幾度ものメンバーチェンジや活動凍結期間を経ながらも、一貫してオリジナリティあふれる作品を世に放ち続けてきた筋肉少女帯。1988年にアルバム「仏陀L」およびシングル「釈迦」でメジャーデビューしてから今年で30周年を迎えた彼らは、これを記念した新作オリジナルアルバム「ザ・シサ」を完成させた。
音楽ナタリーでは今回もメンバー4人に集まってもらいインタビューを実施。アルバム収録曲の制作エピソードや楽曲に込められた思いなどについて、それぞれに語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 草場雄介
30年やってきて初めて、リズム録りの時点で歌詞が全部できあがっていたんです
──昨年の「Future!」から1年というハイペースで再び全曲書き下ろしの素晴らしいアルバムが完成しました。メジャーデビュー30周年突入記念作ですが、皆さんそのあたりは意識して制作に臨んだんでしょうか?
内田雄一郎(B) 内田はあまり気にする暇がなかったですね。特に僕の曲は、原型からどんどん内容が変わっていったので。
橘高文彦(G) 案外当事者は意識しないかもしれないね。僕とおいちゃん(本城)はメジャーデビュー半年後に加入したので、正しくは29.5周年なんです。なのでここは1つオリジナルメンバーの大槻くん、内田くんに「おめでとう。そしてありがとう」という気持ちを込めて。
大槻ケンヂ(Vo) おお、ありがとうございます!
橘高 そして29.5年やってきた誇りと自分らしさをふんだんに入れることが筋少のためになると思って、まだまだやれてなかったことはなんだろうという、その両面に焦点を絞ってソングライティングおよびプロダクションを心がけました。
内田 じゃあ、半年後にお祝いだね。
橘高 来年2月7日で僕とおいちゃんは満30周年!
本城聡章(G) 僕も同じく29.5周年なので、自分が祝われるというよりは筋少をお祝いしようという気持ちで曲作りに入りました。1曲目の「セレブレーション」もベタだけど、やっぱり今これを作らないと始まらないなみたいなところはありますね。あとは「Future!」の延長線上でまた何か違うものを作りたい気持ちと、1990年代後期筋少の雰囲気のものを作りたいなという気持ちはありました。
橘高 今年6月に90年代のアルバム4枚(「レティクル座妄想」「ステーシーの美術」「キラキラと輝くもの」「最後の聖戦」)のリマスター盤を、それぞれにボーナストラックを追加してユニバーサルからリリースして、そのあとでこの制作に入ったので90年代の筋少を思い出したというのはあるかもしれないね。
大槻 僕は歌詞で言うと、「I,頭屋」は確実に30周年を考えて作りました。30年間やってきてどうなったという歌です。「セレブレーションの視差」「ネクスト・ジェネレーション」「パララックスの視差」も、もしかしたら意識したのかもしれない。どっちかわかんないのが「ゾンビリバー ~ Row your boat」。この“ゾンビリバー”が表すのが筋肉少女帯なのか、人生そのものなのかは聴いた人にそれぞれ考えていただければという感じですね。
橘高 あと、筋少は基本的に歌詞先と思われがちですけど、今回のアルバムはこの30年やってきて初めて、リズム録りの時点で歌詞が全部できあがっていたんです。もちろん途中いくつか変更はありましたけど、アルバムの歌詞の全貌が見えてる状態から作ったのは初めてだったので、それがとてもよかったんじゃないかな。大槻くんが要望してくることも見えやすかったし。
大槻 しかも僕は「ザ・シサ」の前にソロプロジェクト「大槻ケンヂミステリ文庫」、略してオケミスのアルバム用に9曲作ってるんです(参照:筋肉少女帯30周年記念アルバム詳細、大槻ケンヂはソロプロジェクト“オケミス”始動)。ちなみに筋少のアルバムタイトルは当初「ザ・シサ」ではなく「アウトサイダー・アート」になる予定だったんですけど、それは最終的に12月発売のオケミスの1stアルバムタイトルになりました。
橘高 面白いよね。そのリンクしていく感じ。
大槻 ねえ? 「ザ・シサ」にも「オカルト」って曲があるけど、オケミスの「アウトサイダー・アート」はオカルトネタがとても多いんです。最近オカルト的なものをどうポエトリーに仕上げるかが僕の中でブームになっていて。
試行錯誤してたどり着いた、韓国語で曲を書くこと
──それでは今回の収録曲がどうやってできあがっていたか、お一人ずつお聞かせください。まずは「セレブレーション」「I,頭屋」「オカルト」「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」「ネクスト・ジェネレーション」「セレブレーションの視差」を作曲した本城さんから。
本城 前作の収録曲「オーケントレイン」ではオーケンにメロディを歌わせないという試みをやったんですけど、今回はその進化系としてAメロに歌メロがないものばかり意識的に作ってみました。そうした中、仮歌の入れ方をずっと考えていて……というのも、曲を渡すときメロディにすでに言葉が乗っているとオーケンが歌詞を書くうえで困るわけです。それが昔からの悩みどころで。
橘高 仮歌の段階で言葉の意味がはっきりしてると想像をふくらませにくいもんね。
本城 だからといって「ラララー」だと自分の思い通りに表現できないし、英語にしちゃうと日本語を乗せたときに音数が合わない。そうして試行錯誤する中、ここ2年ぐらい韓国語を勉強して、適当な平仮名とミックスして仮歌を書くことにしたんです。そうすることでイントネーションや発音はイメージ通りにできつつ、日本語として聴こえないものが作れると思って。オーケンのすごいところは、そうやって僕が考えた音にほぼドンピシャに歌詞を乗せてくるところなんですよ。
