらないメロディーを歌いだしました。(off vocal ver.)
  4. LISTEN!!(off vocal ver.)
通常盤収録曲
  1. 終わらないメロディーを歌いだしました。
  2. ABC (終わらないサンバを刻みはじめました。 ver.)
  3. 終わらないメロディーを歌いだしました。(off vocal ver.)
  4. ABC (終わらないサンバを刻みはじめました。 ver.)
喜多村英梨(きたむらえり)
喜多村英梨

「キタエリ」の愛称で知られる声優・アーティスト。2003年に声優としての活動を開始し、出演作品は「フレッシュプリキュア!」「まよチキ!」「魔法少女まどか☆マギカ」「お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!! 」など多数。歌手としては2004年4月にデビューを果たし、2011年にスターチャイルドに移籍。3枚のシングルがヒットを記録し、2012年7月に1stアルバム「RE;STORY」をリリース。オリコン週間アルバムランキングで最高5位をマークする。同11月には4thシングル「Destiny」を、2013年1月に5thシングル「Miracle Gliders」を発表し、8月には6thシングル「Birth」をリリースした。

小松未可子(こまつみかこ)
小松未可子

1988年11月11日、三重県生まれの声優、歌手。女優として活動しながら、2010年にアニメ「HEROMAN」の主人公ジョセフ・カーター・ジョーンズ役で声優としてのキャリアをスタート。2012年1月より放送のアニメ「モーレツ宇宙海賊」では主人公・加藤茉莉香の声を務め、4月には同アニメのイメージソング「Black Holy」で個人名義による歌手デビューを果たす。7月にはミニアルバム「Cosmic EXPO」、11月7日に2ndシングル「冷たい部屋、一人 / 夏至の果実」を、2013年2月13日には1stフルアルバム「THEE Futures」をリリース。同7月24日、3rdシングル「終わらないメロディーを歌いだしました。」を発表した。


2013年8月10日更新