ナタリー PowerPush - 木村カエラ
大人になったカエラが歌う“幸せ”の形 7thアルバム「Sync」
自分のことも、聴いてくれる人のことも
──ここまでのお話はすごく興味深いです。ずっと自分自身のために歌ってきたカエラさんが、「Butterfly」をきっかけに外の世界を意識するようになって、でもそれもやっぱり違うと気付いたわけですよね。
うん、気持ちが内に向いてるか外に向いてるかっていうことでいうと、私の場合、なんか極端になっちゃうんですよね。人のことを考え始めると自分のことをほったらかしにしてしまう。その時期が「Butterfly」のときから武道館が終わるまでずっと長く続いてて、でもそれに気付かなかったんです。だから自分がわかんなくなっちゃった。バランスが取れなくなってしまったんですよね。
──じゃあ今回のアルバムで、やっといいバランスを見つけることができた?
そうですね。喜んだり悲しんだり切なかったりっていう、そういうものがちゃんと見える音楽がやっぱり人の心を動かす力を持ってる。だから今回、私はそれをちゃんと作ろうって思ったんです。今までとにかくカッコいいものをやろうとか、面白い言葉を探そうとかそういう気持ちで作っていたけど、もう一度原点に戻って、聴いたときに元気が出たり共感できるような音楽を作りたくて。しかも自分らしさを失わずに、聴いてくれる人にちゃんと届けたいなって。
──すごい。カエラさん、大人になりましたね。
そうなんです。あはははは(笑)、大人になったんです、単純に。
──いい変化だと思います。
だいぶ遅いですけどね(笑)。いつのまにか大人になってた自分に気付いたっていうか。明らかに昔とは違う状況が自分の周りにもいっぱいあって、だからそれに嘘をついて、いまだイケイケ!みたいな感じではいられない。自分に嘘をつきたくないし、誰かに媚を売ったりするようなものは、きっと誰にも届かないって思ってるから。だからまずは自分の心に忠実に作品を作ろうと思ってるんです。人に届けたいなら、当たり前だけどまずは自分の心を曲げちゃいけない。そんな感じで作っていきました。
──その結果がこのアルバムであると。
今の自分が求めてるものはなんなんだろうって考えたときに、やっぱりどこか優しいものをやりたいと思う気持ちがあったんですね。だからこのアルバムの制作は自分探しみたいなものだったし、自分と向き合って、聴いてくれる人のことも考えて、ちゃんと両方のことを考えられたのがよかったなって思ってるんです。
若さの爆発を全力で吐き出した
──デビューの頃と比べて、作詞に関して変化したところはありますか?
明らかに違うのは言葉のチョイスの仕方ですね。昔はメロディとかどう伝わるかとか関係なくて「私がこの言葉を好きだから入れちゃいます」みたいなことが多かった。まっすぐであればいいというか、自分の思いを伝えられればいいという感じ。それはやっぱり若さの力で、聴いた人もそこにある強さを面白いと思ってくれてたところはあると思うんですけど。
──確かにすごくまっすぐでしたね。
だから今聴いても、昔の歌詞とかね、ストレートすぎて恐ろしいけどカッコいいみたいな感じがあると思うの(笑)。何も怖くなかった気がする。
──それが今は変わった?
やっぱり大人になってからは、例えば「がんばれ」っていう1つの言葉であっても、人によって捉え方が全く違うっていうことがわかるようになったんです。「よし、がんばる!」って思う人もいれば「もうがんばってるから無理だよ」って思う人もいる。そこをわかっててむりやり歌うのはいやだったから、今回はなるべく優しい言葉だったり、受け取る人の想像力が広がる言葉だったり、そういうものを選んだっていうのはありましたね。
──なるほど。ただ、いろんな人の思いを想像できるようになったというのはもちろんいいことだと思うんですけど、同時に若い頃に持ってた感覚をなくしたり、ということはないですか?
もちろんあります。でも後悔は何もしてない。今、あの頃の自分を思うとうらやましいなって感覚ももちろんあるんだけど、逆にあのときにやることやっちゃったから、それがよかったっていうか(笑)。あの若さの爆発を、私は全力で吐き出した。要は反抗期のようなものだったんですよね。
──反抗期にはちゃんと反抗しておいたほうがいいって言いますもんね。
私は好きな音楽とかを通して、そのときの自分を存分に表現してきたから、今は後悔せずにいられるっていう、そういう感じはちょっとありますね(笑)。
──じゃあこれからのカエラさんは、このまま大人っぽい歌を歌うアーティストになっていくんですかね。
いやー、自分の心に忠実にっていう、それさえできてればなんだっていいと思ってます。そのときにやりたいことをやればいいっていうモードにまた戻ってきてる。次の作品がどうなるみたいなことは、今は全く想像できないけど、その気持ちがあるだけでもう怖いものはなんにもないです。
- ニューアルバム「Sync」/ 2012年12月19日発売 / 日本コロムビア
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- 初回限定盤[CD+DVD] 3675円 / COZP-743-4 / Amazon.co.jpへ
- 通常盤[CD] 3150円 / COCP-37725 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
- マミレル(プロデュース:AxSxE[NATSUMEN])
- HERO(プロデュース:高本和英[COMEBACK MY DAUGHTERS])
- Sun shower(プロデュース:ミト[クラムボン])
- coffee(プロデュース:飛内将大)
- Hello Goodbye(プロデュース:ジム・オルーク)
- sorry(プロデュース:Jhameel)
- MY WAY(プロデュース:今谷忠弘[ホテルニュートーキョー])
- Synchronicity(プロデュース:AxSxE[NATSUMEN])
- so i(プロデュース:ミト[クラムボン])
- Merry Go Round(プロデュース:蔦谷好位置)
- Cherry Blossom(プロデュース:AxSxE[NATSUMEN])
- WONDER Volt(プロデュース:渡邊忍[ASPARAGUS])
初回限定盤DVD収録内容
- マミレル -music video-
- Sun shower -music video-
- so i -music video-
- Sun shower -making movie-
木村カエラ(きむらかえら)
1984年生まれ、東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビューを果たす。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録したことで一躍全国区の人気を獲得。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月には初の日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月には横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを開催し約2万2千人を動員。2010年2月には初のベストアルバム「5years」を発表している。キュートで先鋭的なファッションやそのライフスタイルは女性からの支持も厚く、CM出演なども多数。2012年12月には7thアルバム「Sync」をリリース。