KREVA
「楽しかった」ということしかない
──このアルバムの制作は3人だけで集まって始めたそうですね。
この2017年で「カンケリ / タカオニ」を出してから20年になるって気付いたときから、復活するならそこじゃないかなと自分の中では思っていたので。もちろんその前から「復活してほしい」という声も耳にしていたけど、誰かに言われたからやるんじゃなくて、復活するきっかけを自分たちでつかみたかった。で、それをつかめたので、2016年1月から1カ月1曲の目標で作って、2017年に入ってからそれを録り直していけばアルバムが出せるんじゃない?と考えてスタジオに入り始めました。
──ひさびさにKICKとして3人で集まっての制作については?
楽しくしようと思いながらやっているところもあったけど、それを超えた楽しさがあった(笑)。何より、できあがった曲が常に自分たちの予想を超えていたから、それが一番楽しかったですね。
──それは理想的ですね。
うん。KICK THE CAN CREWでやるにあたって、もっとも求めていたことかもしれない。あとは「カンケリ / タカオニ」から20年というのがあったから、その感じと言うか、そこに近しい雰囲気の曲選びはしていたかもしれない。ちょっとノスタルジックな感じとか夕方の土手っぽい感じとか。
──「タコアゲ」や「今もSing-along」はまさにそういう曲ですね。
そうそう。あとツアーではじっくりと聴いてもらうコーナーがあってもいいなと思って。3人共もうずっと飛んだり跳ねたりしているような年齢じゃないしね(笑)。
──ほかにKREVAさんが制作のうえで明確にイメージしていたことはありましたか?
特にないですね。自分が作った中からKICKに合うと思ったトラックをピックアップしていたので。逆に言えば、KICKのために作ったトラックというのはないです。自分のソロの曲も、ソロ用と思って作ってはいないから。トラックは日頃から作りたいからいくつも作っているし、自分の中から自然に湧き出てくるものなので。
──ナタリーではKREVAさんのソロ最新作「嘘と煩悩」のインタビュー(参照:KREVA「嘘と煩悩」インタビュー)も行いましたが、実は今作に収録された「今もSing-along」や「また戻っておいで」の曲調は、「嘘と煩悩」の同一線上にあるような気がしていました。
その読みは正解です。基本的には同じタイミングで作ったものなので。ただ自分の中の感情の表現したい部分とか、それが出てくる場所がソロとKICKでは違うんですね。あとは1人じゃ膨らませ切れなかったものを持ち込んだり。例えば「また戻っておいで」という曲は「また戻っておいで」というフレーズだけが浮かんでそれを2人に提案したことから完成まで進んだので、もしそのフレーズの先まで聞こえていたらソロの曲になっていたかもしれないし。
浮かれて戻って来るなんてダサい
──KREVAさんから見たMCUさんとLITTLEさんは以前と比べて何か変化していましたか?
まったく変わってなかったですね(笑)。
──ではご自身についてはどうですか?
プロデュース力が身に付いたこと、自分でプリプロからレコーディングまですべてを仕切って、スタジオを回せるようになったのは大きいですね。3人だけで集まって録れたことがこのアルバムの濃さにつながったので。
──確かにこのアルバムのサウンドメイクには濃さと緻密さと盤石さが感じられます。
まったく浮かれていないですよね。浮かれて戻って来るなんてダサいと思っていたし、「マルシェ」みたいな曲を作ろうとか最悪だと思うんですよ。セルフコピーなんて気もさらさらなかったし、今の3人がしっかりと出した答えを形にすることができたので、地に足が付いた音になったと思います。
──そうした作業の中で何か発見はありましたか?
