音楽ナタリー Power Push - KGDR(ex.キングギドラ)
20年ぶりに降り注ぐ空からの力
リリックは“Words of Wisdom”であるべき
──その後、皆さんラップやDJを真剣に職業として取り組もうとしたのはいつ頃なんでしょうか?
DJ OASIS 俺はターンテーブルを初めて見たのはヒデん家だったな。「なんで2台あるの?」って聞いたら「こういうことなんだよ」って見せてくれて、「うおお、面白いなー」って。俺、メカ好きで、ターンテーブルがほかの楽器と違ってすごい近未来感があると思った。全然違ったね。
Zeebra 俺が中2ぐらいでディスコ行くようになってから「ディスコのDJってこんな感じだったよ」みたいな話を2人でよくしていたよね。それでDJに目覚めていった。それが中2、3くらい。グラミー賞でのパフォーマンスを観ただけじゃわからなかったことも、実際にディスコに行ったら謎が解けて。当時のDJってモニターにヘッドフォンを使ってなくて、内モニターでやってんの。だからブースの前でがっつり観ると、DJが何をやってるのかはっきりわかったんだ。「うおお、すげえ! 音が止まらない、なんだ?」って。兄貴がDJやってるっていう友達がいて、ターンテーブルはTECHNICSのSL-1200 MK IIっていうのを使ってるっていうのを14歳の終わりぐらいに教わって、15歳の初めぐらいにターンテーブルをそろえた。
Kダブシャイン 当時はヒデの家に行ってもキハ(T.A.K The Rhymehead)の家行っても、Trouble Funkの「Pump Me Up」の2枚使いとかやってたね。
DJ OASIS ヒップホップをやるうえで機材をそろえることとレコードを買い続けることは重要なんだけど、DJってリスナーでもできる遊びだから。リスナー感覚で趣味でできるっていう感じだった。「俺も職業としてDJをやりたい」と思うまではちょっと時間があったかな。
Zeebra 俺にとって一番デカいのは、17歳で初めてニューヨークに行って女の子の友達の家に転がりこんだことかな。その子はレゲエとかが大好きで。で、その子の家でDJの練習をしてたんだよ。そうしたらピザ宅配の店員が入ってきて、「おお、いいじゃん! お前DJやって。俺がラップするからよ」とかってその場でセッションが始まって。「なんだこれ?」って思ったけど(笑)……それが88年で、最高だった。毎週ラジオでDJ Red Alertのプレイを聴いて完全にやられちゃってさ、もうラップするしかないなって思ってた。ある日そのラジオで「今週末はアスター・プレイスに集合」って言うから行ってみたら、もうKRS-Oneとかラッパーがいっぱいいるし、それだけじゃなくてジェシー・ジャクソン(※牧師、市民権活動家)までいて。それは「ホームレスに家を!」っていう社会運動のパレードだったんだけど、それを観て「こいつら自分たちのメッセージでニューヨークを動かしている。日本も動かさないと。ラップ書かなきゃ!」って。そしてリリックは“Words of Wisdom”であるべきだって思ったね。
Kダブシャイン で、3人でやろうってなったのは93年。当時俺はオークランドにいたけど、ラップやってる不良とつるんでいると、普通に「ファイブパーセンターズ」みたいな考え方を大事にしていた。
──「ファイブパーセンターズ」とは、マルコムXの流れをくむムスリム系の市民組織、構成員らが自らを“数少ない真の道義を知る教師”とする思想ですね。
Kダブシャイン うん。彼らの説明を聞けばそれは納得できるし、Poor Righteous Teachersやビッグ・ダディ・ケインみたいなアーティストのラップを思想の背景を含めて聴いていたこともあって、自分たちは日本にメッセンジャーとして戻るつもりでキング・ギドラをやるぞ、と思っていた。そしてそれを「空からの力」と呼びたかったんだ。
何が新しいか
──今回収録されている当時のデモ音源も含めて、その頃、具体的にはどのように制作を行っていたんでしょうか?
DJ OASIS 3人で何かやろうってなったときはそれぞれがトラックを作れるようになってたし、毎日ヒデんちに集まってトラック作ったり、ヒップホップについて話したりしてた。その頃は毎日何か常に新しいことを試行しようとしてたと思うね。
Kダブシャイン 俺のオークランドの家にみんなで集まってっていう期間が半年ぐらいあって。そのあと俺が日本帰ってヒデの家に半年住んで、それで毎日オアと会って……。
Zeebra 「こんな曲入れよう、あんな曲入れよう」って、テーマとかトピックとかをコッちゃん(Kダブシャイン)がある程度作っていった。「これまでに作った曲を踏まえて、アルバムだからこういう曲を作るとよくね?」みたいな青写真に沿ってトラックを作ってたね。コッちゃんはリーダーとしてレコード会社との契約の話とかもやる人、俺はビートを作ってラップもする人、オアはビートを作ってDJもやる人、みたいに役割も決まってきて。
Kダブシャイン 3分の2はトラック先行、3分の1はトピックを設けて作るみたいなやり方だったかな。
──アルバムを聴いていて、当時のデモ音源のクオリティの高さはもちろんですが、その後1年半経ってリリースされたこのアルバムの完成度が桁違いだということに気付かされました。それと、以前から指摘する人も多いジャズの要素はもちろんのこと、フューチャーファンク、スペースファンクとしての「空からの力」のサウンド……これは今回のリマスタリングでより鮮明になったと言えるのでは?
