氣志團主催の野外フェスティバル「シミズオクトPresents 氣志團万博2019 ~房総ロックンロール最高びんびん物語~」が、9月14日と15日に千葉・袖ケ浦海浜公園にて行われた。
多くの初出演アーティストをそろえ、来場者の期待が高まる開催直前の9月9日、台風15号が関東に上陸。開催地である房総地区でも建物の損壊やライフラインの停止など大きな被害が発生。もちろん氣志團万博の開催も危ぶまれる事態となったが、さまざまな意見が飛び交う中で主催者の綾小路 翔(Vo)は開催を決断した。そこに至るまでの彼の葛藤、2日間のフェスを終えての心境、そして困難な状況の中で出演した数多くのアーティストに対する思いを、赤裸々に語ってもらった。
取材・文 / 宇野維正
仲間たちの覚悟に対して、自分の責任を強く感じた
──今年の「氣志團万博」に関しては、まずこの話からする必要があると思います。初日9月14日の5日前に上陸した台風15号によって千葉県に大きな被害が発生して、会場となった袖ケ浦海浜公園の周辺の一部地域では、台風が過ぎたあともしばらく停電、断水などが続いてました。
本当に直前の出来事でした。ステージのセットも7割くらい組み上がってた段階で台風が来て、バックステージの楽屋は全部大破してしまったんです。開催当日にバックステージにいらした方には例年と変わらない景色に見えたと思いますけどね。
──はい。そう見えました。
あれも無理やり資材を全国から集めて、急遽全部建て直したものだったんです。
──そうだったんですね。開催3日前の9月11日、今年の「氣志團万博」の開催が改めて発表されて、結果的に2日間、現場では大きな混乱もトラブルもなくフェスは無事に終わったわけですが、開催の決断に至るまでは本当にいろんなことがあったと思います。
話したいことはいっぱいあるんです。いっぱいあるんですけど、ここで僕が自分の思いだけを語っても、それが誰かの感情を逆撫でしてしまったり、気持ちを傷付けてしまったりするかもしれない。僕としては、逃げも隠れもするつもりはないですし、現場で自分が見てきたこと思ってきたことを全部話したいんですけど、この取材を受けている時点では今回の台風で被災した方々すべてが日常を取り戻しているわけではないので。もう少し時間が経って、1つひとつの出来事を検証したうえじゃないと話せないこともあります。
──そうですね。現場にいたからといって、実際に起こっていたことを、すべて自分の目で確認できるわけじゃないですしね。
自分が一番驚かされたのは、出演者の方が誰も出演キャンセルをされなかったことです。台風被害があった直後は、「こういう状況なので、もしキャンセルするとしても全然気にしないでください」ということを出演者1人ひとりに直接話しにいかないといけないと思っていたんです。でも、皆さん「出演します」と言ってくださって。もちろん、そこにはそれぞれいろいろな葛藤があったと思います。そのうえで、皆さんが今年の「氣志團万博」に出演する意義をそれぞれの方法で伝えてくださったり、ステージからお客さんに語りかけてくださったり、募金活動などのアクションも起こしてくださったりした。そんな仲間たちの覚悟に対して、自分の責任を強く感じずにはいられませんでした。
──開会宣言での「この判断が正しいかはわかりません」という翔さんの言葉が強く印象に残ってます。開催を力強く宣言するのではなく、その決断に至るまでの迷いをそのまま吐露されていた。
開催前日、今年も開会宣言をお願いしていた(森山)直太朗と、彼のパートナーの御徒町凧から相談を受けて。「開会宣言をすることから逃げるつもりでは決してなく、ただ今年に関しては最初に翔やんから直接お客さんに話したほうがいいんじゃないか」って提案されたんです。その直後に氣志團の出番だったので、演出的にはそのつもりで進めていたんですけど、言われてみたら本当にその通りだなと。きっとそれを言ってもらえなかったら、悲壮な覚悟や決意だけを抱えて自分たちの出番にステージに立っていたと思います。前日に、彼らに思っていたことをすべて打ち明けたら、「それをそのままステージで言えばいいんじゃないか?」と言われて。それがあの宣誓だったんです。
どうしても答えが出ないときは「引き返す」のではなく「前に進む」
──2日間のフェスを終えて、そこに答えは出ましたか?
