ナタリー PowerPush - キノコホテル
マリアンヌの誘惑 思惑 独白
「上に乗っちゃえば良いのよ」
──サウンド面で一点気になったのが、今回のアルバムはオルガンプレイヤーとしての支配人がかなり前面に出ているように感じたんですよ。かなり弾き倒してますよね。
そうね、弾き倒してる。
──以前支配人がTwitterに書いていた、エマーソン北村さんからの「僕もノード(Clavia社のシンセサイザー / キーボード)使ってるんだけど、どう設定したらあの音になるの?」という問いに「(本体の)上に乗っちゃえば良いのよ」って答えたという話が僕は大好きで(笑)。
いいでしょ。
──上に乗る以外の、プレイヤーとしてのこだわりはありますか?
私はライブ型というか動きあっての鍵盤弾きだと自分で思っているので、楽器と向かい合うときも脳味噌は動きのことしか考えていないの。だからレコーディングのときにすごく苦しむわけ。練習なんてしないから、まあ弾けないこと弾けないこと。ほかのメンバーは各自の録音が終わったらすぐに帰らせるんだけど、私が苦悩してる姿を見られたくないというのも理由のひとつだったりするの(笑)。こだわりも何も、苦痛でしかないわよ。でも今回、実はノードのほかに普通のハモンドオルガンも使っていて。満を持してスタジオにあったレズリースピーカーを試したのよ。「エロス+独裁」とかで使ってるんだけど。
──今までは、あえてビンテージ機材は使わないというこだわりがありましたよね。そこが単にレトロ主義ではないキノコホテルの個性にもつながっていたと思うんですけど。
そうね。ただなんとなく「スタジオにレズリーあるよ」って言うから試すだけ試そうかしら、なんて軽い気持ちで鳴らしてみたら……すごく気持ちいいのよね。今までハモンドやレズリーの本格的な音は、キノコホテルには不要だと思ってたから。でも鳴らしてみたらすごく気持ちが良くて、これは使わねばならないと思ったの。そういう意味では、今まで機材に全く興味がなかった私にも、遅ればせながらプレイヤーとしての自覚が芽生えて来たのかもしれないわね。
──支配人の気合をもってしても、さすがにこの音はでないと。
さすがにね、これは上に乗っても出ないわね(笑)。まあ次回も使うかどうかはわかんないけどね。
教えてあげない
──ここで今日の本題というか、どうしても訊いておかなければいけないことがあるんですが……。
ああ、はいはい。
──ナタリーでも記事にしました、10月31日に発表された支配人の声明文についてです。アルバムアートワークの解禁と同時に「キノコホテルは12月9日のキネマ倶楽部での公演を以て現在の4人による営業を終了致します」という支配人からの発表があり、大きな波紋を呼んでいます。これは一体……。
うふふふふ。さあねえ。教えてあげない。
──12月9日まではあくまでノーコメントなんですね。
ニュースが出た日にさ、みんな「どういうこと!?」ってなってたじゃない。それを見て私はうふふってほくそ笑んでたんだけども。Twitterなんかで様子を見てたら、みんな面白いぐらい踊らされるわね(笑)。ちょっとね、キノコホテルを見守ってる胞子たちを1カ月ほど、やきもきさせたくて。
──みんな見事にハメられてますね。先程おっしゃっていた「ほかの人が飽きるよりも先に飽きちゃう」という支配人の性格から、GSだの歌謡曲だのといった枠に勝手に押し込められないための大きな変化があるのかなという予想はあるのですが。
うんうん。まあそれもあるし、今の4人でやるのも限界が見えてきちゃったなというのもあって。「今のキノコホテルが最高」とおっしゃる人もいるけど、この判断は正しいと思う。
──キノコホテルとしての根本の部分は変わらない?
そうね。根っこごと持ち上げて新しい植木鉢に植え替えるような感じかしら。
──ちなみに今回の変化については、アルバム制作段階ですでに考えていたんですか?
いえ、そこまでは考えてなかったわ。
──アルバムに関しては単純に今やれる一番のことをやったと。
そうそう。全て録り終わって、PVも撮り終わったあとで決めたことなの。
──“新装開店”したキノコホテルの方向性については、もう具体的に決まっている?
なんとなくやりたい路線は見えているけれど。ホントになんとなくね。まあ、意味深な宣言をして、人の気持ちをかき乱して楽しんではいるけれど(笑)、実際のところすぐに定着すると思うわよ。新しいキノコホテルってことで。
──支配人は10年後、20年後まで先のビジョンを見据えていますか?
今はいろいろあって疲れてるから、ビジョンを持たないようにしてるの。風任せ的な。こうしなきゃ、ああしなきゃみたいなことをあえて考えない。新しい形になったらあとはなるようになれば。特に目標も決めてないし。ガツガツしないでフラットに、マイペースにやっていきたいわね。今はそんな感じ。自分が心の底から飽きてしまうまでは続けて行くと思うわよ、多分ね。
ニューアルバム「マリアンヌの誘惑」/ 2012年12月5日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
CD収録曲
- 四次元の美学
- 球体関節
- 業火
- 愛と教育
- その時なにが起こったの?
- エロス+独裁
- 恋のチャンスは一度だけ
- 回転ベッドの向こうがわ
- 悪魔なファズ
- #84
※限定豪華BOX盤「夜の玩具箱」のみシークレットトラック+1曲
限定豪華BOX盤付属DVD 収録内容
2012年6月16日恵比寿リキッドルーム実演会「サロン・ド・キノコ~水も滴る好いおんな」ライブ映像
- エロス+独裁
- 球体関節
- 愛人共犯世界
- もえつきたいの
- 真っ赤なゼリー
- 砂漠
- 危険なうわさ
- 回転ベッドの向こうがわ
- 非情なる夜明け
- 愛と教育
- キノコノトリコ
- キノコホテル唱歌
- 静かな森で
- キノコホテル唱歌II
- マリアンヌの恍惚
キノコホテル(きのこほてる)
2007年6月、支配人のマリアンヌ東雲(歌と電子オルガン)を中心に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2008年12月には現在のメンバーであるイザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、エマニュエル小湊(電気ベース)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)が揃った。都内を拠点に精力的な実演活動を行いながら、自主制作でシングル「真っ赤なゼリー」、会場限定CD「キノコホテル実況録盤」、映像作品「キノコホテルの夜明け~初期実演会」、CD&DVD「サロン・ド・キノコ~実況録音盤」を発表。オリジナル楽曲はすべてキノコホテル支配人・マリアンヌ東雲が手がけており、その独特の世界観は各方面から高い評価を集めている。2010年2月3日にアルバム「マリアンヌの憂鬱」でメジャーデビュー。2012年にはヤマハミュージックコミュニケーションズ内に「東雲音楽工業」を設立し、12月5日に移籍第1弾となる最新アルバム「マリアンヌの誘惑」を発表した。