はじめはかなりトントン拍子で進んでいたんですけど、5カ月目あたりに初めてサビができない日を迎えた(笑)。サビには特に時間をかけていて、3人全員がいいと思うサビになるまで録らないので、そこをサボらなかったという証でもあるんですけど。
──しかもOKのハードルは確実に高いわけですよね。
あ、そこはむしろ逆かな。くだらなさもすごく重要なので(笑)。くだらなさや面白さも残しつつ、言いたいことを重視する。だから難しい。ちなみにそのサビができなかった曲は「完全チェンジTHEワールド」なんですけど、俺がソロライブの準備で2カ月ぐらいスタジオに入れなかったときに、2人がスタジオに入ってサビを作ってきてくれたんですよ。それを踏まえてさらに3人で練って。だから濃い。昔だったら、たぶん2人が作ってくれた時点でOKになっていたと思う。
──前に活動していた頃以上に妥協がないし、3人の合議制もより強固になっているようですね。
自然とそうなっていましたね。それを暗黙のルールのように取り組めたと言うか。
──ちょっと誘導尋問みたいですけど、そこも大人になった表れですか?
同じ大人でもおじさんってダジャレをすごく言うじゃないですか? その感じに近いかも(笑)。ただその瞬間の盛り上がりだけにはしない。例えば「全員集合」の歌詞も「美人、美人じゃない人(ジン)」とか言って「『美人じゃない人(ジン)』ってなんなんだよ!」とかゲラゲラ笑い合いながら作ってるんだけど、3人共ジャッジはかなり冷静だったと思います。
──ほかにレコーディングにおけるエピソードは?
最初に作ったのが「I Hope You Miss Me a Little」のヴァースなんですけど、これ録って送ったらちょうどそのとき2人が一緒にいたみたいで、「14年ぶりに我々が作る曲の一発目だぞ!」とメールを開いたら、歌詞に「みかん」と書かれていたと(笑)。この“みかんショック”で雄志くん(MCU)は楽になって、LITTLEは逆に勘繰っちゃったらしくて。でも俺の中ではそれをちょっと狙っていて、ソロだったら絶対に入れないワードをわざわざブチ込んでみることで一旦敷居を下げると言うか、これもOKというラインを提示しようと。昔のほうがもっとコンペっぽいと言うか「お前がそうなら俺はこう」みたいな競い合いがあった。そういう意味で今回の俺は無欲でしたね。あ、もちろん「売れたい」という欲はムンムンですけど(笑)。
──「全員集合」に「千%」と最初の2曲はスケール感と頼もしさを感じさせますね。
まあソロでは1人で引き受けてきたんで、3人いれば余裕も出ますよ(笑)。
自分らでゴーサインを出して動けているのが楽しい
──ものすごく良好な関係性だからこそあえて聞きますが、どうしてKICKは2004年に活動を休止したんですか?
まず1つには、俺が1人で完結させたい曲が、トラックが浮かんできちゃったことが大きかった。でも一番の理由は、KICKがデカくなり、ビッグビジネスになり過ぎて、ほかの大人がたくさん関わってきて、“みんなで動かすKICK THE CAN CREW”になってしまったから。だから今回はまず3人だけで集まろうと決めたし、もし最初の段階から誰かに「『マルシェ』みたいな曲を」とか言われたら、俺はいま絶対ここに座っていない(笑)。そうならないためにかなり慎重に事を運んできたつもりです。
──つまり裏を返せば、いまだに気を抜くと、どこからか「『マルシェ』みたいな曲を」みたいな大人が現れる危険性があるということですか?
そりゃそうですよ。「紅白」に出たということはそれが当たり前に起こるということだから。でもそれをやったらおしまいだし、だったらやらないほうがいい。
──なるほど。ご自身の推し曲を挙げてください。
「タコアゲ」が好きですね。ユルく戻って来た感じも出ていて。「カンケリ / タカオニ」と来ての「タコアゲ」というのがいい。「タカオニ」も「カンケリ」も俺のソロ曲も、上昇志向や向上心が強いでしょ? でも「タコアゲ」は下から上に上げていて、上がりたい気持ちもあるんだけど、上げる場所を考える余裕もあって、それもいいなと。それに「タコアゲ」なんて曲を書く奴らも歌う奴らもそういないだろうし(笑)。
──そうした状況を踏まえて、今のKREVAさんにとってKICKはどういう場所だと言えますか?