いや、きっと正しい答えはないんですよ。もちろん、自分の中には「正しい」と思ってることはあったし、今もあります。でも、SNSなどでほかの人が「正しい」と思って言ってることも、きっとやっぱり正しくて。そして、その「正しさ」と「正しさ」の間でジャッジをしなくてはいけないのは自分で、それに対して「間違ってる」と思う人は必ず出てくる。「『自分の中で正しい』だけではダメだ」って言われたとき、それにどう返したらいいのか、そこに答えがどうしても出なかった。ただ、自分がこれまで生きてきた中で、どうしても答えが出ないときは“引き返す”のではなく“前に進む”という判断をしてきた。だから、今回もそこに立ち戻るしかなかったんです。
──本当に思ってることをそのままお客さんに語ってましたよね。綺麗事や美談にはしないという真摯な思いも伝わってきましたが、正直、ちょっと脇が甘い内容にも思えました。
はい、脇が甘いのはその通りだと思います。でも、こういうときは本当に自分の思ってる気持ちをすべて正直に話すしかないんだなってことが、今回よくわかったんです。あとは、どれだけ叩かれようがそれは自分が引き受けるしかないということも。もしかしたら、今回のことで失ったものもたくさんあるかもしれません。でも、それ以上に今回は得たものが本当に大きかったです。仲間たちは、俺たちのこと、俺の地元のこと、そしてずっと停電と断水が続いていた俺の実家のことまで、心の底から心配してくれて。一番笑ったし泣けたのは、2日目の打ち上げで出演者の某氏が「翔やんのことが心配でずっとSNSを見てたら、自分が鬱になりそうになった」って言ってくれたことで。「Twitterで捨てアカを作って翔やんを攻撃している人がたくさんいたから、自分も捨てアカを作って『氣志團万博』を応援している人をひたすらリツイートしたんだけど、大して役に立てなくてごめん!」って(笑)。優しいんですよ。本当に。例えばSiMやcoldrainやHEY-SMITH、SUPER BEAVERのような若いバンド仲間も、Dragon Ashや10-FEETのような同期のバンド仲間も、みんながみんなそれぞれ自分の言葉でお客さんに気持ちをしっかり伝えてくれて。打首獄門同好会も彼らならではのパフォーマンスで、ステージ内外で募金活動をしてくれた。言葉にならなかったです。出演者の方々は、今年の「氣志團万博」に出演するリスクについてよくわかっていたと思うんです。でも、バックステージではみんな熱い言葉をかけてくれたり、多くを語らず固い握手をしたり肩を叩いてくれたり。みんな「自分らは自分らのやるべきことをするだけだから」って思いをくれて、ステージに上がってくれた。トシちゃん(田原俊彦)のように、あえてそこには触れず、ただひたすらハッピーな空気と圧倒的なパフォーマンスだけを地元に届けてくれた存在も本当にありがたかったですし、感動しました。
──その直後、1日目の氣志團のステージでは、「何かあったら全部氣志團のせいにしてくれ。全部『#氣志團』で言ってくれ」とも言ってました。
仲間からは、「やると決めたんだったら、今はSNSから離れないと心が壊れるよ」とも言われたんですけど、そういうわけにもいかず、とにかくすべての意見に目を通しました。台風のあとに開催することを告知した文章は、書いては消して、書いては消して、10時間以上かけていろんなものを削ぎ落としていったものだったんです。でも、それに対しても、多くの人から「感情論」だと言われて。でも、本当に皆さんのおっしゃる通りで、感情論なんですよ。俺の地元に、俺の仲間たちを呼ぶフェスで、その地元が大きな被害を受けてる。それはどうしたって感情的になるし、感情的にならなきゃできないこともあるんだって。
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稲垣さん、草彅さん、香取さんは現在の環境を自由に楽しんでいる
- シミズオクト Presents 氣志團万博2019
~房総ロックンロール最高びんびん物語~ -
氣志團の主催で9月14日、15日に千葉・袖ケ浦海浜公園にて行われた野外フェスティバル。2003年と2006年に氣志團の大型野外ライブとして開催された「氣志團万博」が、2012年より会場を袖ケ浦海浜公園に移し、フェス形式で行われるようになった。今年は台風15号が房総地方を直撃し、一時は開催が危ぶまれたものの無事に2日間とも開催。合計33組が出演した。
出演者
9月14日
- YASSAI STAGE
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森山直太朗(OPENING CEREMONY ACT) / 氣志團 / 東京スカパラダイスオーケストラ / PUFFY / SiM / 元祖万博ウルフルズ #ヤッサ / DA PUMP / Dragon Ash / 木梨憲武
- MOSSAI STAGE
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純烈(WELCOME ACT) / コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店) / ROTTENGRAFFTY / BiSH / 森山良子 / HEY-SMITH / King Gnu / coldrain
9月15日
- YASSAI STAGE
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マキタスポーツ(OPENING CEREMONY ACT) / ゴールデンボンバー / ももいろクローバーZ / 10-FEET / ACE OF SPADES / マキシマム ザ ホルモン / 田原俊彦 / 稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾 / 氣志團
- MOSSAI STAGE
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DJダイノジ(WELCOME DJ) / 打首獄門同好会 / C&K / 私立恵比寿中学 / t-Ace / 大島渚 / SUPER BEAVER / ヤバイTシャツ屋さん
番組情報
WOWOWライブにて「氣志團万博2019」を12時間にわたり独占放送決定!
初日
- 前編WOWOWライブ
2019年11月16日(土)16:00~ - 後編WOWOWライブ
2019年11月16日(土)19:00~
2日目
- 前編WOWOWライブ
2019年11月17日(日)16:00~ - 後編WOWOWライブ
2019年11月17日(日)19:00~
- 氣志團(キシダン)
- 1997年に千葉県木更津で結成。メンバーは綾小路翔(Vo)、早乙女光(Dance & Scream)、西園寺瞳(G)、星グランマニエ(G)、白鳥松竹梅(B)、白鳥雪之丞(Dr / 2014年3月より活動休止中)の6名。“ヤンクロック”をキーワードに、学ランにリーゼントというスタイルでのパフォーマンスが話題を集め、2001年12月にVHSビデオで“メイジャーデビュー”を果たす。「One Night Carnival」「スウィンギン・ニッポン」などヒット曲を連発し、2004年には東京ドームでのワンマンライブも開催。2012年からは地元千葉県にて大規模な野外イベント「氣志團万博」を主催し、ほかのフェスとは一線を画するラインナップで多くの音楽ファンの支持を集めている。また台風15号の被災地支援のための募金活動「マブダチ募金」を行っている。
2019年10月30日更新