音楽ナタリー Power Push - KGDR(ex.キングギドラ)
20年ぶりに降り注ぐ空からの力
当時の日本語のラップに影響されてはいなかった
──日本語でのラップという点でほぼ手本がない時代に、いかにリリックを書いていったのでしょうか?
Zeebra 英語の音から入っていくというのはあったね。例えば、このデモに入っている音源ではMasta Aceの「Saturday Night Live」の途中のフロウとか……向こうの連中のフロウをすげえ参考にしたね。向こうのラップを聴いている奴に俺たちの曲をダサいと思われるのも嫌だしさ。あとは、英語のリリックを参考にしたり。
Kダブシャイン 「空からの力」の「全ての力を人々に」っていうラインは、「Power to the People」から取っていたり。1990年代あたりから、アメリカのヒップホップのトラックにも日本語を乗せやすくなったんだよ。当時、日本語ってレゲエのほうがラップを乗せやすいと言われていたんだけど、俺の感覚だとDas EFXやFu-Schnickensあたり以降、日本語を乗せやすくなったと思うんだよ。ほら、RHYMESTERとかFu-Schnickensっぽかったじゃん? あと俺は、リリシズムも追求したかった。つるんでる向こうのヤツに「ラップで何言ってるの?」って聞かれたときに、ダサいと思われないようにっていうのはあったね。
──当時ラップがほぼ英語でしかないのだから、それを参考にするのは当然だと思います。その上で、今聴いても現実の街の暮らしや生活と直結したリリックに驚きます。なぜあのようなリリックが書けたのでしょうか?
Kダブシャイン 俺らがしゃべっていた言葉を歌詞にしてたんだと思う。
Zeebra 「なんで日本語の歌詞っていわゆるスラングがあまりないんだろう」「なぜ日本語の歌詞はなんでもかんでもキレイなんだろう」というのはちょっと気になってた。例えば「マジ~」「超~じゃね?」っていうことが言いたいんだったら、それを歌詞にすればいい。そういう言葉をみんなが話している時代なんだからさ。そうやって現代を表現すればいいと思っていたな。
Kダブシャイン とはいえ、俺は当時の日本の音楽だと忌野清志郎も聴いていたし、おニャン子クラブの歌詞の感じもポピュラーカルチャーだよなって感じてはいたよ。でもまだ当時の日本語のラップに影響されてはなかった。
3つめの目を使って善悪の判断
──ヒップホップの最大の魅力のひとつ、ビートとスクラッチが構成と内容をリードしていくトラックがあって、それがあるからこそリリックは面と向ってはっきりモノを言うスタイルで。そういった音楽性は、そのあとのJ-POPにも大きな影響を与えました。
Kダブシャイン 俺たちのアルバムにはヒップホップを聴かない人でも入ってこられるような普遍的なメッセージを詰め込んでいるし、客に向かっても「俺らは今日みんなをロックするつもりで来てるから」ってガンガン言っていた。それがヒップホップのスタンダードだから。
Zeebra 向こうのヒップホップの感覚で見てたら、それは当たり前だよね。
Kダブシャイン その頃から俺たちがやりたいことはさ、2MCが掛け合いをして、客に面と向かってロックするっていうことだった。ロックしなきゃ……。もちろんうまくいった理由はそれだけじゃなくて、俺たちはステージ上でのコミュニケーション能力に優れていたと思う。ヒップホップは、オーディエンスとアーティストのコミュニケーションなんだよ。
Zeebra 俺ら、グイグイいくよね。
DJ OASIS 俺もグイグイいっちゃうかな。
Zeebra ラップで当たり前、俺たちがカッコいいのは当たり前。ヒップホップが一番カッコいいのは大前提の当たり前。
Kダブシャイン うん。だから迷いがなかった。自分たちがホームレスになったことはないけど、犯罪や偽善、ストリートを見てきた。特にこのアルバムを作っていた頃は、周りにドラッグで人生を狂わせた奴もいた。そういうことがどんどん下の世代に伝染していくことがないように、メンタルを強く持って、3つめの目を使って善悪の判断をして、ユースカルチャーを底上げしていきたいと考えてたよ。
──そういう意味では、このアルバムには当時アジアでもっとも近未来的だった都市、東京の子供たちの生活のドキュメント的な側面もあると思います。それから20年、ヒップホップは世界を変えた音楽ジャンルとなったわけですが、振り返ってみてどう思われますか?
