06ドンマイ酒場作詞:大槻ケンヂ / 作曲:内田雄一郎
──これも世界を救う話なんですね。
内田 要するに、子供の頃に感じた酒のイメージというものを……。
大槻 飲まない人が!
橘高 この人お酒飲まないんです(笑)。だから妄想の酒場なんですよ。
内田 デモの段階で雰囲気を伝えたくて、昔のサントリーウイスキーのCMのサミー・デイヴィスJr.の声を入れたりして。「コンコンチコン」とか。
大槻 歌詞に関していうと、ちょうどこの頃に新宿ゴールデン街で60年代から70年代に飲んでいた人たちのエッセイを読んでいたので、その影響もあったのかもしれないですね。俺、大人になったらゴールデン街で飲んだくれてんだろうなと思ってたけど、結局行かなかったなあ。
本城 俺もいつか行くと思ってたけど行かなかった。
内田 観光地になっちゃってるから。
大槻 1回行ったら「みうらじゅんさんのボトルよ。あんたお友達でしょ?」って言われて。いや先輩ですけどって言いつつ、飲んで空けちゃったの。そしたら後日みうらさんに「大槻くんさ、俺の飲んでもいいけど、空けたらちゃんと新しいの入れとけよ!」って怒られちゃったことがあって。「粋じゃないよ!」って。
本城 そりゃそうだ(笑)。
大槻 「ドンマイ酒場」は藤子不二雄A先生のマンガの雰囲気がありますね。この曲をオケミスのツアーでやったとき、曲中で3人でやってる会話は僕が1人で喪黒福造風に「ドンマイ、ドンマイ」って言ってました。筋少版とは違うセリフで。
橘高 セリフの配役は大槻くんが決めたんですよ。「いや、マスターは絶対本城くんだよ!」って。
内田 すぐ録れちゃいましたね。ほとんどワンテイクで。
橘高 俺は語尾の「ですな」に迷いがあったけど、声に出してるとだんだん気持ちよくなってくるんだよね(笑)。
07サクリファイス作詞:大槻ケンヂ / 作曲:橘高文彦
橘高 シャウトで畳みかけるうるさいやつが1曲欲しいなと思って作った曲です。デモの段階では適当に口気持ちいい言葉で「サクリファーイス!」って叫んでたんだけど、それがそのままタイトルになるとは思わなかったから驚きました。仮歌の言葉がタイトルになったのは、たぶん初めてじゃないかな?
大槻 今回のアルバム収録曲の中で最後に作った歌詞なんですけど、「いわゆるハードロックではこういう曲に『サクリファイス』っていうタイトルを付けて普通に『サクリファイス』って歌うんだろうなあ、俺はそれだけはやるまい」と思いながら歌詞を書いているうちに、「あ?」と気付いたら自分も「サクリファイス」と連呼することになっていた珍しいケースですね。最初「こういう激しいサビで『ご褒美(頂戴)』って歌ったら面白いな」くらいのことしか考えてなかったのに、サクリファイスは生贄という意味、つまり神から見ればご褒美的な要素につながっていくのでしなかった。こういうこともあるんだなあと驚きました。
──歌詞にも登場する“長いギターバトル”も聴きどころです。
橘高 ここ最近は三柴くんのピアノと橘高のリードギターでバトルする曲が多かったけど、大槻くんから「ひさしぶりにおいちゃんとのギターバトルがアルバムに入ってたらうれしいなあ」と言われて。最初「ハリウッドスター」でリクエストもらったけど、やるんだったら「サクリファイス」だなと思って、おいちゃんと相談したんです。
本城 「これでいいのだ」「イワンのばか」以来のギターバトルだよね。
橘高 大槻くんのボーカルも本当はもうちょっと低いキーでシャウトするイメージだったんだけど、歌入れのときに大槻くんが「もっと高いところでシャウトしたほうがよくないかな?」って提案してくれて。31年目にして再びシャウターとしての大槻ケンヂを前面に押し出した曲ができたのはとてもいいことだなと思う。今までいろいろトライしながら歩んできた筋少の歴史がここに集約されてきてるなと感じますね。
大槻 歌詞ってたまに自分の中でまとまりきらないことがあるんですけれども、そういうのが悪い歌詞なわけでもなくて、逆に聴く人にインスピレーションを与える場合もあるんです。だから、この曲は自信を持ってまとまりきらない歌詞を書こうと思いました。ちなみに「以前彼女は本をくれた 乳母車と深夜すれ違う」という歌詞は、昔読んだ氷川瓏という作家の「乳母車」という探偵小説をモチーフにしています。
08直撃カマキリ拳!人間爆発作詞:大槻ケンヂ / 作曲:本城聡章
──1970年代の東映アクション映画を彷彿とさせるタイトルです。
大槻 あれでしょ? 「激突! 殺人拳」とか「直撃地獄拳 大逆転」とか。タイトルはそのあたりがモチーフです。あの頃の東映はこういうのいくらでもあるからね。「やくざ残酷秘録 片腕切断」なんてのもあったなー。
内田 「片腕切断」ってタイトルで客は入るのかね?(笑)
本城 この曲のタイトルはひさしぶりに「来たー!」と思った。
橘高 三柴くんは全曲渡したときに「これがリード曲だろ?」って言ってたね(笑)。
大槻 いや、それほかの人にも言われた。軽快なロックンロールだから。
本城 ひさしぶりにストレートなロックンロールを作ってみようかなと思って。ちょっと前に大槻くんのイベントで、僕が高校時代に大好きだった曲をみんなで一緒に聴いたら、その頃の血がたぎってきて。
内田 軽音部魂が。
本城 そう(笑)。そのタイミングでこの歌詞が送られてきたから、「やっぱりそこ行くか、もうバツグンだな」と思いましたね。
橘高 「イントロのフレーズから拳法を連想させる」と言われて、歌詞を見たらもうそれにしか聴こえなくなって。これがみんなから「詞先?」って言われるやつか、なるほどなと思った。
本城 昔だったら掛け声を「オイ!」にしていたはずのところも「ハーッ!」しかありえない(笑)。見事でした。
大槻 「枕投げ営業」「ネクスト・ジェネレーション」「3歳の花嫁」みたいに、おいちゃん作曲、僕が作詞で、フリからオチまで話がまとまっている曲がたまにあるんですけど、これもそうです。オンエアするときに最後まで聴かせないと意味をなさない部分もあるからシングルにはなりにくいんですけど。
橘高 この曲は大槻くんのブルース・リーのシャウトが素晴らしくてスタジオでめっちゃ褒めたの。そしたら「今回のレコーディングが始まってから、初めてブルース・リーで褒められた!」って喜んでて。
内田 ははは!(笑)
本城 最初本物だと思ってたもんね。「これ大丈夫なの? 勝手に使って」って(笑)。しかもさすが大槻くん、テイクワンで一発オッケー。
大槻 子供の頃、怪鳥音入りのレコードをヘビーリピートしてましたからね。マニアならではの男心ってやつですよ。男心といえば今回のアルバムには「女性はわからん」「男はダメね」っていう昭和歌謡の重要なテーマが入ってる気もします。