全国5大ドームツアー「King Gnu Dome Tour THE GREATEST UNKNOWN」の東京ドーム公演の映像作品化、常田大希(Vo, G)がSixTONESに提供した「マスカラ」のセルフカバー、1年ぶりとなる新曲「ねっこ」のリリース、さらにはファンクラブツアー開催と、King Gnuの動きがにわかに活発になりつつある。今年の春先に終了したドームツアー及びアジアツアー終幕以降は表立った活動が少なかっただけに、驚いているリスナーも多いことだろう。
音楽ナタリーでは今回、再び動き出したKing Gnuから届けられた新曲「ねっこ」をとっかかりに、彼らの“現在地”を探るべくメンバー全員にインタビュー。4人の口から放たれた言葉からは、押しも押されもせぬロックバンドとしての地位を確立させながらも、自分たちの立ち位置を冷静に分析する質実剛健な姿が浮かび上がってきた。
取材・文 / 小松香里
王道にどう変化をつけるか
──1年ぶりの新曲「ねっこ」は、先日放送がスタートしたばかりの日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(TBS系)の主題歌です。いつ頃オファーが来て、制作した楽曲なんでしょう?
常田大希(Vo, G) 最初に話をもらったのは春先だったと思います。プロデューサーの新井順子さんがKing Gnuにずっと主題歌を頼みたがってくれていたみたいで。ただ、お話をいただいたタイミングがドームツアーを終えて本当にすぐだったので、最初はちょっと腰が重かったんです。とはいえ、脚本が野木亜紀子さん、演出が塚原あゆ子さん、プロデューサーが新井さんという素晴らしいチームなので受けることにしました。ドラマの映像がまだ何も上がっていないような状態で曲作りがスタートして、8、9月に録った感じですね。わりと急ピッチでした。
──となると、何をテーマに曲を作っていったんですか?
常田 そもそもドラマのエッセンスをあまり拾わないでほしいという話があったので、そこまでストーリーとは向き合わず、でもちゃんと“ドラマを助けられるような曲”にすることを意識しました。(井口)理のど真ん中の歌モノにすることはひとつテーマとしてあって。そういった曲はこれまで定期的に作ってきているので、その延長線ではありつつ、これまでの曲とどう違いを出すかを考えました。
──まだこちらも「海に眠るダイヤモンド」の詳細がわからない段階ではありますが、曲の展開としてはピアノとストリングスに井口さんの歌で始まって秒針を刻む音が入り、そこにドラマの「70年にわたる壮大な物語」とのリンクを感じるわけですが……。
常田 その案いただきます。
井口理(Vo, Key) (笑)。
──歌詞は花がモチーフになっていて、ささやかだったり、折れない強さを持っていたり、悲しみを忘れさせたりといろいろな役割を担っています。どこから着想したのでしょう?
常田 花をベースに書いたんですけど、そもそも花が好きなんですよ。花柄とかも。
井口 え?(笑)
常田 知らなかった?
井口 まったく知らなかった。
常田 けっこう好きなのよ。
井口 イメージない。
──サウンドデザイン面ではどんなトライができたと思っていますか?
常田 最後の最後で転調しまくってるところはすごくうまく機能させられたかな。ただ、ここもKing Gnuの王道ラインの1つだよね。
井口 おいしいとこ取りの展開だよね。
井口理、レコーディング前日は眠れず
──井口さんは最初にデモを聴いたときどう感じましたか?
井口 1年ぶりにちゃんと稼ぎにきたなって(笑)。
常田 ツアーが終わってからKing Gnuの表立った活動は少ないからね。でも、俺は1年ぶりの新曲という実感はなかったけど。
井口 俺はレコーディング自体も1年ぶりだったからけっこうビビってたよ。レコーディングの前日は「うまくいくのかな?」と思って眠れなかったし。
常田 マジで?
