音楽ナタリー Power Push - Kidori Kidori
メンバー脱退を経ても前を向くアウトサイダーな2人
アフリカ音楽に憧れる白人の音楽を東洋人がやる
──そのほかの楽曲についても聞かせてください。「モノクロ」はブラックミュージックのテイストを取り入れたナンバー。抑制の効いたダンスビートが印象的でした。
マッシュ 最初に考えていたのは「ディアンジェロとかロバート・グラスパーみたいなことをギター、ベース、ドラムの3人でやったらカッコいいだろうな」ということだったんですよ。でも、途中で「いや、やっぱり俺らはロックバンドだからな」と思い直して。
川元 ロック回帰ね。
マッシュ そうそう。そのあと、ちょっと違う発想を持ってきたんです。以前、Talking Headsの感じで曲を作ってみたことあるんですよ。「アフリカ音楽に憧れる白人の音楽を東洋人がやる」という感じだったんですけど(笑)、もう1回、そのアイデアを思い出してみようと。The Rolling Stonesの「Miss You」、デヴィッド・ボウイの「Let's Dance」、The Clashの「The Magnificent Seven」とか、ロックバンドがディスコにアプローチする感じでやってみるってことですね。そこに自分たちらしい変なギターリフとか混ぜて作ったのが「モノクロ」なんです。最近、あの感じをやってるロックバンドはあまりいないと思うから「じゃあ、俺がやる!」って。
川元 発想が面白いんですよね、マッシュは。「○○っぽい」では終わらなくて、「コレとコレとコレを混ぜて、そこからこの部分だけ引っ張って……」とか。「モノクロ」の制作もすごく楽しかったですね。
──すごく踊れる曲だと思うし、「つまんないくらいが丁度いいかもしれない」というクールな歌詞とのコントラストもよくて。楽曲自体の温度は完全に平熱ですよね?
マッシュ 今回は全体的に平熱ですね。それもやっぱり、俯瞰して自分を見ているアウトサイドな目線なんだと思います。自分自身は熱いことを思ってるけど、それを外からクールに見たうえで表現しているというか。
──なるほど。そして4曲目の「The Puddle」はメランコリックな雰囲気のナンバー。英語詞の新曲は2年ぶりだそうですね。
マッシュ そうみたいですね。日本語にも英語にも、それぞれのよさがあるんです。よく言われることですけど、日本語は「雨」と「飴」みたいに音の高低で違いを出す言葉で、英語は強弱のアクセントが大事なんですよね。だから英語は2拍目と4拍目にスネアドラムが入るロックと相性がいいんですが、日本語には多彩な表現があって、ここ最近はそっちが面白くなっていて。でも、英語の曲はもう書かないって決めていたわけではないし、「The Puddle」の場合は歌ってみたら英語のほうがハマったので。自然な感じでしたね、そこは。
──言語の種類にこだわっているわけではない、と。
マッシュ 言語の壁をあまり感じてないんですよ、もともと。言葉は結局、コミュニケーションのツールじゃないですか。それよりも大事なのは心だったり、自分自身の内面だと思うので。
お前、暗いフリしてるけど、実はネアカだよ!
──10月22日の千葉・千葉LOOK公演を皮切りにワンマンツアー「Kidori Kidori "OUTSIDE" Release Tour」がスタートします。8月末にベーシストの汐碇真也さんが脱退し、再びマッシュさん、川元さんの2人体制となったわけですが、ツアーはどうなりそうですか?
マッシュ ツアーにはサポートのベーシストをお招きしてやろうと思っています。それ以降に関しては、ほぼ未定ですね。3人編成を想定して曲を作るのもいいと思うし、2人で攻め込むような曲もやってみたいし。岐路に立ってるのは確かですけど、自分としては「面白くなりそう」という気持ちが強くて。
川元 そうやな。
マッシュ 今はALの藤原寛さんとガリバー鈴木さんに手伝ってもらっているんですが、お二人共すごい演奏家だし、僕にはない柔軟な発想で楽曲をいろんなキャラクターにしてくれているんです。そういうやりとりもすごく面白いし、川元と2人だけでギリギリの感じでやることにも興味があるんですよね。まずは目の前のツアーに集中しようと思ってます。さっき言った“ワオ!”をさらに追求したいし、何よりも今回のミニアルバムはすごくいいと思っているので、「早くライブで聴きたい」という期待に応えたいなって。
──前向きですね。ベーシストが脱退するのは今回が2回目ですが、ショックはなかったですか?
