木梨憲武「木梨ソウル」インタビュー|仲間と楽しいことをやる! 木梨憲武の音楽的ルーツを知る (2/2)

歌謡曲世代がプロデュースしたソウルミュージック

──ちなみに最近、面白いトピックはありましたか?

新浜レオンですね。「全てあげよう」って曲は僕がプロデュースしました(参照:新浜レオン全国ツアー初日公演、木梨憲武も駆けつけお祭り騒ぎに)。まだ20代の演歌歌手なのに西城秀樹さんみたいな歌謡曲を歌いたい子なんです。野口五郎さんとか郷ひろみさんとかの新御三家ですね。今どき面白いじゃないですか。僕は秀樹さんの大ファンだから、「一緒に何かやろう」って話になったんです。いろいろ考えてたら、先輩の所ジョージさんに秀樹さんみたいな曲を書いてもらったら面白いかもと思いついて。お願いしたらものすごくいい曲を作ってくださったんです。レオンはもちろん、僕も大興奮しちゃって。「ここちょっと変えていいですか」とかやってたら自分が歌いたくなっちゃったけど、我慢しました(笑)。レオンにヒップホップやR&Bの人たちをわざと結び付けたりしてます。「紅白(NHK紅白歌合戦)」に行ってほしいんですよね。

木梨憲武

──和ソウルという意味では今作の「感情8号線 feat. 松本孝弘」がすごくカッコよかったです。松本さんといえばハードロックのイメージがありますが、この曲では泣きのギターが横山剣さん(クレイジーケンバンド)が書いたソウルに完全にハマってるんですよね。

松本さんは今年出した「THE HIT PARADE II」ってアルバムで「傷だらけのローラ」をカバーしてて、しかも客演ボーカルにレオンを呼んでるんです。松本さんは自分の一個上なんですね。こりゃ完璧だと思って。

──木梨さんはプロデューサーとしての才能もお持ちなんですね。

まあ、歌謡曲に関しては世代だからさ。御三家や新御三家はもちろんだし、キャンディーズ、ピンク・レディー、山口百恵さん、(松田)聖子ちゃん、(中森)明菜が僕らのアイドルだからね。

──最近ではNewJeansのHANNIさんが「青い珊瑚礁」を歌って話題になりましたよね。

らしいですね。面白い時代になってきましたよ。サウンドの面白さで届けたり、ダンスのうまさで届けたり、いろんなやり方があります。ただ僕の感覚だとやっぱり「歌謡曲は歌詞がしっかりと聞こえてくること」が重要だと思いますね。ポップスも、フォークも、なんなら上の世代のグループサウンズやロックも。自分の作品でもそこは重視してます。

ビートルズとボブ・マーリーは子供の頃からすでに別格

──本作にはレゲエのリディムもたくさん取り入れられています。木梨さんがレゲエと出会ったのはいつ頃なんですか?

The Beatlesとボブ・マーリーは自分たちが子供の頃からすでに別格でしたね。だから出会うって感じではないです。当たり前にあった。以前、秀樹さんの「ギャランドゥ」のカバーをジャマイカで録ったんですよ。ボブ・マーリーとバンドを組んでたスタジオミュージシャンのおじいさんにギターを弾いてもらいました。それはテレビのお仕事ですね。ボブ・マーリーのお墓にも行きましたよ。

──ボブ・マーリーはどんなところがお好きですか?

僕を取り巻く音楽って感じですね。歌謡曲の話じゃないけど、英語だから歌詞なんてわからないのにいろんなものを感じさせてくれるんですよ。僕は親しみを込めてボブ・マリオさんと呼んでます。絵を描くときにいつも聴いてますね。

──90年代には「ラスタとんねるず」というバラエティ番組をやられていましたよね。

当時も今も僕はヒップホップやレゲエのトップの人たちをいろんなアイドルの人たちの間に混ぜてほしい気持ちが強くあるんです。地上波では音楽番組はだいぶ減っちゃったけど。そういえばABEMAに「my name is」って番組があるじゃないですか。

──日本のヒップホップやレゲエの重要なアーティストや裏方の方たちが出演されているインタビュー番組ですよね。

今度、僕が出るんですよ。若いアーティストからアニキまでいろいろ絡まっていくと思います。今被ってる帽子は「木梨レコード」って番組のロゴで。

木梨憲武

──マジですか。僕、日本語ラップのファンです。

やっぱそうだよね。ヒップホップって若い子たちにはすごく人気あるのに、世の中的にはそんなに知られてないじゃん。で、僕自身にもヒップホップやレゲエの仲間たちが増えてきたから、僕のやり方で応援したいなって。本当は僕自身が歌いたいけど、そこはグッと我慢して(笑)。

──めちゃくちゃカッコいいです。

というか、日本の音楽がカッコいいじゃない。渋谷のマンハッタンレコードを拠点にいろいろやっていこうと思ってるんです。一般の人たちに通訳してあげられる40代くらいの人が欲しいんですよ。僕はもう本格的なジジイだから(笑)。みんなに追いつくのに必死。でも楽しい。遊んでる感じ。

