ボーカリストたるもの、一度は自分のズンドコ節を歌いたい
──内田さんは「ケンヂのズンドコ節」と「パララックスの視差」です。
内田 僕は今回Vocaloidっぽいソフトを導入して、仮歌を男性声の「ラララ」で入れたんですけど、オーケンの歌詞がドンピシャで来なかったんです(笑)。
一同 ハハハ!(笑)
大槻 それはおそらく、あのソフトはメロがはっきりしてないからだよ。歌声がふわっとしてた。
内田 チェット・ベイカー風のちょっと鼻にかけた声だから、歌詞もそっちに引っ張られる感じがあったね。
大槻 アンニュイになる。あれは仮歌としては難しかった。
内田 そうか……じゃあ、試行錯誤してみます。歌詞を乗せづらいというのがわかりました。
橘高 30年やっても試行錯誤(笑)。
大槻 「ケンヂのズンドコ節」はボーカリストたるもの、一度は自分の名前を付けたズンドコ節を歌いたいなと思いまして(笑)。
橘高 30年やってきたんだから、もういいよね、名前付けても。
──これまで小林旭さん、ザ・ドリフターズ、氷川きよしさんなどそうそうたる方々がタイトルに冠していますね。
大槻 いろんな人が歌ってますけど、僕はやっぱり小林旭のイメージが強いです。
橘高 お父さんが小林旭ファンだったんだっけ?
大槻 そうそう(笑)。
内田 「パララックスの視差」は最初、オーケンから「これ、大丈夫なの?」ってメールをもらったんだよね。
大槻 いや、デヴィッド・ボウイが歌ったら名曲になるだろうけど、この歌、難しすぎるでしょって(笑)。この曲は僕から「これは80年代のKing Crimsonみたいにしよう」って提案したんです。ハードロックギタリストに80年代クリムゾン的なポリリズムを弾いてもらうのはロック小僧として長年の夢だったので。
内田 いろいろやった結果、クリムゾンというよりはフィリップ・グラスになった感じかな。演奏は大変だろうけど、せっかく弾ける人がいるんだからやっちゃえっていう。
橘高 俺も2人の会話を「それいいじゃん」って人ごとみたいに聞いてたけど、「あ、弾くの俺か!」と思って(笑)。前回の「エニグマ」から続く、「せっかく鍛錬してきたプレイヤーがいるんだからやっちゃえばいいじゃん」ですね。
大槻 実現したときは感無量でした。ヌーヴォメタル(King Crimsonが提唱したジャンル名)ならぬヌーヴォ筋少ができた!
「筋少で『ヘイ・ユウ・ブルース』をカバーするなら俺はバンドを辞める」事件
──橘高さんは「衝撃のアウトサイダー・アート」「ゾンビリバー ~ Row your boat」「宇宙の法則」「マリリン・モンロー・リターンズ」の4曲です。
橘高 僕はこの30年で培ってきたメロディアスでロマンティックなヘヴィメタルというものが、1つ自分のスタイルになったことについて、筋少に感謝しているんです。「僕の歌を総て君にやる」とか「小さな恋のメロディ」路線は、筋少でなかったら書いてなかっただろうなって。それと、今年5月に西城秀樹さんがお亡くなりになったことも、今回の曲を作るうえで大きな出来事でした。90年代に秀樹さんのトリビュートアルバムで「傷だらけのローラ」をGACKTくんと一緒にやったんですけど、秀樹さんが僕のアレンジをすごく気にいって「NHK 紅白歌合戦」でもそのアレンジで歌ってくれたり。結局実現しなかったけど「曲を書いてほしい」ともお願いされていたんです。なので今回、書きかけだった“秀樹メタル”を完成させる気持ちで作ったのが「衝撃のアウトサイダー・アート」です。きっと筋少でやっても似合うだろうなと思って。
──そういう思いがあったんですね。
橘高 「ゾンビリバー ~ Row your boat」は、ともすれば自分はテクニカルなヘヴィメタルを書きがちな癖があるので、ヘッドバンギングして騒ぐだけのヘヴィメタルってひさしく書いてなかったなと思って。大槻くんから「この曲の間奏は思う存分やってください」ってメールをもらったから言われた通り存分にやったら、さすが大槻ケンヂ。そこに小芝居を入れてきました。
大槻 僕の中ではハードロックとPink Floydの融合のつもりだったんだけどね。
橘高 あそこがプログレッシブな場所なんだ?(笑) 「宇宙の法則」は、仮タイトルを「アニバーサリー」にしていたくらい、筋少でいろいろ見てきた景色を思い浮かべながら書いた曲です。「30年いろいろあったな。そしてこれからもいろいろあるんだろうな」なんていう、ちょっとロマンティックな自分の気持ち。ダビングのときに大槻くんから「宇宙的なギター」というリクエストが来たんだけど、さっき言った通り歌詞が早いうちに完成していたから、そのリクエストを聞いてなるほどと思って、Bostonのアルバムジャケットを見ながらディレイタイムを決めて宇宙船が飛んでるような音を入れました。
──「来世でも再びお逢いしましょう」という歌詞も実に筋少らしいです。
橘高 「マリリン・モンロー・リターンズ」は、もともと2つあった曲をかけ合わせたものなんです。「断罪!断罪!また断罪!!」(1991年リリースのアルバム)を作る頃に、大槻くんから「筋少の次のアルバムに左とん平さんの『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』のカバーを入れたい」という話がありまして。僕も「ヘイ・ユウ・ブルース」は大好きだったけど、そのときは「僕たちはまだまだいっぱい曲が書けるんだから、カバーに頼らず世の中にオリジナルで問おうじゃないか」という気持ちがあったので、「筋少でカバーするなら俺はバンドを辞める!」とまで言ったんです。そのことに責任を感じてまして……。
内田 そんなことすっかり忘れてたよ!(笑)
