音楽ナタリー Power Push - KIRINJI
再構築で再発見したメンバーの個性
フレンチ昭和感
──曲ごとにいろんな変化がありますよね。「進水式」のオリジナルは厚いコーラスの重なりが印象的で、MVの6人並んで歌っているシーンがKIRINJIの変化を如実に伝える内容になっていましたけど、今回のバージョンは堀込さんのギター弾き語りから始まるしコーラスも抜かれていて。骨ごと変わったような印象を受けました。
堀込 この曲はね、そんなに変えようがなかったんですよ(笑)。リズムを変えると別モノになっちゃうし、コードを変えるとよさが損なわれる。だったら今回は1人で歌ってあとでバンドが付いてくるような構成にしようと思って、思い切ってコーラスを外すというアプローチにしてみたんです。
──コトリンゴさんがメインボーカルの「fugitive」は先ほども少しお話に挙がりましたが、アレンジだけでなくボーカルの雰囲気も変わりましたね。
コトリンゴ オリジナルはシングル(ボーカルトラック1本)だったけど、今回はダブルにしていて、それがこの曲のふんわり感をよりいっそう出しているような気がします。あとアコーディオンを弾いているので、ちょっと昭和感も出ています。
堀込 昭和感(笑)。
コトリンゴ フレンチ昭和感というか、不思議な感じですごく好きです。どうしてもマイナーコードをアコーディオンで弾くと、自然と自分の中の昭和があふれてきてしまうみたいで(笑)。
堀込 「青い部屋」(推理作家、シャンソン歌手の戸川昌子が1967年にオープンさせた東京・渋谷区のサロン。2010年の閉店後は戸川の長男・NEROがそのスピリッツを継承し、全国各地でイベントを行っている)みたいなイメージ?
──なるほど。歌がなんとなく明るく聞こえるのはなぜなんでしょう?
堀込 アコーディオンを弾きながら歌うと、なんか笑ってしまうんでしょ?
コトリンゴ そうなんです。立って弾いてると体がノッてきて、足踏みしながら歌ってるとどんどん楽しくなっちゃうんです。ピアノだとそうはならないので。「fugitive」はわりと暗い内容なのに、ニヤニヤ笑ってる……。
堀込 そうそう、今回の歌はニヤニヤしてる。それはきっとライブだから起こった変化だと思うので、面白いですね。その違いをちゃんと残したいと思ったときに、ライブテイクそのままだと音質的なところとかいろいろ惜しいところが出てくるので、きちんとした形で残したいというのがあったんですよね。
新しい男性ボーカリスト
──「だれかさんとだれかさんが」は複雑なのに軽やかな元のテイストを残しつつも、演奏の雰囲気はけっこう変わっているように感じます。
堀込 元のアレンジから大きくは変わってないけど、ベースがエレキからウッドベースになったのと、ピアノがグイグイ引っ張っていく感じがあって。後半はコトリンゴショーみたくなっちゃったけど(笑)。
コトリンゴ オリジナルはエレピを弾いてたんですよ。今回はピアノだったので、楠さんと……。
堀込 そうだね。この曲は楠さんとコトリさんが派手に暴れてる。
コトリンゴ 暴れたいけどコケるみたいな……(笑)。
──楠さんと言えば、KIRINJIでは楠さんがメインボーカルを担当することもあるというのが、最初の大きな驚きでした。どうですか、ボーカリスト楠さんは。
堀込 今まで元気がいいボーカルがKIRINJIにはなかったから、やっぱりいいですね、ああいうパリッとした歌い方の人がいると。僕が「ONNA DARAKE!」みたいな曲を歌っても「ああ、いつもの感じね」で終わってたかもしれないけど、楠さんが歌うと……男前が歌ってるような(笑)。「ONNA DARAKE!」はもともと打ち込みっぽい曲でしたけど、今回はカントリースウィングというか。けっこう変わりました。この曲では楠さんと田村さんがフィーチャーされてますね。
次のページ » メンバーの個性を改めて発見
収録曲
- だれかさんとだれかさんが
- fugitive
- ONNA DARAKE!
- 狐の嫁入り
- 虹を創ろう
- 雲呑ガール
- ジャメヴ デジャヴ
- 心晴れ晴れ
- 進水式
収録曲
- 真夏のサーガ
- 水郷
<ボーナストラック>
- 虹を創ろう
- 雲呑ガール
- ジャメヴ デジャヴ
- 進水式
- アルバム「11」2014年8月6日発売 / Verve / ユニバーサルミュージック
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / UCCJ-9129 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3024円 / UCCJ-2117 / Amazon.co.jp
KIRINJI LIVE 2015
- 2015年11月21日(土)
- 東京都 EX THEATER ROPPONGI
- 2015年11月25日(水)
- 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
KIRINJI(キリンジ)
1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で結成。1997年5月にインディーズデビュー盤「キリンジ」、同年11月にマキシシングル「冬のオルカ」がリリースされると、複雑ながらポップなサウンドと独自の詞世界が大きな注目を集め、1998年にシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビューを果たした。2013年4月に泰行がグループを脱退し、同年7月より楠均(Dr)、千ヶ崎学(B)、田村玄一(Pedal Steel)、コトリンゴ(Key)、弓木英梨乃(G)の5人を加えた新体制に。2014年8月に通算11枚目にして新体制初のアルバム「11」をリリース。アルバム発表後は合計13公演のワンマンツアー「KIRINJI TOUR 2014」を開催した。また各地の音楽フェスに出演するなど、精力的なライブ活動を行っている。2015年6月には東京・Billboard Live TOKYOでワンマンライブを実施。このライブの音源をもとに、スタジオでのポストプロダクションを施してアルバム「11」を再構築した「EXTRA 11」が11月にリリースされる。