WACKから“王道アイドル”KiSS KiSSデビュー!メンバー&渡辺淳之介による「FiRST ALBUM」放談

3月末、音楽事務所WACKから新しいアイドルグループ・KiSS KiSSが誕生した。メンバーはキラ・メイ、キャ・ノン、チャンベイビー、ナルハワールド、アイナスター、カ能セイの6名で、彼女たちはGANG PARADEと並行してKiSS KiSSとしても活動していく。

音楽ナタリーでは6月21日に1stアルバム「FiRST ALBUM」がリリースされることを記念して、メンバーおよびWACK代表・渡辺淳之介にインタビュー。WACKにとってもメンバーにとっても新たな挑戦となる“王道アイドル”を結成するに至った理由から、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、原田茂幸(ex. Shiggy Jr.)、おかもとえみ(フレンズ)、Yohji Igarashiらによる提供曲のレコーディング時のエピソード、KiSS KiSSでの活動における意気込みなどを語ってもらった。

取材・文 / 田中和宏撮影 / 星野耕作

WACK、2023年の新展開

──3月末の「WACK合同オーディション2023」最終日にKiSS KiSS結成が発表されました。音楽ナタリーでは「メンバーはGANG PARADEの“若い”6人」と紹介しまして(参照:WACK新グループ「KiSS KiSS」結成!メンバーはGANG PARADEの“若い”6人)。

渡辺淳之介 それは言い方がよくないですね。だって若くないメンバーもいますもん。

キラ・メイ キャリアはみんな若いです!

渡辺 キャ・ノンなんてキャリア自体は長いでしょ。

キャ・ノン ……まだWACKに入って2年です!

──KiSS KiSS結成のきっかけは?

渡辺 ASPのときと似ているんですけど、GANG PARADEの中でも加入年が最近の子たち、具体的には月ノウサギ(2018年加入)よりあとにWACKに入ったメンバーと僕があまり関わる機会がなかったんです。で、何か関われる方法はないかなと模索している中で、振り切って新しいことをやりたくなって。自分主導というか、自分のプロデュースで新しいプロジェクトを進められないかなと。ふと浮かんだのが、この子たちだったら、「ちょっとかわいくしていけるんじゃないかな」ということでした。脱退もありえます。かわいくできなかったメンバーはKiSS KiSSを脱退したところでギャンパレがありますから。ライブを観に行って、もし「あれ、ちょっと違うな」と思った場合はその場で。

左からナルハワールド、キラ・メイ、チャンベイビー、キャ・ノン、カ能セイ、アイナスター、渡辺淳之介。

左からナルハワールド、キラ・メイ、チャンベイビー、キャ・ノン、カ能セイ、アイナスター、渡辺淳之介。

──いきなりヒヤヒヤする話ですね(笑)。ギャンパレも渡辺さんが携わっているグループだと思うんですが、その中でもここ数年はあまり関われないメンバーがいたわけですね。

渡辺 CARRY LOOSE(2020年10月に解散)のときもそうなんですけど、グループが増えるに連れて、メンバーとの関わりがどうしても希薄になってしまいまして。月ノウサギ(GANG PARADE)が加入した2018年あたりまではけっこうしゃべる機会もあったんですが。今、WACK所属グループのメンバーが47人いて、カ能セイなんてひと言もしゃべったことないよね?

カ能セイ はい……。

──メンバーもその関わりの薄さは感じていた?

キラ・メイ ギャンパレだとキャリアが長いメンバーもいれば、そもそも人数が13人と多いので、なかなか渡辺さんと話す機会がないメンバーもいて。KiSS KiSSでしっかり話す機会が生まれたのはうれしいです。アイナスターはもとから渡辺さんとよくお話してますけどね。

キラ・メイ

キラ・メイ

渡辺 (アイナスターの)お母さんも交えて3人でごはん食べに行ったことあるからね(笑)。

キャ・ノン 私は2021年にPARADISESのメンバーとしてWACKに入ってから、確かに渡辺さんとちゃんとお話する機会自体はなかったですね。渡辺さんがしっかり見てくれるKiSS KiSSで活動できることがすごくうれしいです。

ナルハワールド 2つのグループを同時にやるなんて、WACKだと今まで誰もやってこなかったことだし、新しいことにチャレンジできて純粋にうれしいです。大変なこともあるかもしれないけど、ワクワクする気持ちのほうが大きいです。

スタッフが止めなければ違うグループ名だった

──KiSS KiSSのメンバーは、結成に際してどんなグループになるかという説明は受けたんですか?

