音楽ナタリー Power Push - 岸谷香
音楽家として、母として すべてに“よくばる”彼女の「DREAM」
「お母さんがイキイキとやりたいことをしている姿って悪くない」
──そしてもう1つ「DREAM」の詞のキーワードに「よくばり」があります。40代の同世代の女性、子育ての真っ最中、あるいは子育てがひと段落した女性たちに「よくばりでもいいじゃない」と強く呼びかけているのかな、っていう気がするんですけど……。
そうですね。常日頃思っていることがあって。こうやって外に出る仕事をしていると、日常生活では会わないような人ともお話できたりするチャンスもあるじゃないですか。それから、なぜか仕事をしていないと、ちゃんと子供にごはんを食べさせた上であっても、自分だけ外食することにすごく罪悪感があったりもするし。でも、仕事をしていると「時間も遅いし、子供にはごはんを用意してきたから、ちょっと食べてく?」ということができるようになる気がするんですよ。
──ただ、性別問わずそういう行動に否定的な方もいらっしゃいますよね?
それは環境と状況によりけりで。確かにできる環境にある人もいれば、できない人もいるから、みんながみんな外に出ればいいじゃん、とは言えない。私だって子供の体調が悪ければ、仕事終わったらまっすぐ帰りますし。ただ環境が整っているならお母さんがイキイキとやりたいことをしている姿って悪くないよねとは思うんです。お母さんってけっこう罪悪感を背負って生きているんですよ。「自分ばっかり楽しんじゃいけない」とか「自分ばっかりおいしいもの食べちゃいけない」とか。もちろん子供に対して不自由な思いをさせてしまっているなら「ごめんね」と言うほかないんですけど、実は「ごめんね」って言っているお母さんだって、誰かの娘なんですよね。
──お母さんにもお母さんはいるということ?
ええ。今、私に幸せになってほしいと願われている子供たちと同じように、自分の母親に幸せを願われる存在でもあるんですよね。実際、私の亡くなった母も、生前私に幸せになってほしいと思っていたと聞きますし。そして私が今「楽しい!」と思って毎日を生きていれば、母は「それでいいよ」と言ってくれる気もします。もちろん「母親としてちゃんとやりなさい」とも思っているでしょうけど、一方で母であることに義務感や罪悪感ばかり持っていてほしくはないとも思っているだろうし、私もそうありたいと思ってますし。世の中のお母さんたちだって、バランスをうまくとりながら遊んだっていいんじゃない?って。
──お母さんたちだって「よくばり」になってもいいってことですね。
ごほうびみたいな考え方をするといいと思うんです。「普段いろいろがんばっているから、このライブだけは観に行かせて!」とかね。私もどうしてもキャロル・キングのミュージカルが観たくてロンドンに行ったわけですし(笑)。で、遊んだあとはちゃんと家に帰って、子供たちのために朝ごはんを作ってあげればいい。それに今、私は毎日が本当に楽しくて。だから子供たちに「好きなことをしていると人生はこんなに潤うんだよ」という姿を見てもらいたい。子供たちにも、それぐらい夢中になれるものを見つけてほしいっていう気持ちもあるんですよ。
「昔と同じような手触りで聴いてもらいたい」
──「DREAM」を通じて、同世代だけでなく、間接的に子供たちの世代にも何かを感じ取ってもらいたい?
うん。でも、本当は自分自身に一番呼びかけているのかも。同世代の人たちや子供たちはもちろん、いろんな人に届けばいいなとは思いますけど、人は本当にそれぞれですしね。強いて言うなら、自分のお尻にペンペンとムチを入れる曲なのかも(笑)。
──プリプリ時代を知るリスナーはメッセージの変化に驚くかもしれないですね。
だいぶん違いますからね(笑)。だから今、プリプリの曲がかえって可愛くて仕方がないんです。今と同じように「愛」とか「恋」とか歌ってはいるんだけど、結局のところ「彼氏しかいない!」って意味でしかなかったりするし(笑)。今だったら書こうと思っても書けないから、逆に歌っていて楽しいですよ。その頃の自分に一瞬戻れる気がして、半分恥ずかしくて、半分うれしい(笑)。
──当時の曲も今では歌い方が変わったりもしていますか?
