「パララックスの視差」は世界で誰よりも武田鉄矢さんに聴いてほしい
──「パララックスの視差」の歌い出しは小椋佳さん作詞、井上陽水さん作曲の「白い一日」へのオマージュですね。
大槻 そうです。「白い一日」の歌詞は「真っ白な陶磁器」ですけど、これは「真っ白な掃除機」にして。と言うのもずいぶん昔、武田鉄矢さんが「この歌を聴いたとき天才だと思った。真っ白な掃除機をテーマにするとはすごい。でも、よくよく聴いたら陶磁器でガッカリした」って話をしていて。以来、僕はいつか真っ白な掃除機の歌を作ろうと思ってたんです。なので「パララックスの視差」は世界で誰よりも武田鉄矢さんに聴いてほしい!
一同 ははは!(笑)
大槻 ボーカリストとして言うと、今回はちょっと筋少にしてはキーが低い曲がいくつかあって。それがアルバムの色を出してると思うんです。「おまけのいちにち(闘いの日々)」(2015年リリースのアルバム)に入っている「夕焼け原風景」も、最初はキーがもっと低かったんだよね。それで朗々と歌ったら「俺、ささきいさおさんみたいだなあ。『さらば地球よ』(『宇宙戦艦ヤマト』)だなあ」って思って。それもあって今回の「宇宙の法則」では僕の中のささきいさお魂が燃えました。
──たしかにヤマト感ありますね。
大槻 「ネクスト・ジェネレーション」もけっこうキーが低いんですけど、これは橘高くんから「Tyrannosaurus Rex時代のマーク・ボラン的な解釈で」と言われて、なるほどなと思って。お母さんと娘が同じ男と付き合っていたっていうこの歌詞は、聴きようによってはちょっとアンモラルにも感じられるんですけど、そういうんじゃないんです。僕としてはタイムトラベルもののSFコメディの序章のつもりで作った歌なんです。このあとお母さんと娘の心と体が入れ替わるっていう、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか「フォーチュン・クッキー」を彷彿とさせる話になります。
──筋少を長年追いかけてきた女性ファンなら、むせび泣くんじゃないでしょうか。
大槻 僕が筋肉少女帯の次のアルバムでチャレンジしたいものの1つに四十代以上の女性の恋愛の歌があるんです。ただ、そういう詞は洋邦問わずあまりないから、新ジャンルへのチャレンジになりますね。
橘高 十代のファンが付いていけなくなるかも。
大槻 筋少も今や2世代、へたすると3世代にわたって聴かれるアーティストになってるからね。今年「夏の魔物」に筋肉少女帯で出たときもアイドルやミュージシャンの若い女の子に「再結成後の筋少、聴いてました」と言われましたけど、我々にとってはたかだか10年ちょっと前でも、彼女たちにしてみればちょうど思春期だったわけですから。しみじみしたなあ。そういう若い子がライブに来てくれるのはありがたいなあって。
橘高 昔から「初めて観たロックコンサートは筋肉少女帯です」って言ってもらえるバンドだったけど、いまだに多いもんね。やってる側としても最初のインパクトを与えられたというのはうれしいね。
大槻 「I,頭屋」で「生まれ変わってもまた追いかけてもらおうじゃねぇか! キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン!」って叫んでますけど、いい心意気ですよね。
資生堂とかカネボウのCMソングをイメージして作ったんですけど
──「オカルト」がアルバムリード曲というのも攻めてますね。
大槻 キャリアが長いとメーカーさんからもロック界からも放し飼いと言うか(笑)、「好きにやりなさい」って言われるわけです。そして好き放題やった結果、どんどん音楽的保守層の好みと乖離していくという(笑)。今回コンサバティブなリスナー向けの曲は「衝撃のアウトサイダー・アート」ぐらいかな? 僕の中ではこれ、80年代の資生堂とかカネボウのCMソングをイメージして作ったんですけど。でもテーマがアウトサイダーアートか。
本城 うーん……さすがに資生堂のCMソングではないかな(笑)。
大槻 ないかあ(笑)。でも、アウトサイダーアートみたいな言葉を出してくるのは80年代のコピーライターの定番の手法ですよ。ジュリー(沢田研二)の「恋のバッド・チューニング」とか。そうかあ……「宇宙の法則」も「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」も一般の人に伝わる歌詞を書いたつもりだったけど。
橘高 マスタリングエンジニアの前田(康二)さんは「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」を聴いて「これ、シングルだろ」って言ってたよ(笑)。
大槻 ああ、これシングルだったかもしんないね。ただ、ラジオのパワープレイ用にしてはちょっと尺が長いんだ。
内田 「ケンヂのズンドコ節」がリード曲って案もあったね。
大槻 そしたら前作での「エニグマ」に続いて、アルバムで一番摩訶不思議な曲がリード曲になるところだった(笑)。
「筋少動画02」は「2001年宇宙の旅」
──「ザ・シサ」というアルバムタイトルに関しては?