アイナスター 清楚系とか王道系のアイドルをやると聞いてました。

チャンベイビー ……グループ名が“ヴァギナズ”になるって聞いてました。

チャンベイビー

チャンベイビー

渡辺 そうですね。ヴァギナズがしっくりきたんで、いいなって思ってたんですよ。

カ能セイ 名前からして正統派じゃない……。

渡辺 スタッフから「さすがにそれはないんじゃない?」という指摘を受けまして。もう1つ、“ペニセズ”というのもあったんですけど。

キラ・メイ 知らなかった……。

渡辺 まあそういうことができる時代じゃないみたい。SAiNT SEX(2017年に結成されたWACK選抜ユニット)みたいな派生ユニットを作る機会があったら使おうかなと。

“さくら学院におけるBABYMETAL”

──2020年にギャンパレのメンバーは、GO TO THE BEDSとPARADISESに分裂し、2022年に再びギャンパレになりました。2組に分かれていたときとは違って、KiSS KiSSに関しては、ギャンパレと並行して活動していくんですよね。

アイナスター KiSS KiSSはGANG PARADEの派生ユニットという形ではなく、まったく別のグループとして活動していきます。イチからグループをやるにあたって、顔見知りのメンバーと一緒という安心感はあったけど、ここからKiSS KiSSの体制を作っていかなきゃいけない。だから、ギャンパレが母体という感覚はないですね。

アイナスター

アイナスター

渡辺 アイナスターは、2グループやることで「これで稼ぎが増える」って言ってたし、やる気だもんね。

アイナスター 言ってないです!

渡辺 まあ派生ユニットという見せ方をするとファンが戸惑うし、KiSS KiSSはもう別モノとして振り切ってるんです。「WACKが王道系のアイドルをやる」という逆張り的な要素もあるし、ギャンパレファンではない新規のファンを獲得するのがKiSS KiSSの目標でもあるんです。兼任メンバーはギャンパレが全国ツアーを回っているときはそっちに全集中、そうじゃないときはKiSS KiSSでツアーをやることになるから忙しくはなるんですけど、スケジュールをうまく切り分けてやっていけたらなって。まあチャンベイビーだけは「ギャンパレに戻りたい、専念したい」と言ってましたけど。

チャンベイビー え? 記憶にありません!

渡辺 そうだっけ? KiSS KiSSはわかりやすく言うと“さくら学院におけるBABYMETAL”みたいなグループです。その話をみんなにしたら目をキラキラさせてましたよ(笑)。もちろんギャンパレも成功したらいいと思うんですけど、さっき言った通り、ギャンパレのファン以外のお客さんを獲りにいってほしいと思ってます。ギャンパレを超えていくためにも、派生ユニットではない新しいグループとして捉えているんです。

──皆さんギャンパレとは別のSNSアカウントを持っているあたりから、“別モノ”という意図がはっきりあることが伺えますね。

アイナスター そうですね。KiSS KiSSが始まってからTikTokとInstagramのアカウントを新たに作っていただいて。TikTokがけっこう難しいんですよね。“かわいい”に全振りして何かをやったことがなくて、どうしても“チョケ癖”みたいなのが出ちゃう(笑)。ミュージックビデオでキス顔を撮ったときもついつい変な顔というかチョケた感じになって、堂前さん(マネージャー)から現場で「そういうのはいいから。ちゃんとかわいくやってね」と言われました(笑)。チョケに逃げない!というのが大事かも。

──キャ・ノンさんあたりは過去の経験からアイドルらしいかわいさを出すのは得意じゃないですか?

渡辺 前は王道だったのかね?

キャ・ノン ……だったんですかね? もはやギャンパレに染まっちゃってるので、みんなと同じく“真面目にかわいく”は大変でしたよ(笑)。

キャ・ノン

キャ・ノン

王道アイドルを研究中

──いわゆる“王道アイドル”ってどんなイメージですか?

アイナスター キラキラしたイメージですかね。そういうアイドルさんがどんなMCをするのかを研究していて。ライブ映像やダンスビデオをみんなで観てるんですけど、MC以外にも学ぶことはたくさんありますね。しゃかりきになって動くダンスじゃなくて、ゆったりしなやかなものもあって。そういった表現が初めてなのでいろいろと参考にしてます。

──WACKのグループが好きでWACKに入ったメンバーが多いと思うんですが、王道系アイドルをやることに戸惑いはなかった?

カ能セイ 全然なかったです! 確かに王道路線ってコンセプトを聞いたときはびっくりしましたけど、WACKでそれをやるとどんな感じになるのかなって、楽しみな気持ちです。

カ能セイ

カ能セイ

渡辺 そんなの嘘だから。本当はみんな乃木坂46になりたくてアイドルを目指してるんですよ。WACKはただの逃げですから。ねえ?