井口 本当。直前に宇多田ヒカルさんのライブを観に行ってたんだよ。それがめちゃくちゃよくてさ。「俺も歌う側として同じ土俵ではあるよな」と思ってがんばらなきゃと。で、レコーディング当日は丁寧にいいテイク出そうとしすぎて、結果的に歌入れ全工程で10時間ほどかかってしまった。
新井和輝(B) 理、最初から「歌うのが難しい」って言ってたよね。でもあまり難しく聞こえないという。
常田 そう。「理、なんでこんな時間かかってんだろう?」と思ったから、試しに自分でCメロを歌ってみたら「無理だ」ってなった(笑)。
井口 まあ、俺の歌は難しく聞こえさせないとこあるから……。
常田 スキル的にね。自分ではっきり言えばいいのに。
井口 自分で言うのははばかられる。でも「ねっこ」は「白日」的な難しさがあるかも。
新井 「白日」は音の跳躍があるから難しいことがわかるけど、「ねっこ」はそれがあんまり感じられないんだよね。
井口 「ねっこ」はセクションごとにテクニックの求められ方が変わる感じかな。Aメロはウィスパーで始まってニュアンスを出さないといけなくて、Bメロは8分で歌のリズムを刻み続けながら、徐々にビルドアップしていくのが意外と難しいね。ラスサビ転調してからは実声と裏声の切り替えが忙しい……これ、大変だ(うなだれる)。
常田 ライブが?
井口 そう。
新井 弾いていてキーがわからなくなるくらい転調してるし。
常田 楽器隊がゲシュる(※ゲシュタルト崩壊の意)よね。
新井 そう。ゲシュる。
常田 転調しすぎて調がわかんなくなる。でも和輝はシンベをピッと上げるだけだよね。
新井 俺はキーだけメモって弾けばいいんで(笑)。でも、制作中に各セクションを行ったり来たりするので、「今やってるところの調、なんだったっけ?」みたいなことはけっこう起こってましたね。
常田 サビって結局エレベ(エレクトリックベース)使ったんだっけ?
新井 使ってる。アレンジもけっこういろいろ試したよね。
常田 ストレートな歌モノはいつも制作に難航するよね。
新井 うん。どこでベースの音を汚せるのかをいつも考えるんですけど、「ねっこ」は汚しポイントが見つけづらいくらいきれいな曲だったから難しかった。
勢喜(Dr, Sampler) ドラムも普通に叩くとどうしても平凡になってしまうので、歪ませたりいろいろやってはみたんですけど、やりすぎてしまうと曲が生きなくなるし。結局、いい具合に落とせたと思います。
常田 歌モノはどうしてもアレンジが限定的になっちゃうので、これまでとどう違いを出すかを考えるのに苦労しましたね。
──井口さんは、最新アルバム「THE GREATEST UNKNOWN」は前作「CEREMONY」と比べて曲ごとに歌のテイストを変えたり、人目を気にせず自分のやりたいことにトライして歌えたとお話ししていましたが、その変化は「ねっこ」にも生きていますか?
井口 (大希の)スタジオができて、人目を気にせず歌えるようになったことでそういう変化が生まれたんですが、「ねっこ」もその延長線上ではありましたね。アルバムのレコーディングより時間をかけられた。結果的にすごく力んで、時間がかかってしまったところはあったんですけど。
勢喜 つまり、理にとって“愛おしい遠回り”だったってこと?
井口 ……え?(笑) あー、うん、そうだね。結果いいものになってるとは思います。「THE GREATEST UNKNOWN」のリリース、ドームツアーとアジアツアーを経てもう一段階ギアが入っているんじゃないですかね。僕なりにそういう気持ちで向き合った結果が「ねっこ」です。
常田 「THE GREATEST UNKNOWN」のツアーが長かったこともあって、俺は1年もリリースが空いた実感がなかったんですけど。ツアーが終わったときに、やっとアルバムを出し終わった体感があったから。
新井 東京ドームのライブBlu-rayのミックスチェックもあったし、音源をずっと聴いてたから体感的には制作が続いてる感じだったよね。
勢喜 「マスカラ」のセルフカバーもあったし。
常田 そうだね。「MASCARA」は新曲みたいなものだからね。
次のページ »
大希は常に驚きを与えてくれる