Kダブシャイン アメリカではだいぶ黒人がスレイブメンタリティから解放された。今でも警官の理不尽な暴力とかあるとみんなで騒ぐし。ただヒップホップがここまで浸透したけど、今の日本人が日本人の持ってるスレイブメンタリティから解放されてるのか?という問いが残るね。
Zeebra 当時俺たちが考えていたことは、「さんピンCAMP」を肌で感じていた世代と、その少し下の世代まではけっこう伝わったと思ってる。その世代の人たちも今はいろいろな立場になって、いろいろな仕事をしてると思うけど、“自分で選ぶ”っていうモノの見方を自分の中で持って行動していると感じるんだ。「空からの力」から20年。そのあとに出した「最終兵器」からも12年。今は多様性が認められる世の中にはなったけど、どこか弱くなった部分もあるような気もする。メディアが発達して、みんなGoogleでサーチしてしか答えを探さないけど、昔は自分の手と足を使ってディグって、答えにいろいろなものを足していった。その違いは感じているね。
- デビュー20周年記念作品「空からの力:20周年記念エディション」2015年6月17日発売 / P-VINE RECORDS
- 「空からの力:20周年記念エディション」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / PCD-18788/9 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2700円 / PCD-25178 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- 未確認飛行物体接近中(急接近MIX)
- 登場
- 見まわそう
- 大掃除
- コードナンバー0117
- フリースタイル・ダンジョン
- 空からの力~Interlude
- 空からの力 Part 2
- 星の死阻止
- 地下鉄
- スタア誕生
- 行方不明
- 真実の弾丸
- コネクション~Outro
- 空からの力(Mind Funk Remix)
- 行方不明(DJ Kensei's Smooth Mix)
- 真実の弾丸(Flute Mix)
- 見まわそう(Original Demo Version)
- 空からの力 Part 1(Original Demo Version)
初回限定盤DVD収録内容
- OPENING~未確認飛行物体接近中(Live)
- 大掃除(Live)
- 見まわそう(Live)
- 行方不明(Live)
- 行方不明(DJ Kensei's Smooth Mix)(Music Clip)
- KGDR(ex.キングギドラ) ~「空からの力」20th Anniversary~
- 2015年7月18日(土)
愛知県 Zeep Nagoya「NAMIMONOGATARI 2015」 - 2015年8月15日(土)
東京都 Zepp DiverCity TOKYO「SUMMER BOMB produced by Zeebra」 - 2015年9月6日(日)
福岡県 芥屋海水浴場「23rd Sunset Live 2015 -Love & Unity-」
KGDR(キングギドラ)
Kダブシャイン(MC)、Zeebra(MC)、DJ OASIS(DJ, MC)の3人からなるヒップホップグループ。1993年に前身となるユニット、キング・ギドラを結成。1995年に1stアルバム「空からの力」をリリースすると、その卓越したフロウやトラックのセンスでヒップホップファンから大きな支持を集める。1996年にグループは活動を停止させ、それぞれがソロ活動をスタートさせた。2002年にグループでの活動を再開させ、同年に「UNSTOPPABLE」「F.F.B.」「911(Remix)」「ジェネレーションネスクト」といったシングルを次々と発表。年末に発売したアルバム「最終兵器」はヒットチャートの上位にランクインし、以降のJ-POPに多大な影響を与えた。ふたたびグループとしての活動を休止させるも、2015年に「空からの力」発表から20年目を迎えたことを記念してKGDRとして活動を開始。P-VINE RECORDSの設立40周年を記念した「P-VINE 40th ANNIVERSARY」やRHYMESTER主催の「人間交差点 2015」といったイベントに出演しヒップホップファンを喜ばせた。6月にはアルバム発表前に制作されたデモ音源などを追加収録した「空からの力:20周年記念エディション」を発売した。