ナタリー PowerPush - killing Boy

暗い現実を見つめながら フィジカルで踊れる音楽を作りたい

生き物としての男の悲しみが自然に出ているだけ

──わかりました。killing Boyをやるにあたっては木下さんがアイデアを?

木下 そうですね。もともとソロをちょっと作ろうかなあとか思ってて。で、スタジオにひなっちと入って。したらなんか感じがよかったんで、「これプロジェクトにしたらいいんじゃねぇかな?」と思って、っていう感じなんですけど(笑)。

日向 バンドっぽいよね。

──木下さんは最近のART-SCHOOLで、ニューウェイブ寄りの作品は作ってますよね。それと、ある種のファンクネスのある曲も。

木下 そう……ですかね? ニューウェイブの側面はART-SCHOOLでけっこう出してて、でもファンクネスの部分とか横ノリの部分は、資質として元々持ってるプレイヤーじゃないと出せないんですよ。どんだけ練習しても出ないんです。それはずっとやってきたからわかるんですけど。だからそこの部分はART-SCHOOLでやっても作り物みたいになっちゃうからやってなかったことなんですけどね。その中で、できることはベストを尽くすつもりなんですけど。

──そもそも木下さんの中にファンクへの興味は昔からあったんですか。

木下 まあ何をファンクって捉えるかなんですけど、僕はTHE CUREとかプリンス、あとはJOY DIVISIONもすごい踊れるなあと思うんです……ただ、それだけなんですけど(笑)。

──確かにプリンスは別としても、あとの2バンドはいわゆるギターバンドでありながら、フィジカルに訴えるところや、そのバンドにしかないフェティッシュな感じがありますね。

日向 ま、お互い「ビジョン、こんなんだ」つって持ってきたCDがすごい似てたんで、わかりやすい感じですよね。

木下 で、なんかね(笑)新しいジャンルをね、さっきトイレで髭剃りながら考えてたんですけど、(シューゲイザーをもじって)“シューファンク”っていうのを。

日向 ははは。

木下 って言葉を流行らそうかなって(笑)。

──うつむいて演奏する感じ(笑)。

木下 でもファンク、みたいな。

日向 汗はかくぞ、みたいな(笑)。

木下 うつむきながら、汗をかく。

──それ、木下さんにぴったりな感じしますけど。

木下 そうすか?

──日向さんはお客さんに向かってますよね。シューじゃないですよね?

インタビュー風景

日向 でもシューなメンタリティは持ってますよ(笑)。元々、そういう人間なんで。

──意外な(笑)。どこらへんにうつむきがちなメンタリティがあるんですか?

日向 いや、でも男ってみんな大体、そういうメンタリティ持ってますよ(笑)。

木下 持ってますよね(笑)。

──男性ってとこに帰結するんですか。

木下 男性の本来持ってるやるせなさっていうか。それ、シューにつながっていくと思うんですけど。

日向 ま、届けたいからああやって、俺もオーディエンス煽るし、本質的なものはやるせなさのほうだと思うけどね? エモですよ、エモの根底ですよ(笑)。

木下 男なんて子供も生めないし、ただの種馬みたいなもんですから、悲しいじゃないですか? 生き物として。

──でも男性も女性もどっちかじゃしょうがないんですけど(笑)。

木下 ただ、常にそういう悲しみっちゅうか、そういうのあるんじゃないですか? それが自然に出てるだけだと思うんですけどね。

ずっと理樹と音楽をやりたかった

──では、日向さんにとっていくつかの活動の中で、killing Boyはベースプレイヤーとしてどういうバンドですか?

日向 いや、でもベースプレイヤーっていうよりは、曲もいじらしてもらってるんで、すごくやりがいはあるし。ずっと理樹と音楽をやりたかったんで、「今かな」っていうのは自分の中であったし。だから、すごい愛してますよ、killing Boyのことは。

インタビュー風景

木下 僕は……killing Boyに関しては、横(ノリ)の感覚を試していきたいっていうのはあるけど、それぐらいだね?

日向 うん。

木下 なんか、こういうバンドもいないし、「いいんじゃねえかなあ」「みんな聴いてほしいなあ」ぐらいですよ(笑)。

──確かに新しいシーンともリンクしてるようでもあり、そういう次元でないようでもあり。

木下 それはわかんないですよね。僕らは別にどこかに属するために音楽をクリエイトしてるワケではないんで。だから聴く人は「あ、これはロックだ」って思って聴いてもらってもいいし、「これはダンスだ」と思って聴いてもらってもいいし、「暗いなあ」と思って聴いてもらってもいいし。

──そう。だからビジョンが独特だなあと思うんですよね。

木下 そうですね。たぶんいろんな要素があるんだけど、共通して好きだったのがプリンスとか、細かく言うと、ひなっちはFISHBONEとか。

日向 FISHBONEとかすごい好き。

木下 で、そういう感じにプラス、僕が好きだったTHE CUREやJOY DIVISIONとかの感じを混ぜる……ATOMS FOR PEACEとかも、YouTube観てたら、JOY DIVISIONのカバーもやってるんですよね。「あっ」と思って。これはたぶん似てるんだよねって、目指してるところが、って勝手に思って。内向的なんだけどすげえフィジカルで踊れるもの、それが僕らは気持ちいいかなと思って。こう、無理やりアゲて、ハッピー、みたいな空間を作るバンドもアリだとは思うんだけど、このバンドでやりたいのは、そういうおとぎ話みたいな世界を作るんではなくて、あくまで現実を見ながら、でも踊れるっていう空間を作るってことですかね。

──JOY DIVISIONもそうだけど、NEW ORDERとかも例えとしてわかりやすいかもですね。1人ひとりが内に向かいながらもアガっていくっていうのが踊れる音楽のちょっと狂気を孕んだ部分だし。

木下 だってNEW ORDERの「リグレット」とか、めっちゃ歌詞暗いじゃないですか? でもすげえポップだし、踊れるし。で、イギリス人はそれをネイティブに言葉として耳に入って理解して、踊ってるワケでしょ? だけど今の日本でそういうバンドはいないって断言できるし。

──「みんな大丈夫だぜ、行けるぜ!」って内容で踊るんじゃなくて。

木下 けっこう日本って、その瞬間が楽しければ、次からの仕事がつらくてもOKじゃん、みたいなノリのバンドって多いと思うんですよ、若いバンドも。でも俺が10代のときとか、ちっちゃいときから好きで聴いて影響受けてきたのは、さっきも言ったけど、現実を歌いながら踊れたりする音楽だから、そこを若い子に見せてあげたいっていうのは使命感の話で言えばありますね。

1stアルバム「killing Boy」 / 2011年3月9日発売 / 2310円(税込) / VeryApe Records / VARUK-0001

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CD収録曲
  1. Frozen Music
  2. Call 4 U
  3. cold blue swan
  4. xu
  5. Perfect Lovers
  6. 1989
  7. black pussies
  8. Confusion
  9. Sweet Sixteen
killing Boy(きりんぐぼーい)

木下理樹(Vo,G,Syn / ART-SCHOOL)と日向秀和(B,Syn / ストレイテナー、Nothing's Carved In Stone)により2010年に結成。伊東真一(G / HINTO)と大喜多崇規(Dr / Nothing's Carved In Stone)がレギュラーサポートメンバーとして参加。2010年12月31日「COUNTDOWN JAPAN 10/11」にて実施した初ライブは、満員の観客に驚きと興奮をもって迎えられた。木下主宰レーベル“VeryApe Records”より初音源「killing Boy」を2011年3月にリリース。