川元 急に脱退することになったから、そのときは不安でしたけどね。「BAYCAMP」の前夜祭(9月に神奈川・川崎市東扇島東公園で行われた「BAYCAMP2016 TGIF」)には2人でステージに立ったんですが、正直言って、最初は怖かったんです。でも、実際にやってみて「2人だけでやる楽しさもあるな」と実感できて。3人で見せる場面、2人で見せる場面の両方があるっていうのも、楽しいですよね。落ち込んだりもしたけど、今は2人でいることをポジティブに捉えています。
マッシュ うん。存在しているだけで可能性はあるわけやんか、何事も。俺だって、勉強すれば東大に入れるかもしれないし。
川元 今日、東大の話多いな(笑)。
マッシュ 今「ドラゴン桜」読んでるから(笑)。何が言いたいかというと、物事に0%はありえへんっていうことなんですよね。あらゆる可能性があるんだから、あとは「選択肢の中から何を選ぶか?」ということだけだし、楽しくやるしかないなって。最近すごく思うんですけど、CDが売れないとかチケットの転売問題とか、悲しい話題が多すぎますよね。それは考えなくちゃいけないことだし、問題に蓋をしたほうがいいと思っているわけではないけど、「楽しいことを提供しないでどうするんだ!」という気持ちが強くて。もっと明るいニュースにフォーカスするべきだし、せめて「俺たちは楽しくやるぜ!」って。
川元 すごいポジティブ(笑)。でも、ホントにそうだよね。
マッシュ ウジウジしたってしょうがないからね。そういう暗いロックもあってもいいと思うけど、今の自分はそういう感じではないので。さっきから「俯瞰で自分を見た」っていう話をしてますけど、母親からも目からウロコなことを言われたんですよ。「お前、暗いフリしてるけど、実はネアカだよ!」って。
川元 ハハハハハ!(笑) 暗いフリしてたんや?
──(笑)。The Smithsを聴きすぎたとか?
マッシュ あ、そうかも。The SmithsとJoy Divisionのせいです! それは冗談として、母親にそう言われて新しいベクトルができたというか「決してネガティブなだけの人間じゃないんだな」と思うようになって。だから、今はすごく前向きです。「初めまして、“New Me”!」っていう感じですね。
川元 “New Me”って(笑)。でも、こうやって前向きにやれてるのはすごくいいことだと思いますね。
収録曲
- アウトサイダー
- タイムセール
- モノクロ
- The Puddle
- 一人ぼっちも悪くない
ツアー情報
Kidori Kidori "OUTSIDE" Release Tour
- 2016年10月22日(土)千葉県 千葉LOOK ※ゲストあり
- 2016年10月28日(金)北海道 COLONY
- 2016年11月6日(日)福岡県 graf
- 2016年11月7日(月)岡山県 PEPPERLAND
- 2016年11月8日(火)大阪府 Shangri-La
- 2016年11月20日(日)愛知県 池下CLUB UPSET
- 2016年11月25日(金)東京都 UNIT
Kidori Kidori(キドリキドリ)
大阪・堺で結成され、2008年より本格的に活動を開始。バンド名は村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」に由来する。UKロック、パンク、ハードコア、ジャズ、ファンク、プログレ、テクノ、J-POP、ワールドミュージックなど、幅広いジャンルの音楽を帰国子女のマッシュ(Vo, G)の感性で昇華したサウンドが特長。2011年7月に初の全国流通盤「El Primero」を、2012年8月に「La Primera」を自主レーベル・Polka Dot recordsよりリリースした。2014年3月にンヌゥ(B, Cho)が脱退し、バンドはマッシュ、川元直樹(Dr, Cho)の2人にサポートメンバーを加えて活動することを表明。同時期に拠点を大阪から東京に移し、8月13日に新体制第1弾となるミニアルバム「El Blanco 2」をリリースした。同月「SUMMER SONIC 2015」などに出演し、その後も多数のフェスやイベントに参加。2015年2月に日本語詞3曲、洋楽カバー3曲のCD「El Urbano」を、6月にはバンド初の全曲日本語詞のアルバム「! [雨だれ]」を発売。8月にはサポートメンバーの汐碇真也(B)がバンドに正式加入した。2016年4月に会場限定のソノシート「タイムセール」を発表したのち、6月にはCD「フィールソーグッド e.p.」をリリース。8月には汐碇が脱退し、バンドは再びマッシュと川元の2人体制に。10月に3rdミニアルバム「OUTSIDE」を発表し、10月から11月にかけて同作のリリースツアーを行う。