楽かな。今は2人と一緒にいると楽ですね。取材を受けていると感じるけど、たぶんどこからの復活なのかという起点が、世間と俺らで違うんですよ。世間は2000年頃にブレイクして休止したところからの復活だと思っているようだけど、俺らとしては「カンケリ / タカオニ」の頃、俺とLITTLEで雄志くん家に遊びに行って、誰に頼まれた訳でもないのに3人でラップを書いていた風景の復活なんです。すごく偉そうなことを言わせてもらえば、俺たちは一度登るところまで登り詰めた。だからそこを放棄はしないけど、もうわざわざ目指そうとはしていない。さっきの話じゃないけど「マルシェ」や「クリスマス・イブRap」の盛り上がりをもう一度、みたいな気持ちも一切ないし、もしやるとしたら、それは自発的にやりたくなったときだけだから。何度も言うけど、自分たちできっかけをつかんで、自分たちでゴーサインを出して動いている。それが何よりも大事で、すごく楽しいんですよ。
──わかりました。それにしてもKREVAさん、よく働きますね。だってKICKの「復活祭」の翌日は同じ武道館で「908 FESTIVAL 2017」じゃないですか。
そうそう! みんなKICKが14年ぶりとか言うけど、俺はこれが今年2枚目のアルバムですからね! このサイクルでこのクオリティ。ここは声を大にして言いたかったので必ず載せておいてください!(笑)
次のページ »
LITTLE ソロインタビュー
- KICK THE CAN CREW「KICK!」
- 2017年8月30日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
初回限定盤 [CD+DVD]
4320円 / VIZL-1228 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64834
- CD収録曲
-
- 全員集合
- 千%
- 今もSing-along
- SummerSpot
- なんでもないDays
- 完全チェンジTHEワールド
- また戻っておいで
- また波を見てる
- I Hope You Miss Me a Little
- タコアゲ
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- 千%(Music Video)
- SummerSpot(Music Video)
- 千%(Making)
- SummerSpot(Making)
ライブ情報
- KICK THE CAN CREW「復活祭」
-
2017年9月7日(木)東京都 日本武道館
<出演者> KICK THE CAN CREW / いとうせいこう / 倖田來未 / 藤井隆 / RHYMESTER
- KICK THE CAN CREW CONCERT TOUR 2017
-
- 2017年12月1日(金)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2017年12月3日(日)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2017年12月10日(日)北海道 Zepp Sapporo
- 2017年12月16日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年12月17日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2017年12月21日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年12月24日(日)福岡県 福岡サンパレス
- KICK THE CAN CREW(キックザカンクルー)
- それぞれソロで活動していたKREVA、LITTLE、MCUが集まり1997年に結成。同年にシングル「タカオニ / カンケリ」でインディーズデビューし、2001年5月にシングル「スーパーオリジナル」でメジャーデビューを飾る。山下達郎の「クリスマス・イブ」をサンプリングした「クリスマス・イブRap」でブレイクを果たしたのち、「マルシェ」「アンバランス」「イツナロウバ」などヒットを飛ばす。2002年12月には「第53回NHK紅白歌合戦」に出場し、「マルシェ」をパフォーマンスした。人気絶頂の2004年に活動休止を発表し、それぞれソロに転向。しかしメンバー間の交流は途絶えることなく、KREVAのライブにLITTLEとMCUが参加したり、KREVAがLITTLEとMCUのユニットULをプロデュースするなど音楽活動を共にする。2014年にKICK THE CAN CREW名義で「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」に出演。その後も不定期でKICK THE CAN CREWとしてライブを行い、2017年8月に14年ぶりのオリジナルアルバム「KICK!」を発表した。
2017年9月7日更新