橘高 あったんです。だから俺はちょっとここでみんなに「あのときは言いすぎた、悪かったね」と言いたくて。なのでオリジナルな「ヘイ・ユウ・ブルース」を俺がお返しに書かなきゃいけない思って作った曲が1つ。もう1つは「バングラビート的なヘヴィメタルをやりたい」というテーマで書いた曲です。そしたら大槻くんから「この2曲、合体できない?」という提案があって。おかげでコロコロ情景が変わる面白い曲になりました。俺がバングラだと解釈した音が津軽三味線風になったのもイタコっぽくて筋少らしいし、「ヘイ・ユウ・ブルース」のお詫びもできたし、よかったです。
大槻 「マリリン・モンロー・リターンズ」は野坂昭如さんが「マリリン・モンロー・ノー・リターン」って歌っていたから、逆にマリリン・モンローがあの世から帰ってくる曲はどうかなと思って。昔のテレビ番組でよくイタコにモンローを呼んでもらって、それを見てみんなでゲラゲラ笑うのがあったけど、そのモンローがもし本物だったらってネタをずっと考えていて、今回歌詞にしました。
──大槻さんの歌詞も全編にわたって冴え渡ってますね。
大槻 前作の「エニグマ」の「トコイ トコイ」っていう歌詞は諸星大二郎先生の「闇の中の仮面の顔」に登場する言葉だったんですけど、今回の「I,頭屋」の歌詞も同じく諸星先生の「鎮守の森」という短編マンガがモチーフです。
──「ゾンビリバー ~ Row your boat」の「Row Your Boat」は、映画「ダーティハリー」に登場する歌ですね。
大槻 そうそう。「ダーティハリー」に、バスジャックした犯人が子供たちに「漕げ漕げ漕げよ、ボート漕げよ ランランランラン 川下り」という歌を無理やり歌わせるシーンがあって。本当はその日本語吹き替え版の訳詞を使う予定だったんですけど、権利問題をクリアにするのが大変でこの形になりました。
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「パララックスの視差」は世界で誰よりも武田鉄矢さんに聴いてほしい
- 筋肉少女帯「ザ・シサ」
- 2018年10月31日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
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初回限定盤A [CD+Blu-ray]
5400円 / TKCA-74724 -
初回限定盤B [CD+DVD]
4860円 / TKCA-74725 -
通常盤 [CD]
3240円 / TKCA-74726
- CD収録曲
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- セレブレーション
- I,頭屋
- 衝撃のアウトサイダー・アート
- オカルト
- ゾンビリバー ~ Row your boat
- なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?
- 宇宙の法則
- マリリン・モンロー・リターンズ
- ケンヂのズンドコ節
- ネクスト・ジェネレーション
- セレブレーションの視差
- パララックスの視差
- 初回限定盤付属Blu-ray / DVD収録内容
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- 筋少動画02
内田雄一郎(B)が編集した、メンバーのオフショットなど貴重映像が満載された筋肉少女帯のレア映像集。1990年発表のアルバム「月光蟲」のレコーディング風景や、ミュージックビデオ撮影時のオフショット、さらには移動時 や ステージ裏のシーンを含むライブ映像など、1990年代の筋少の記録が収録されている。
※大槻ケンヂ(Vo)による「筋少動画02」のライナーノーツも付属。
- 大槻ケンヂミステリ文庫(オケミス)「アウトサイダー・アート」
- 2018年12月5日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
オワリカラ、および高橋竜がプロデュースを手がけたライブレコーディングアルバム -
[CD] 3240円
TKCA-74739
- 収録曲
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- 探偵はBARにいてGHOSTはブレインにいる
- 退行催眠の夢
- オーケンファイト
- ぽえむ
- 去り時
- 美老人
- スポンティニアス・コンバッション
- タカトビ
- 奇妙に過ぎるケース
- 企画物AVの女
- 公演情報
筋肉少女帯「メジャーデビュー30周年記念
オリジナルNew Album『ザ・シサ』リリース・ツアー」 -
- 2018年11月10日(土) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2018年11月18日(日) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年11月23日(金・祝) 東京都 渋谷ストリームホール
- 2018年12月9日(日) 東京都 マイナビBLITZ赤坂
- 大槻ケンヂミステリ文庫 2019年ツアー
- 2019年1月13日(日) 大阪府 Music Club JANUS
- 2019年1月14日(月・祝) 岡山県 DESPERADO
- 2019年1月25日(金) 愛知県 ElectricLadyLand
- 2019年2月6日(水) 東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- 筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)
- 1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」でシングル「地獄のアロハ」を発表。2016年10月にベストアルバム「再結成10周年パーフェクトベスト+2」を発売し、2018年10月にはメジャーデビュー30周年を記念したオリジナルアルバム「ザ・シサ」をリリースした。