King Gnu特集|止まらない快進撃の理由は

メジャーデビュー前から多くのメディア、音楽ライターから“2019年ブレイク最右翼”と目され、その後も快進撃を続けているKing Gnu。この特集では、今や“2020年代以降の音楽シーンを牽引する存在”と評されているこのバンドの魅力を紐解いていく。

文 / 森朋之 ライブ写真撮影 / 伊藤滉祐、小杉歩

幅広く数字を残すKing Gnuのポップネス

昨年10月に東京・日本武道館で開催されたホットスタッフ・プロモーションの設立40周年記念イベント「Hot Stuff Promotion 40th Anniversary MASAKA」におけるKing Gnuのステージはまさに衝撃的だった(参照:スカパラ、ポルカ、King Gnu、バクホンが武道館でホットスタッフ40周年祝福)。ロック、R&B、ジャズ、J-POPなどを貪欲に取り込んだ楽曲の新しさ、すさまじいばかりの爆音と高度にして緻密なアンサンブルの見事な対比、高いテクニックを駆使しつつ、生々しいグルーヴへと結び付ける演奏力、そして、ステージ全体からあふれ出すスリリングで危うい存在感。それまでもライブを観るたびに彼らの驚異的な進化を感じてきたが、日本武道館のステージに立った4人の姿からは、このバンドがすでにアリーナクラスのスケールを獲得していることが明確に伝わってきた。

「Sympa」ジャケット

昨年あたりから音楽ファンの熱い視線を集めてきたKing Gnuが予想をはるかに超えるスピードで躍進を続けている。まず注目すべきは、CDパッケージ、ダウンロード、ストリーミングサービスなど、幅広いメディアで万遍なく数字を残していること。今年1月26日発表のメジャーデビューアルバム「Sympa」は1月28日付けのオリコン週間アルバムランキングで4位(売上枚数1.7万枚 / 2019年4月時点累計3.8万枚)を記録したほか、デジタルアルバムランキングでも同じく4位(2425DL / 2019年4月時点累計10993DL)を獲得。さらにCD、デジタルダウンロード、ストリーミングを集計した合算アルバムランキングでも2.1万ポイントを記録し、3位への初登場を果たした。あいみょん、ONE OK ROCKらが上位を占めていたストリーミングチャートで「Sympa」が2位に食い込んだのは、メジャーデビュー後わずか1カ月のこと。iTunes Storeのオルタナティヴチャートで「Sympa」と2017年10月発表のアルバム「Tokyo Randez-Vous」が上位を占め続けていることからも、彼らの音楽がさまざまなメディアを介し、急速に浸透していることがわかる。コアな音楽リスナーに始まり、いまや一般的なJ-POPユーザーの間でも支持されているKing Gnu。この快進撃の理由はどこにあるのだろうか?

まずはKing Gnuのこれまでのキャリアを簡単に振り返っておきたい。メンバーは常田大希(G, Vo)、勢喜遊(Dr, Sampler)、新井和輝(B)、井口理(Vo, Key)の4人。東京藝術大学出身の常田が2015年に前身バンドSrv.Vinci(サーヴァヴィンチ)を結成した。何度かのメンバーチェンジを経て、17年にアメリカの大型フェス「SXSW」に出演し、全米7カ所でのツアーを行ったあと、King Gnuとして活動をスタートさせた。さらに同年7月に「FUJI ROCK FESTIVAL」への初出演を果たし、10月には1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」を発表。2018年に入っても、初のワンマンライブを開催し、テレビアニメ「BANANA FISH」エンディングテーマに使用された配信シングル「Prayer X」をリリースするなど、順調な活動を続けてきた。

「King Gnu One-Man Live Tour 2019 "Sympa"」東京・新木場STUDIO COAST公演の様子。

King Gnuの音楽スタイルは、“トーキョー・ニュー・ミクスチャー”と称される。ロック、ヒップホップ、ジャズ、ファンク、現代音楽などの要素が有機的に配合された音楽性は、メンバーが生み出す化学反応によるものだ。クラシックの素養を持った常田、ブラックミュージック、ジャズなどに精通している新井、ファンク、ラテンなどを好む勢喜、そして、幼少の頃から昭和歌謡、フォークなどに触れていたという井口。それぞれの異なる音楽的志向、そして個々の演奏テクニックや独創的なセンスが絡み合うKing Gnuの楽曲は、世界的にジャンルのボーダレス化が進む現在のシーンにもしっかりとリンクしている。またメインソングライターである常田は、過去にインタビューの中で「意図的にJ-POPの要素を入れている」とコメント。先鋭的なイメージが強いKing Gnuだが、その楽曲には幅広い層のリスナーに訴求するポップネスが含まれているのだ。このことも彼らの認知度が急激に上がっている大きな要因だろう。