いえ。歌に込める思いには変化はあるけど、昔の曲を変に大人びてうまそうに歌ってガッカリさせるようなことはしたくないので(笑)。聴いた瞬間、昔と同じような手触りで聴いてもらえるようにしたいと常に思っています。
──今回の「DREAM」やカップリングの「VANITY FAIR」も、かつてとは歌うテーマこそ違いますが、変に大人びていない。やっぱり心にガーンと響くロックチューンですもんね。
やっぱり好きなものって変わらないんです。好きなメロディとか好きな曲の展開とか。なるべく変化させたいと思っていた時期もあったし、自分自身がそのメロディや展開に飽きていた時期もあったけど、ここに来て、また戻った感じがします。「好きだからしょうがないよね」って。自分の好きなものを軽く受け止められるようになったし、何より柔軟になりました。ここまで好きなメロディや展開を歌ってきた、その延長線上に自分があるんだから、もう変なこだわりは見せなくてもいいのかなって。
──それだけしっかりとした軸というか、確固たる岸谷香像が完成したということですね。
うん。軸がしっかりしてる今だから、打ち込みっていう初体験もできたんだと思いますし。以前はなるべく避けていたんですよ。ライブでシーケンスを使うのも大っ嫌いでしたし(笑)。でも今回すごく刺激的だったし、楽しかった。やっぱり「“知らない”はもったいない」なんだなと思いましたね。プリプリの頃ももちろん楽しかったけど、今は音楽が本当に楽しい。子供に「お母さん、音楽やっていい?」って聞いたら「いいよ」って答えてもらって。「やったー!」って喜んじゃってる感じですから(笑)。
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収録曲
- DREAM
[作詞・作曲:岸谷香] - VANITY FAIR
[作詞:木村ウニ(蜜) / 作曲:岸谷香] - 窓打つ雨(Live at Billboard Live TOKYO)
[作詞:小西康陽 / 作曲:奥居香]
- KAORI PARADISE -SINGING IN THE 奄美パーク-
- 2015年8月8日(土)鹿児島県 奄美パーク内 奄美の郷イベント広場
- KAORI KISHITANI 48th SHOUT!-レッツゴー!!年女-
- 2015年9月19日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2015年9月20日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2015年9月22日(火・祝)大阪府 Zepp Namba
- 2015年9月23日(水・祝)愛知県 Zepp Nagoya
- 2015年9月26日(土)宮城県 Rensa
- 2015年9月27日(日)宮城県 Rensa
- 2015年10月3日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2015年10月11日(日)富山県 MAIRO
- 2015年10月12日(月・祝)新潟県 新潟LOTS
- 2015年10月17日(土)東京都 Zepp Tokyo
岸谷香(キシタニカオリ)
1967年生まれのボーカリスト、シンガーソングライター。1986年にガールズバンド・プリンセス プリンセスのボーカリスト&ギタリストとしてデビューし「Diamonds」「世界でいちばん熱い夏」などビッグヒットを連発。それらの作曲家としても多大な注目を集める。1996年のバンド解散後、俳優・岸谷五朗と結婚。しばしの休養ののち、シングル「ハッピーマン」でソロデビューを果たす。以来出産を機にそれまでの奥居香から岸谷香に名義を改めつつ、コンスタントにリリースを重ね、また他アーティストへの楽曲提供、プロデュースワークなどを行うも、2006年前後より育児中心の生活にシフト。以来ソロライブシリーズ「準備体操ライブ ~さびないようにね!~」を不定期に展開していたが、2011年、東日本大震災復興支援のためにプリンセス プリンセスを期間限定で復活。東京・東京ドーム公演を開催し、また2012年末の「NHK紅白歌合戦」にバンド名義で出演した。そして2014年5月にソロ名義のベストアルバム「The Best and More」を、6月には約6年ぶりとなるシングル「Romantic Warriors」を発表。2015年6月には復帰後2作目となる10thソロシングル「DREAM」をリリースした。