たぶん今作が僕の最後の作品になると思う

──「木梨ソウル」はそうしたプロジェクトの延長線上にもある作品なんですね。

そんな堅苦しいものじゃなくて、仲がいい友達と遊んでるだけですよ。「木梨ファンク」でマツコ(・デラックス)やミッツ(・マングローブ)、同世代の中井貴一さんに参加してもらったから、「“ソウル”も行くか」みたいな。あと僕はどうしてもゴスペルがやりたかったんです。だけど誰にお願いしたらいいかわからなかったのでまずAIちゃんに声をかけて。そしたらあのメンバーを連れてきてくれたんです。

木梨憲武

──Crystal Kayさん、DOUBLEさん、福原みほさん、Full Of Harmonyさん、林和希さん、JAY'EDさん、松下洸平さん、Mhiroさん、露崎春女さん……笑っちゃうくらい豪華なメンバーですね。

プロデューサーさん、エンジニアさんもみんなAIちゃんがキャスティングしてくれました。トッププロたちが面白がって来てくれたのはうれしかったです。レコーディングの現場もAIちゃんが仕切ってくれて。僕がやりたそうなことをAIちゃんが汲んで、みんなに通訳してくれるんです。和やかな雰囲気ではあるんけど、同時に“勝負の場”みたいな緊迫感もあって、なかなか痺れる現場でしたよ。僕じゃ聞き取れないようなコーラスのハーモニーを細かくディレクションしてくれたり。しかもAIちゃんはミックスをエンジニアさんと2人で納品のギリギリまでものすごくきっちりやってくれて。けっこう遅い時間になったら「ノリさん、ここは私に任せて」って。実際僕がいてもできることはないんだけど、自分の作品だし帰るわけにはいかないじゃないですか。なのに僕にも気を使ってくれるんです。あんな性格のいい人を僕はほかに知りませんね。真面目に涙が出ました。

──素敵なエピソードです。

「伝えなくちゃ」はどこかみんなが知ってるような場所で全員バージョンを披露できるといいですね。

──なにせ「伝えなくちゃ」ですからね。

そう。想像するだけでもニヤニヤしちゃいます。実際「木梨ソウル」はこの曲にクオリティを引き上げられた面があります。最初にこれができたので。この曲は自分の思いを人に伝えなきゃって歌なんです。伝わんなかったらしょうがないけど、自分が気持ち悪かったらとりあえず伝えようって。僕はすごくいい歌詞だと思う。伝えて伝えまくって、相手が引いたら謝って帰る。僕自身もそうやって生きてきたし。実際じっと待ってても何も起こらないんですよ。

──今後は「木梨レコード」から「伝えなくちゃ」な活動されていくんですか?

たぶん今作が僕の最後の作品になると思うんですよ。日本全国のイオンモールや商店街のスーパーに行ってCD手売りしたいとも考えてて、時間と体力さえあれば本気でやりたいんですよね。ほかのインタビューでも話してるんだけど、たぶんレコードも作ると思う。あと「木梨レコード」として世の中に伝えていく作品は、おそらくかなり泥臭いやり方になると思います。「この子はこういう方向でやったほうがカッコいいよな」「こういう音楽が~」「こんな番組が~」とか考えるのは嫌いじゃないんですよ。でも同時に流しで歌ってた時代の北島三郎さんのように1曲100円で直接伝えるみたいなやり方が大事だと思う。全然スマートじゃないし、配信の時代にもそぐわないかもしれない。でも100円払ってすごい歌を直接聴いたり、握手したり、一緒に写真撮ったりって経験ってものすごくデカいと思ってるんです。そういう方法で何かを発信していきたいと思っています。

木梨憲武

プロフィール

木梨憲武(キナシノリタケ)

1980年、日本テレビ系のお笑いオーディション番組「お笑いスター誕生!!」に帝京高校の同級生・石橋貴明とのコンビ「貴明&憲武」として出場。とんねるずへの改名後、1982年にこの番組を10週連続で勝ち抜きグランプリを獲得する。プロデビュー以降はフジテレビの「オールナイトフジ」や「夕やけニャンニャン」への出演を機に若者の人気を獲得。コントやモノマネで見せる芸達者ぶりや自由奔放なトークなどで笑いを提供し続ける。フジテレビ系で放送のバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげです」で演じた「仮面ノリダー」や「ノリ子」といった数々のキャラクターは多くの人に愛された。2018年に主演映画「いぬやしき」が公開されるなど俳優としても活躍。音楽活動にも意欲的で、とんねるずや野猿のほか、山本譲二とのデュオ・憲三郎&ジョージ山本でも「NHK紅白歌合戦」に出演した。2019年にはソロアーティスト・木梨憲武としての活動を開始。2022年6月に木梨が交流を持つ“コネクション(仲間たち)”を生かし、さまざまな楽曲を制作したアルバム「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」をリリース。2024年10月にソウル、ファンク、ヒップホップ、R&B、レゲエなどを取り入れつつ、さまざまなアーティストをゲストに迎えた3rdアルバム「木梨ソウル」を発表した。