ここから本格的なブレイクの道へ

King Gnuはメジャーデビュー前からさまざまな音楽関係者やアーティストが注目しており、デビュー後も各方面から絶賛され続けている。

このようにTwitter上で数多くのアーティストがKing Gnuの音楽に共感し、賛辞を寄せているのだ。このほか、山口一郎(サカナクション)、水野良樹(いきものがかり)も彼らの音楽性を高く評価。その影響は各メディアにも波及し、日本テレビ系「バズリズム02」内の企画「これがバズるぞ2019」で1位、TBS系「CDTV」1月度の“イチオシアーティスト”に選出された。また今年2月22日放送のテレビ朝日系「ミュージックステーション」にも初出演。「Sympa」のリード曲「Slumberland」を披露し、圧巻のステージングで大きな話題を呼んだ。

「白日」ジャケット

そしてKing Gnuは今年2月に新曲「白日」を配信リリース。日本テレビ系ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」の主題歌としてオンエアされたこの曲は、オリコンのデジタルシングルランキングでデイリー1位を獲得、さらにiTunes Store総合ランキングでも過去最高の2位を獲得した。さらにLINE MUSIC、AWAをはじめとする各ストリーミングサービスにて再生数1位を記録し、配信を中心に大きくヒットしている。

「時には誰かを 知らず知らずのうちに 傷つけてしまったり」という井口のファルセットで始まる「白日」は、叙情的なメロディライン、ブラックミュージック系のしなやかなグルーヴが共存するミディアムチューン。King Gnu本来の先鋭性と誰もが共感できる“歌モノ”としての機能を同時に体現した楽曲と言えるだろう。この曲について常田は、「大なり小なり誰しもが、罪を犯したり犯されたり、傷ついたり傷つけたりして、それでも生きているのでしょう。そんな時、心の襞にそっと寄り添い手を差し伸べてくれる 主人公・黒川拓のような存在ほど大切にしたいものです。自分の書く曲もそうでありたいと願っています」とコメント。リスナーに寄り添うような曲を書きたいという意志が込められていることも、「白日」がさらに多くのリスナーに浸透している理由なのかもしれない。

「白日」のミュージックビデオは、演奏風景をモノクロの映像で映し出した作品。危うく、スリリングなイメージもあったKing Gnuだが、このMVを通して、彼らのミュージシャンシップ、音楽に向き合う真摯な姿勢が伝わることになるだろう。4月19日現在の再生数は1350万回以上。過去のMVの再生数を大きく更新していることからも、現在の彼らの勢いが伝わってくる。

現在、King Gnuは全国ツアー「King Gnu One-Man Live 2019 "Sympa"」を開催中。「VIVA LA ROCK」「METROCK」「GREENROOM FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」をはじめ、大型フェスへの出演も続々と発表されている。また「Sympa」収録の「Sorrows」が「アサヒ ドライゼロスパーク」のテレビCM、「Hitman」がプロテニスプレイヤー大坂なおみ選手が出演するANAのグローバルCMのタイアップソングに使用されている。高い音楽性に裏打ちされた楽曲、最新のR&B、ジャズ、ヒップホップを含んだサウンドメイク、幅広く大衆にアプローチできるポップネスを同時に体現するKing Gnuは、ここから一気に本格的なブレイクの道を突き進むことになるだろう。

ツアー情報

King Gnu One-Man Live Tour 2019 "Sympa"(※全公演ソールドアウト)
  • 2019年3月7日(木) 愛知県 DIAMOND HALL
  • 2019年3月9日(土) 福岡県 DRUM LOGOS
  • 2019年3月17日(日) 大阪府 BIGCAT
  • 2019年3月18日(月) 大阪府 BIGCAT
  • 2019年3月21日(木・祝) 香川県 高松MONSTER
  • 2019年3月22日(金) 広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2019年3月30日(土) 北海道 cube garden
  • 2019年3月31日(日) 北海道 cube garden
  • 2019年4月5日(金) 宮城県 Rensa
  • 2019年4月12日(金) 東京都 新木場STUDIO COAST
  • 2019年4月15日(月) 大阪府 なんばHatch(※追加公演)
  • 2019年4月21日(日) 東京都 Zepp DiverCity TOKYO(※追加公演)