音楽ナタリー Power Push - Kidori Kidori
メンバー脱退を経ても前を向くアウトサイダーな2人
“アウトサイダー感”はおいしい
──「アウトサイダー」というタイトル自体にもインパクトがあるし。
マッシュ でも、「アウトサイダー」って実は抽象的なところもあるんですよ。めちゃくちゃ悪いヤツって「アウトロー」じゃないですか。「アウトサイダー」はそうじゃなくて、内と外の境界線みたいなものがあるとしたら、そのちょっと外側にいる人間というイメージなのかなって。多くの人は内側にいるほうが居心地がいいんだけど、中には「ここは居心地が悪い」と感じる人間がいて、そういう人は外側に行くんだと思うんです。まあ、いろんな価値観があるから、一般的な意味として定義付けるのは難しいですけどね。
──マッシュさん自身にも「アウトサイダー」の感覚があるんですか?
マッシュ そうですね。僕、イギリスで生まれたんですけど、その時点で若干の“アウトサイダー感”があって。「イギリス生まれ」って言うと、「カッコいいね!」みたいな反応が多いんですけど、僕はロンドン出身ではないし、馬と牛に囲まれて育った田舎者なんですよ。でも、海外生まれってだけで色眼鏡で見られることもあって。それって、単なるイメージじゃないですか。東大出身でも頭が悪い人もいるかもしれないし……。
川元 ハハハハハ(笑)。
マッシュ まあ、そうやってイメージだけでモノを言われる経験もしてきたし、引っ越しも多かったから「自分は流れ者なのかな」って。今回のミニアルバムを作っていたときって、自分を俯瞰して見ることが多かったんです。もう1人の自分が自分を監視しているような感覚があって、改めて「自分はどういう人間なんやろう?」と考えて。その視点も外側から向けられているし、そこから「OUTSIDE」というテーマを思い付いたんですよね。音楽が好きな人とかって、自分と同じように「ここは居心地が悪い」と感じて内側からハミ出している人が多い気がしていて。「OUTSIDE」というアルバムを作ることは、そういう人たちのためにもなるのかなと。人と違うことをするのは心細いけど、それが悪いということは絶対にないので。
──なるほど。日本のシーンの中で活動していても、同じような“アウトサイダー感”があるんでしょうか?
マッシュ ぶっちゃけ、けっこうありますね。「じゃあ、どこに行けば居心地がいいのか?」と言われてもわからないんですけど。
川元 居心地の悪さを感じることはあるし、存在として浮いてしまうことも多いけど、そういうふうに見せられているのはいいことだと思うんですよね。
マッシュ うん。大阪っぽい言い方をすると「おいしい」ってことやんな?
川元 そうそう(笑)。周りのバンドと違うから「おいしい」っていう。
マッシュ それもさっきの「尖ってるかどうか」の話と同じで、あえて違うことをやろうと思っているわけではないんですけどね。好きなことをやってるだけなんだけど、どうしても浮いてしまう。やっぱり流れ者なんですよ。
川元 自分はマッシュが作った曲を演奏するのが楽しいし、結果的にアウトサイドにいたとしても気にならないです。「ちょっと外れてるけど、楽しいからいい」って。
マッシュ うん。外れてることは悪いことじゃないので。「僕らみたいなヤツがいてもいいじゃないか!」ということですね。
川元 その感覚は強いな。
ロックには“ワオ!”が必要や
──Kidori Kidoriの音楽は日本のシーンの中では「洋楽のテイストが強い」ということになるかもしれないけど、海外の人によってはエキゾチックな音楽に聞こえるだろうし。
マッシュ そうですよね。この前、yr poetry(イギリスのギターロックバンド・Jonny Foreignerのメンバーによるユニット)がEUPHOLKSの企画ライブで来日していて、俺らがオープニングアクトをやったんですよ。そのときに南アフリカのミュージシャンから「君たちの音楽は面白い。何とも説明できない」って言われて。「俺らも説明できない」って答えたら笑ってましたけど。それで「もしかしたら型破りなバンドなのかもな」ってなんとなく思いました。