大槻 これはウォーレン・ベイティが主演した「パララックス・ビュー」(=視差)という、ちょっと変わった映画があって。話自体はたいしたことないんだけど、同じ対象物が視点が変わることによってまったく別のものに見えるというのが、僕は非常に面白いと思ったんです。それがずっと頭の中にあったので、メジャーデビュー30周年を機に「人間の営みをいろんな人が見た結果、視差が生じる」という話を書いてみようと思い、視差をアルバムのテーマにしたんです。
──唯一無二でありながら、間口の広い、いろんな人に届くアルバムになったと思います。
橘高 「ザ・シサ」というタイトルになったとき、筋少らしくていいなと思った。と言うのも、メンバーそれぞれがバンドの歴史を振り返るといい意味で「いや、こんなつもりじゃなかった」の応酬なんだよね。
大槻 同じ光景を見てたはずなのにね。
橘高 さらにリスナーとの視差もあるから、アルバムを聴いて、このインタビューを読んで、「全然私はそう思わないです」って人がいてもいい。それが筋少だから、それぞれの視差を楽しんでもらえるといいよね。
──内田さんが編集したレア映像集「筋少動画02」も合わせてぜひ、ですね。
内田 昔の民生機で撮ったオフショット映像がダラダラと流れるだけですけど(笑)。
大槻 いち視聴者として言えば、1作目も摩訶不思議だった「筋少動画」がさらに説明を排除したものになっていて、内田くんは本当に独特の映像感覚を持ってるなと思った。かのスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」は当初入ってたナレーションを最終的に全部省いたゆえにあのような神秘的な映画になったんだって。だからキューブリック的なんだよ。「筋少動画02」は内田にとっての「2001年宇宙の旅」!
内田 なるほど。
大槻 これ、もし映画館で上映するならポレポレ東中野とかがいいよね。
内田 ……「筋少動画03」も作りますよ。5年後ぐらいに。
大槻 えっ! ここで制作宣言?(笑)
橘高 次はめっちゃナレーション入ってたりして(笑)。 まだまだネタはあるもんね。
本城 じゃあ、35周年で!
- 筋肉少女帯「ザ・シサ」
- 2018年10月31日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
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初回限定盤A [CD+Blu-ray]
5400円 / TKCA-74724 -
初回限定盤B [CD+DVD]
4860円 / TKCA-74725 -
通常盤 [CD]
3240円 / TKCA-74726
- CD収録曲
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- セレブレーション
- I,頭屋
- 衝撃のアウトサイダー・アート
- オカルト
- ゾンビリバー ~ Row your boat
- なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?
- 宇宙の法則
- マリリン・モンロー・リターンズ
- ケンヂのズンドコ節
- ネクスト・ジェネレーション
- セレブレーションの視差
- パララックスの視差
- 初回限定盤付属Blu-ray / DVD収録内容
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- 筋少動画02
内田雄一郎(B)が編集した、メンバーのオフショットなど貴重映像が満載された筋肉少女帯のレア映像集。1990年発表のアルバム「月光蟲」のレコーディング風景や、ミュージックビデオ撮影時のオフショット、さらには移動時 や ステージ裏のシーンを含むライブ映像など、1990年代の筋少の記録が収録されている。
※大槻ケンヂ(Vo)による「筋少動画02」のライナーノーツも付属。
- 大槻ケンヂミステリ文庫(オケミス)「アウトサイダー・アート」
- 2018年12月5日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
オワリカラ、および高橋竜がプロデュースを手がけたライブレコーディングアルバム -
[CD] 3240円
TKCA-74739
- 収録曲
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- 探偵はBARにいてGHOSTはブレインにいる
- 退行催眠の夢
- オーケンファイト
- ぽえむ
- 去り時
- 美老人
- スポンティニアス・コンバッション
- タカトビ
- 奇妙に過ぎるケース
- 企画物AVの女
- 公演情報
筋肉少女帯「メジャーデビュー30周年記念
オリジナルNew Album『ザ・シサ』リリース・ツアー」 -
- 2018年11月10日(土) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2018年11月18日(日) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年11月23日(金・祝) 東京都 渋谷ストリームホール
- 2018年12月9日(日) 東京都 マイナビBLITZ赤坂
- 大槻ケンヂミステリ文庫 2019年ツアー
- 2019年1月13日(日) 大阪府 Music Club JANUS
- 2019年1月14日(月・祝) 岡山県 DESPERADO
- 2019年1月25日(金) 愛知県 ElectricLadyLand
- 2019年2月6日(水) 東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- 筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)
- 1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」でシングル「地獄のアロハ」を発表。2016年10月にベストアルバム「再結成10周年パーフェクトベスト+2」を発売し、2018年10月にはメジャーデビュー30周年を記念したオリジナルアルバム「ザ・シサ」をリリースした。