大槻 「オカルト」の「フライング・ヒューマノイド」って歌詞がピタッとはまったときはうれしかったねえ(笑)。
本城 俺もあれ聴いたときすげえと思った。最後「オカルト」で終わるあたりも完璧でした。なので曲作りについては、しばらくこのやり方を推し進めて行こうと思っています。
大槻 「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」はデモ音源を聴いたとき、「80年代のHOUND DOGで大友康平さんがシャウトしているみたいなすごい健康的な曲を作ってきたなあ。こりゃまいった!」と思って。それで僕が常々思っていた「なぜ人を殺してはいけないのか──それは周りの人が迷惑するからだ。葬式とか通夜に行かなきゃいけないし、だいたいロックミュージシャンなんてスカとかやってる人以外は黒いスーツなんて持ってないんだから」という思いを当てはめてみました(笑)。
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ボーカリストたるもの、一度は自分のズンドコ節を歌いたい
- 筋肉少女帯「ザ・シサ」
- 2018年10月31日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
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初回限定盤A [CD+Blu-ray]
5400円 / TKCA-74724 -
初回限定盤B [CD+DVD]
4860円 / TKCA-74725 -
通常盤 [CD]
3240円 / TKCA-74726
- CD収録曲
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- セレブレーション
- I,頭屋
- 衝撃のアウトサイダー・アート
- オカルト
- ゾンビリバー ~ Row your boat
- なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?
- 宇宙の法則
- マリリン・モンロー・リターンズ
- ケンヂのズンドコ節
- ネクスト・ジェネレーション
- セレブレーションの視差
- パララックスの視差
- 初回限定盤付属Blu-ray / DVD収録内容
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- 筋少動画02
内田雄一郎(B)が編集した、メンバーのオフショットなど貴重映像が満載された筋肉少女帯のレア映像集。1990年発表のアルバム「月光蟲」のレコーディング風景や、ミュージックビデオ撮影時のオフショット、さらには移動時 や ステージ裏のシーンを含むライブ映像など、1990年代の筋少の記録が収録されている。
※大槻ケンヂ(Vo)による「筋少動画02」のライナーノーツも付属。
- 大槻ケンヂミステリ文庫(オケミス)「アウトサイダー・アート」
- 2018年12月5日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
オワリカラ、および高橋竜がプロデュースを手がけたライブレコーディングアルバム -
[CD] 3240円
TKCA-74739
- 収録曲
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- 探偵はBARにいてGHOSTはブレインにいる
- 退行催眠の夢
- オーケンファイト
- ぽえむ
- 去り時
- 美老人
- スポンティニアス・コンバッション
- タカトビ
- 奇妙に過ぎるケース
- 企画物AVの女
- 公演情報
筋肉少女帯「メジャーデビュー30周年記念
オリジナルNew Album『ザ・シサ』リリース・ツアー」 -
- 2018年11月10日(土) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2018年11月18日(日) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年11月23日(金・祝) 東京都 渋谷ストリームホール
- 2018年12月9日(日) 東京都 マイナビBLITZ赤坂
- 大槻ケンヂミステリ文庫 2019年ツアー
- 2019年1月13日(日) 大阪府 Music Club JANUS
- 2019年1月14日(月・祝) 岡山県 DESPERADO
- 2019年1月25日(金) 愛知県 ElectricLadyLand
- 2019年2月6日(水) 東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- 筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)
- 1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」でシングル「地獄のアロハ」を発表。2016年10月にベストアルバム「再結成10周年パーフェクトベスト+2」を発売し、2018年10月にはメジャーデビュー30周年を記念したオリジナルアルバム「ザ・シサ」をリリースした。