──リスナーの立場から言わせてもらうと、ロックバンドは型破りなほうが魅力的ですけどね。安心感を求めてロックを聴いているわけではないので。
マッシュ あ、それはわかります。僕らはその感覚を“ワオ!”って表現しているんですよ(笑)。「ロックには“ワオ!”が必要や」って。
川元 それはずっと言ってるよな。
マッシュ ロックは高揚してナンボだって思ってますからね。音を聴いて「カッコいい!」とか「面白い!」と思う感覚って、冷静になってみると意味がわからないじゃないですか。でも、確かに“ワオ!”って感じている自分がいて、それをずっと続けていくことがバンドの一番の楽しさだと思っているんです。譲れないですね、“ワオ!”は。
川元 「どんなライブがいいライブか?」ということを考えてみても、お客さんが“ワオ!”を感じてくれることだと思うんですよ。そこはずっと追求してますね。
──Kidori Kidoriの“ワオ!”はほかとはまったく違うというのが、そのままバンドの個性になっているわけですからね。ミニアルバムの最後の曲は「一人ぼっちも悪くない」。つまりアウトサイダーであることを肯定している、と。
マッシュ もちろん。さっきも言いましたけど、人と違うことは全然悪じゃないので。お葬式に派手な格好するようなバッドマナーではなくて、マナーを守りながら好きなことをやった結果、線の内側に入れないっていう。そんな自分を否定したくはないし、「僕はこういう考え方で、こういう在り方なんです」ということですよね。そうやってありのままさらけ出すほうが、素直でいいと思うんですよ。手の内を隠すようなこともやったことないし。
次のページ » アフリカ音楽に憧れる白人の音楽を東洋人がやる
収録曲
- アウトサイダー
- タイムセール
- モノクロ
- The Puddle
- 一人ぼっちも悪くない
ツアー情報
Kidori Kidori "OUTSIDE" Release Tour
- 2016年10月22日(土)千葉県 千葉LOOK ※ゲストあり
- 2016年10月28日(金)北海道 COLONY
- 2016年11月6日(日)福岡県 graf
- 2016年11月7日(月)岡山県 PEPPERLAND
- 2016年11月8日(火)大阪府 Shangri-La
- 2016年11月20日(日)愛知県 池下CLUB UPSET
- 2016年11月25日(金)東京都 UNIT
Kidori Kidori(キドリキドリ)
大阪・堺で結成され、2008年より本格的に活動を開始。バンド名は村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」に由来する。UKロック、パンク、ハードコア、ジャズ、ファンク、プログレ、テクノ、J-POP、ワールドミュージックなど、幅広いジャンルの音楽を帰国子女のマッシュ(Vo, G)の感性で昇華したサウンドが特長。2011年7月に初の全国流通盤「El Primero」を、2012年8月に「La Primera」を自主レーベル・Polka Dot recordsよりリリースした。2014年3月にンヌゥ(B, Cho)が脱退し、バンドはマッシュ、川元直樹(Dr, Cho)の2人にサポートメンバーを加えて活動することを表明。同時期に拠点を大阪から東京に移し、8月13日に新体制第1弾となるミニアルバム「El Blanco 2」をリリースした。同月「SUMMER SONIC 2015」などに出演し、その後も多数のフェスやイベントに参加。2015年2月に日本語詞3曲、洋楽カバー3曲のCD「El Urbano」を、6月にはバンド初の全曲日本語詞のアルバム「! [雨だれ]」を発売。8月にはサポートメンバーの汐碇真也(B)がバンドに正式加入した。2016年4月に会場限定のソノシート「タイムセール」を発表したのち、6月にはCD「フィールソーグッド e.p.」をリリース。8月には汐碇が脱退し、バンドは再びマッシュと川元の2人体制に。10月に3rdミニアルバム「OUTSIDE」を発表し、10月から11月にかけて同作のリリースツアーを行う。