Mr.Childrenプロデュースの延長線上

──小林さんはどういうスタンスで共同プロデュースしていたんですか？

桐嶋　小林さんは「とりあえず2人でやってみろ」という感じでした。

ryo　自分はでも、小林さんの“声なき圧力”みたいなものを感じてましたよ（笑）。周りから「小林さんに音源を提出するときは完璧なものに仕上げてからのほうがいい」って言われて。

小林　ははは（笑）。

ryo　だから、自分の中では全力で作って「どうですか？」というところまで桐嶋さんに歌の練習をしてもらったし。その結果、小林さんからはさらにすごいアレンジが返ってきて。自分も小林さんから戻ってきた音源をさらに研究して、自分の不必要な要素を削ぎ落として必要なものを大きくするという作業をしました。でも、ほんとに「小林さんはいつ作業してるんだろう？」と思いました。夏にはフェス（「ap bank fes – Reborn-Art Festival」）に出るとか、そういう刺激的な日々の合間を縫って作業されているからか、すごいひらめきが出てるんだろうなって。

桐嶋　そんな感じがしますよね。

ryo　本当に天才タイプなんだなと思いました。

──小林さん、そのあたりいかがですか？

小林　でも、この曲はryoくんが曲の始まりから終わりまで、いろんな仕掛けを用意していて。そのryoくんの狙いがちゃんと一番いい形になって伝わるためにどうしたらいいかを自分の中で検証していたんだよね。この曲は勢いがあって、歌の透明感が濁ったり歪んだりしながら広がっていくじゃないですか。ノドカの声がブーストする感じとかはryoくんとノドカの2人で制作していた時点でよく練っていたから。あとはそこに一番必要な楽器のアタックとか、音の伸びを僕は意識するだけ。それって実は僕がMr.Childrenでやってきたプロデュースワークの延長でもあるんですよ。そのうえで明らかに新しい世代が作った曲の入口を覗いてるような感覚があったんだよね。カット割りと言うか、最初から編集の視点を持って、ベーシックなアレンジを考えている感じがあるから。そのあたりは僕らの時代よりも発達してると思った。それはさっき名前が出た米津（玄師）くんの曲にも感じるし。

ryoがアコギ弾き語りでデモ制作

──話は前後しますけど、ryoさんは映画「爪先の宇宙」の主題歌であることを前提に「言葉にしたくてできない言葉を」を作ったんですよね？

ryo　いや。最初にこのシングルに入ってる3曲のうち、どれが主題歌になるかわからなくて。主題歌は小林さんが選んだんですよ。

小林　そう言えば、僕が選んだんだ（笑）。

ryo　そうですよ（笑）。制作が短期間だったから、とりあえず毛色の違う3曲を作ってみようって。それで、まずiPhoneで録ったアコギ弾き語りのデモを桐嶋さんに送って。桐嶋さんには電車でそれを聴いてもらいながらスタジオに来てもらったんです。

桐嶋　ryoさんから弾き語りのデモが送られてきたことにも驚きましたね。

ryo　そういうときもあるんです。シンフォニックな編成を使って、そこにEDM的な要素を混ぜたり、完全に作り込むデモもあるんですけど。でも、桐嶋さんくらい音楽的なボーカリストだったら、最初に自分の素に触れてもらったほうがいいと思ったんです。歌詞に関しては、3曲の中のどの曲が主題歌になるかはわからなかったけど、映画の内容は把握していました。ただ、実際に映画の中で桐嶋さんがどのように演じて、動いて、どのような画になるかわからなかったから。そこがアニメと実写の違うところですね。だから、「とりあえず全曲よければいいんでしょ！」って感じで（笑）。

桐嶋　私は「言葉にしたくてできない言葉を」の歌詞をいただいたとき、映画の原作の女の子、亜紀ちゃんについて描かれた歌なんだなと思って。でも、それと同時に私の中の私が反応してしまうような、自分で歌詞を書くとしたら絶対に人に見せたくない、弱くて繊細なことも描かれていて。

──歌の中で激しく心が動いてますよね。

桐嶋　そうなんですよ。褒め言葉なんですけど、「感情が散らかってる歌詞だな」と思って。例えばそれは自分自身が本当に伝えたいことを言いたいときに言えなくてパニックになってる感じとか。その感じが歌詞になっているのがすごいなと思って。それは映画の原作の亜紀ちゃんもそうなんですよ。そこで私と亜紀ちゃんがつながっていく部分を感じました。

ryo　すげえ……女優みたいな話をしてる！（笑） でも、実際に映画を観たときもほんとに女優さんだなと思ったんですよ。最初は「桐嶋さんだ」と思いながら観ていたんですけど、だんだん亜紀ちゃんに見えてくるんですよ。