曲はここからどんどん変化していく
──井口さんがメインで歌う4曲目「Sorrows」は、アグレッシブなサウンドと内省的な歌詞のコントラストが印象的です。
常田 この曲のアレンジは「Flash!!!」で固めたものをさらに引き継いだようなイメージだったかな。つまり、グランジっぽいギターとドラムのストレートな8ビートに対して、ベースがどんどん動いていくっていう音の詰め込み方ですね。あと、この歌詞については……正直、自分は本来こんなにしみったれたことを考える人間じゃないんで(笑)。なんていうか、曲にそうさせられたんでしょうね。
井口 でも、Cメロの「信じていたもの全てを手放したっていいんだ」っていうところはすごく前向きな感じがするし、そこからギターソロに入っていくところが俺はすごく好きですね。確か、あのソロはあとから付け足したんだよね?
常田 そうそう。当初あのパートはなかったんだけど、なんとかもっとポジティブな方向に持っていきたいと思ってあのソロを加えてみたんだよね。結果として、今までのKing Gnuにはなかった曲になったなと。
井口 「Hitman」もギターソロを入れたことで生まれ変わった曲だよね?
常田 そうだね。「Hitman」のソロはちょっとQueenっぽいよね?
新井 ああ、確かにそうかも。
井口 この曲はライブだと熱量が伝わりやすいんだけど、いざ音源化するとなると、これがけっこう難しくて。
常田 ライブのときはシンプルに演奏したほうがわりと伝わりやすいんだけど、実際にその録音を冷静に聴いてみると、ちょっとアレンジがシンプルすぎるってことはよくあるよね。まあ、それでも「Hitman」はライブでやり込んできた成果がかなりダイレクトに反映されてるんじゃないかな。
──「Sympa」の収録曲は、すでにライブで披露してきた楽曲も少なくないようですね。
常田 そうですね。まだアルバムを1枚しか出してない状況でもワンマンをたくさん組んできたので、リリースしてない曲もどんどんライブでやってたんです。そこで形にできていた曲はレコーディングも比較的早く進められたし、逆にライブでまだ演奏してない曲に関しては、きっとここからどんどん変化していくんじゃないかな。
メンバーの一番カッコいいところを知ってる
──では、7曲目の「Don't Stop the Clocks」についてはいかがでしょう。「Sympa」は重厚なバンドアレンジの楽曲が大半を占めているだけに、この曲の静謐なアコースティックサウンドと井口さんの甘い歌声はとても鮮烈に響きました。
常田 まさに、理の声はこういうアコースティック編成でこそ本領を発揮するんですよね。だからこそ、ここはもうフィルターなしでシンプルに歌ってもらおうと。以前の自分だったら、多分こんなにシンプルな状態では出さなかったし、もうちょっといろんな音で飾ってた気もするんですけど、結果的にはこれでよかったなと思ってます。
井口 デモを聴かせてもらった段階で、これは僕の声に寄り添ってくれている曲だなと思いました。音域にしても、メロディラインにしても、僕が一番歌いやすいように作ってくれてるんですよね。
常田 確かににそこは前作よりもうまく作れるようになりましたね。理のいいところをさらに引き出せるようになってきたんじゃないかな。いや、これは理に限らず、遊と和輝と俺自身にもいえることですね。彼らのプレイヤーとしての一番カッコいいところを俺は知ってるつもりだし、そこさえしっかりと引き出せれば、アルバムは絶対にいいものになると思ってるんで。
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バンドをひとつ上の段階に引き上げてくれた