結局自分が好きなことしかできない
──張替さんの作詞作曲した「渚のラプソディ」「ダージリン」は、古きよき時代の匂いがするポップチューンですね。
張替 僕はキンモクセイのために作ろうとは考えていませんでした。楽曲を提供するときもそうなんですが、自分がずっと目指しているものあって。1950~60年代あたりの3分間のポップスを自分なりに作ることを常にテーマにしているのですが、それをキンモクセイでやったらドンピシャだったんです。こういうことをバンドでやれたのはすごいと思いますね。
白井 プロデューサーの指示で一流のセッションマンが演奏するようなニュアンスだからね。
──ソングラインティングに関しても、個々の志向が反映されている?
佐々木 そうですね。結局自分が好きなことしかできないというか。僕の場合はユニコーンやBOØWY、YMOが好きで……。
──「ベター・レター」はちょっとYMOのテイストがあるかもしれません。
伊藤 YMOというか、高橋幸宏さんですね(笑)。
──確かに、この曲の歌い方は完全に幸宏さんのスタイルですね。
白井 わかってもらえてうれしいです(笑)。
佐々木 先人のスタイルを参考にするのは自然なことですから。伊藤とは以前から幸宏さんの歌の真似をして遊んでたんですけど(笑)、実際にレコーディングでやってみたのは初めてですね。「ベター・レター」はメロディもアレンジもシンプルだから「物足りないんじゃないか」という不安があって。でも、幸宏さんっぽい歌い方をしてもらったらうまく隙間が埋まったんですよ。あの歌い方は発明ですね。
──後藤さんが作曲した「ない!」はオールディーズと歌謡曲が混ざった雰囲気で、サックスも印象的でした。
後藤 このサックスを吹いているのは伊藤です。
伊藤 最初は「シンセでいいんじゃない?」って言ったんだけど、どうもしっくりこなくて。8万円くらいのサックスを買ってきて、無駄にがんばりました(笑)。吹いた経験はあったけど、イントロだけで1日かかっちゃいました。
ジャパニーズポップスとは何か?
──そして白井さん作曲の「あなた、フツウね」は80年代のポップスのテイストが強く出ていますね。
白井 自分としては「この曲は恥ずかしいな」という感じだったんですけど、伊藤が歌いたいと言うし、良も「やったがほういい」と推してくれて。
伊藤 こんな工藤静香みたいな曲をやれるバンドはほかにいないですから。
白井 「静かに香るから」という歌詞も入ってるしね(笑)。
伊藤 工藤静香さんの楽曲、本当に素晴らしいですからね。世間はどう捉えているかわからないけど、僕らは本気でリスペクトしていて。そういう音楽を自ら進んでやっているのがキンモクセイだとも思うんです。上っ面ではなく、核心をちゃんと見つめながら、本気でジャパニーズポップをやるというか。
佐々木 そうだね。
伊藤 ジャパニーズポップスとは何かと考えると、洋楽に憧れて、そのグルーヴやサウンドを解釈することで起きる化学変化だと思うんです。日本の音楽シーンは基本的にヒットチャートの文化で、ヒット曲は時代が移り変わると色褪せるんだけど、それも面白いところで。それをあえてやることがキンモクセイらしさだと感じているし、活動を再開してから「このバンドにしかできないことがある」と確信しているんです。今は迷いなく、その方向に突き進んでいますね。
白井 昔やっていたことを繰り返しているのではなくて、今の時代感に寄せているところもあって。ビートの解釈もそうだし。
張替 そうだね。音色によっても時代感が変わってくるし、当時のエッセンスを取り入れながら今のテイストにしているので。
白井 すごくベタなところとマニアックに追求している部分が両方あるんですよね。
──それこそがポップスの面白さですよね。「ジャパニーズポップス」というタイトルについては?
伊藤 出そろった曲を並べてみたとき、「ザ・ベストテン」みたいだなと思ったんです。昭和62年の夜9時、というか。
──1980年代後半、まさに日本のポップスの黄金期ですね。
伊藤 なのでタイトルも「ザ・ベストテン」がいいかと思ったんですけど、そうもいかないらしく(笑)、その後、白井と2人でファミリーレストランでアイデアを出し合って。
白井 「ジャパニーズポップス」は、伊藤がポロッと言ったんです。今回のアルバムは雑多でなんでもありなんだけど、それをまとめる言葉としてピッタリだなと。ほかのメンバーもすぐにいいねと言ってくれて。これだけジャンルがバラけている楽曲を1つのアルバムにギュッと集約するのも、以前はできなかったかもしれないですね。
──日本のポップスのよさを再発見できるアルバムですよね、本当に。
伊藤 聴いてくれた人が「これ、いつの曲? え、2019年リリース?」と思ってくれたらうれしいし、懐かしさを感じてほしいなと。
──アルバムリリース後はレコ発ライブも決まっています。この先もパーマネントな活動が続きそうですか?
伊藤 それを念頭に置くのではなくて、まずはバンドの健康ありきで考えたいんですよね。キンモクセイならではのサウンドは確実にあって、このメンバーは特別な存在だということもわかったので、音楽を続けることでギクシャクするのは本末転倒だなと。
白井 うん。
伊藤 今回のレコーディングも非常に楽しかったし、満足できる作品ができて。この実験を続けられたら面白いだろうなと思ってるんです。「また集まって実験してみませんか?」というタイミングでレコーディングして、曲ができたらリリースを考える。そういう順序で、長い目で見ながら続けられたらいいですね。
ライブ情報
- キンモクセイ「祝!GARAGE25周年! キンモクセイ レコ発ワンマン ~オオハシさん、超お久し振りです!~」
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- 2019年12月27日(日) 東京都 下北沢GARAGE
- キンモクセイちゃんとしたワンマン2020~あけおめスペシャル~
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- 2020年1月4日(土) 大阪府 Music Club JANUS
- キンモクセイちゃんとしたワンマン2020~ことよろスペシャル~
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- 2020年2月10日(月) 愛知県 Tokuzo