チャンベイビー そ、そんなことはないですよ。最初にアイドルになりたいと思ったときにやりたかったことも、今やらせてもらってる感じです。でもWACKのアイドルを知って、すごく素敵だなと思ってWACKに入ったので、私からすると「どっちもやれてる」という感覚です。

──ナルハワールドさんは王道アイドル系の雰囲気が昔からあると個人的に思ってまして。

渡辺 そうですね。モモコグミカンパニー(BiSH)主演の映画(「PEACH CHAOS PEACH」)は僕が撮ったんです。それにナルハが出演してまして、学校の窓際に座ってたんですけど……かわいかったです。

KiSS KiSSメンバー ははは。

渡辺 WACKの中で唯一、清涼飲料水のCMに出られるくらいの透明感があって。WACKだと彼女以外、そういう存在はいないでしょうね。

ナルハワールド (笑)。私はWACKが好きで入ったので、実はWACK以外のアイドルさんを全然観たことがないんです。世間的に超人気のグループでさえあまり知らなかったので、今勉強しているところです。これまで知る機会のなかった王道アイドルさんの魅力をいろいろ知るきっかけにもなって、楽しくなってきてるところです。

ナルハワールド

ナルハワールド

──ちなみにギャンパレだと月ノウサギさんもKiSS KiSSのメンバーに選ばれてもおかしくないと思ったんですけど、何かおっしゃってましたか?

カ能セイ 「楽しみ」って言ってましたよ。

キラ・メイ キャリアの長いメンバーたちが「月もついに“こっち側”に来たか」と言ってました(笑)。

アイナスター 月ちゃんは、ギャンパレでいろいろ経験してきて、グループを支えてきたメンバーとして認められた感覚があるというか、「まっすぐにギャンパレをずっとやってきてよかったし、ギャンパレだけを死ぬ気でがんばればいいんだってことがわかった」と言ってたので、KiSS KiSSのことは本当に別グループとして応援してくれてます。自分のやるべきことを再確認できるきっかけになったみたいです。

渡辺 絶対そんなことないよ(笑)。上のメンバーたちなんて、「あれ? 私たちは?」と思ってると思うよ。だって逆だったらそう思うでしょ?

チャンベイビー (無言で頷く)

渡辺 もし、ここにいるみんな以外のメンバーで「KiSS KiSSやります」って話だったら、みんな「あれ?」って思うはずだもん。それと同じことをどこかできっと思ってるから。まあ確かに月ノはちょっと悩んだんですけど、KiSS KiSSには合わないかなって。本人も言ってたみたいですけど、彼女はギャンパレでがんばったほうがいいんじゃないかなって単純に思います。

1stアルバムはファーストキスみたいなもの

──1stアルバムのタイトルを「FiRST ALBUM」にした意図は?

渡辺 1stアルバムはファーストキスみたいに1回しかないものなんで、わかりやすいタイトルのほうがより気持ちが入るかなと。僕自身、アルバムという言葉自体がすごく好きで、大好きなPublic Image Ltd(PIL)の「Album」にも影響を受けてます。それと、アルバムは通例3300円くらいですけど、わざわざCDを再生する人ってそうそういないから、現代のリスナーの傾向に合わせて、1100円にしました。“価格破壊”を起こしたいなという意図で。

──アルバムで1100円は確かに破格ですね。

渡辺 CDを買ってもみんなサブスクで聴くし、SNSで1曲がバズったらその曲だけが聴かれて、アルバム単位ではそうそう聴かれない。だから「FiRST ALBUM」というタイトルは、アルバムの存在をはっきり示すためのものなんです。

KiSS KiSS「FiRST ALBUM」ジャケット

KiSS KiSS「FiRST ALBUM」ジャケット

元Shiggy Jr. 原田茂幸が手がける王道J-POP

──アルバム1曲目のリード曲「KiSSES」は、原田茂幸(ex. Shiggy Jr.)さんが作曲。このほかにも、今作は原田さんの提供曲の割合が高いですね。

渡辺 原田さんには今回、全12曲中5曲を書いてもらいました。「KiSSES」は最初に頼んだ曲で、どこを切り取ってもキャッチーな最高の楽曲です。よく飲んだりしながら「こういう曲を作ってみたいですね」と曲作りの話をするので、今作では彼にすごく助けてもらいました。

──原田さんは歌詞も書いていて、遊び心のある表現があって面白いですね。

キャ・ノン そうなんです。今は歌詞動画とかもあるし、サブスクで表示されるし、歌詞を見る機会がけっこうあるんですよね。

渡辺 確かに昔より今のほうが歌詞って手軽に見れるよね。昔はCDを買わないと歌詞カードが読めなかったから。となると、より一層、歌詞も大事な要素になってくるなって。ミュージックビデオなのに「リリックビデオか!」ってくらい歌詞がたくさん出てくるものも増えてきましたよね。

渡辺淳之介

渡辺淳之介

──WACKが始まった2014年頃から、業界自体だけでなく音楽の聴かれ方も変わってきてますね。

渡辺 もう今と昔では全然違いますね。トレンド自体がより強く世間に反映されてきているんだなと感じます。新しいものに飛びつくというよりは、今流行しているものに飛びつくことが多いように感じますね。昔から流行は大事ですが、その傾向が今より顕著な気がします。アーティスト主導よりも、お客さん主導で生まれるトレンドが強い影響力を持っているのかなと思います。