岸本ゆめのインタビュー|1人で歩き始めた今だから話せること、話しておきたいこと

元つばきファクトリーの岸本ゆめのが本格的にソロ活動をスタートさせた。

昨年11月にグループを卒業した彼女は、しばしの充電期間を経て4月1日にデビューシングル「BLUEMOON BLUES」を配信リリース。タイトル通り、ブルージーなサウンドに乗せて届けられる切なくも情熱的な歌声からは、ソロシンガーとしての彼女の新たな一面をはっきりと感じ取ることができる。デビュー翌月の5月1日にはアカシックの理姫が作詞、奥脇達也が作曲を手がけた2ndシングル「ユーアーアイ」を早くもリリースし、6月8日には東京・新宿LOFTにて初のソロライブを行うなど、精力的な活動を展開する彼女は今、何を考えて、これからどこに向かおうとしているのか? ギターレッスンを終えたばかりだという岸本に話を聞いた。

取材・文 / 南波一海撮影 / 小財美香子

1人で歌わないと成り立たない曲もあるのではと思っていた

──昨年11月に行われたつばきファクトリーの卒業公演で、岸本さんが「今後も歌っていきたい」と言っていたのが印象に残っていて(参照:つばきファクトリー山岸理子&岸本ゆめの、卒業公演でアイドル人生が詰まったベリキューメドレー披露)。昨年は体調の面では絶好調というわけではなかったと思うんですけど、卒業公演のときはスッキリされていて、めちゃくちゃやる気があるんだと思ったんです。

あはは、そうだったかもしれません(笑)。

岸本ゆめの

──改めて振り返っていきたいのですが、つばきファクトリーからの卒業を発表したのが昨年の春のことで(参照:つばきファクトリー山岸理子&岸本ゆめの、ハロプロ卒業)、卒業について考えるようになったきっかけはさらに1年前の2022年までさかのぼることになります。肺血栓塞栓症で入院した際に、自分のいないつばきファクトリーが頼もしく見えて、1人で活動していくことを視野に入れるようになったんですよね。ソロで歌っていきたいという気持ちは以前からあったのでしょうか?

まず、2012年にハロー!プロジェクトのオーディションを受けた理由は、歌が歌いたいということだったんです。アイドルグループというよりもモーニング娘。そのものに憧れていたので、このグループの一員になりたいという気持ちと、歌を歌える場所が欲しいという理由で応募しました。その後、グループでたくさん活動してきてすごく楽しかったですし、これはアイドルのよさを否定するわけではまったくないんですけど、グループアイドルって、メンバーみんなで1曲を歌うわけですよね。実を言うと、そのことで自分の気持ちが途切れちゃうこともあったんです。

──それぞれの歌パートが細かく振り分けられていると、そうなることもあるんですね。

3文字とか1文字の歌割もあって、それで魅せていくのがグループアイドルのよさだというのもわかります。あと、みんなで歌詞の主人公になりきろうと努力するんですけど、私は全員が全員、なりきらなくてもいいものだと思っていて。歌詞に入り込むのもいいし、かわいさを見せるとかダンスを見せるとか、すべてを含めてのアイドルだと思うので。私の場合はその中でも特に歌がやりたい、曲を届けたいという気持ちが強くありました。1人で歌わないと成り立たない曲もあるのではと思っていたので、ソロでやってみたいなと考えるようになったのかもしれないです。

岸本ゆめの
岸本ゆめの

──グループの歌唱というのは、自分を出すのか全体の調和をとるのかというせめぎ合いが常にあって、例えばユニゾンであれば後者が重視されますよね。

乱せないですよね。1人だけ違う声色とかだったら合わないので。自分を出すという点で言うと、グループ時代の私の役割は「大きい声を出す」「パワーを出す」という印象だったと思うんですけど、「私も静かな歌い方ができるのにな」と思っていたんですよ(笑)。ただ、それは自分の役割ではなかったんです。静かなパートと強いパートの両方で100%のいいテイクが録れたとしても、強いパートが採用される。同じように、「私は強いパートも歌えるのに」と思っている子がいても、その子は静かなパートが採用されがちということもあると思うんです。やっぱりそれぞれの印象があって、それは私の個性でもあるけれど、それすら、もはやグループの中の役割の1つでしかない、みたいなことも思っていて。

──演者ならではの視点ですね。岸本さんは、曲の終盤で1人だけ主旋律から離れてフェイクを入れたりしていましたが、それも役割分担の1つだし、同時に、そこを担うということは、別の種類の見せ場は回ってきにくくなるということでもあると。

私がレコーディングでよく注意されるポイントがいくつかあって、その中の1つに「声がかわいくなってきてる」というのがありました。そう言われるのは、グループのバランスを考えたときに、かわいい声の子がほかにもめちゃくちゃいるからで。私はパワー系の声も出せるし、そっちのイメージが強いから、かわいいほうに寄せるとグループとしてのバランスが悪くなるのかなと。

岸本ゆめの
岸本ゆめの

実は厄介な性格で、自分自身がそれとうまく付き合えてなかった

──すごく興味深い話です。そういった背景もあり、100%の自分を出すというところに関心が向かっていったと。そして昨年の卒業発表に至りますが、聞いていいことなのかと迷いつつも……その前後も大変でしたね。卒業発表からしばらくして活動休止する流れになります。

卒業発表をする数日前にブログで、私のアイドル人生で初めての謝罪をしたんですよ。11年くらいハロー!プロジェクトにいて、本当に初めて。何かの日付を間違えて書いてましたとか、ちょっとしたレベルのことじゃなくて、心を込めての謝罪をしました。自分の中では1週間後に卒業発表するのがわかったうえでそういうことを起こしてしまった。それで自分のビジョンとか、この11年のすべてが崩れた気がして、心身のバランスが取れなくなってしまいました。それがお仕事を休んでしまった原因です。

──真面目すぎるがゆえにグループからはみ出してしまったのだと思うし、バランスを崩してしまったのかなとも思います。

「真面目だね」と言われることが多いし、自分自身も熱血キャラだと今も思っているので、それに対しての否定はないんですけど、「真面目」とか「熱い」とか、周囲が見る私というのは過大評価なんじゃないかとずっと感じているところもあるんです。真面目な部分も大いにあると思うんですけど、自分では「そこまでかな? 別に普通なんだけどな」って。みんなが思うほど真面目じゃないし、かと言って別にみんなが思うほど気を抜いてもいないよ、という気持ちなんです。自分ってヒネくれてるなと思うんですけどね。入院したときも、「大丈夫?」って心配されるのが苦手で、そんなに心配するほどではないよって思うし、反対に、何も知らない感じで「大丈夫だよね」とか言われるのも苦手だし。わがままな性格ですよね(笑)。実は厄介な性格で、1年前は自分自身がそれとうまく付き合えてなかったし、そこは人には伝わりづらいところだよなと思います。

岸本ゆめの

──歌割の話にも通じるところなのかなと感じました。役割だとか性格の部分でこうだと規定されたくないということなのでしょうか。

そうかもしれないです。決め込まないでほしい、みたいな気持ちはあるのかも。