Kダブシャイン OASISを紹介してもらって、そこですぐ作ったトラックに何かスクラッチを乗せようよってことになって、それでできたのが「Power from the sky……」っていうライン。それがぴったり合って、「空からの力」のコンセプトが決まっていったんだよね。あとキング・ギドラって宇宙怪獣で、宇宙からの使者なわけだから、それを感じさせるサウンドにしよう、って。そうやってコンセプトありきでだんだんサウンドも決まっていったんだ。宇宙観ってとことで、Parliamentとかは意識してた。
Zeebra うん。デモのほうは特にそういう感じだったよ。Pファンクのイメージがぴったりきてた。
DJ OASIS あの頃って、スペースファンク的なグループがほかにいなかったかもね。個人的にはトラックメークを始めてからけっこう時間が経っていた頃だったから、単に有名なネタを組み合わせるっていうんじゃなくて、自分なりのサウンドの作り方はつかめてた。とにかくこのアルバムについて言うなら、あのとき一番ホットなサウンドだったってこと。
Zeebra ヒップホップって、フレッシュなこと……つまり「今、このときに何が一番新しいか」ということだと思う。それはスニーカーとかも含めたスタイルからサウンドまでそう。そういうことは意識して作っていたよね。
Kダブシャイン うん。「これは今リリースしたら古いんじゃないか」っていうのはどんどん捨ててった。
次のページ » 当時の日本語のラップに影響されてはいなかった
- デビュー20周年記念作品「空からの力:20周年記念エディション」2015年6月17日発売 / P-VINE RECORDS
- 「空からの力:20周年記念エディション」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / PCD-18788/9 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2700円 / PCD-25178 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- 未確認飛行物体接近中(急接近MIX)
- 登場
- 見まわそう
- 大掃除
- コードナンバー0117
- フリースタイル・ダンジョン
- 空からの力~Interlude
- 空からの力 Part 2
- 星の死阻止
- 地下鉄
- スタア誕生
- 行方不明
- 真実の弾丸
- コネクション~Outro
- 空からの力(Mind Funk Remix)
- 行方不明(DJ Kensei's Smooth Mix)
- 真実の弾丸(Flute Mix)
- 見まわそう(Original Demo Version)
- 空からの力 Part 1(Original Demo Version)
初回限定盤DVD収録内容
- OPENING~未確認飛行物体接近中(Live)
- 大掃除(Live)
- 見まわそう(Live)
- 行方不明(Live)
- 行方不明(DJ Kensei's Smooth Mix)(Music Clip)
- KGDR(ex.キングギドラ) ~「空からの力」20th Anniversary~
- 2015年7月18日(土)
愛知県 Zeep Nagoya「NAMIMONOGATARI 2015」 - 2015年8月15日(土)
東京都 Zepp DiverCity TOKYO「SUMMER BOMB produced by Zeebra」 - 2015年9月6日(日)
福岡県 芥屋海水浴場「23rd Sunset Live 2015 -Love & Unity-」
KGDR(キングギドラ)
Kダブシャイン(MC)、Zeebra(MC)、DJ OASIS(DJ, MC)の3人からなるヒップホップグループ。1993年に前身となるユニット、キング・ギドラを結成。1995年に1stアルバム「空からの力」をリリースすると、その卓越したフロウやトラックのセンスでヒップホップファンから大きな支持を集める。1996年にグループは活動を停止させ、それぞれがソロ活動をスタートさせた。2002年にグループでの活動を再開させ、同年に「UNSTOPPABLE」「F.F.B.」「911(Remix)」「ジェネレーションネスクト」といったシングルを次々と発表。年末に発売したアルバム「最終兵器」はヒットチャートの上位にランクインし、以降のJ-POPに多大な影響を与えた。ふたたびグループとしての活動を休止させるも、2015年に「空からの力」発表から20年目を迎えたことを記念してKGDRとして活動を開始。P-VINE RECORDSの設立40周年を記念した「P-VINE 40th ANNIVERSARY」やRHYMESTER主催の「人間交差点 2015」といったイベントに出演しヒップホップファンを喜ばせた。6月にはアルバム発表前に制作されたデモ音源などを追加収録した「空からの力:20周年記念エディション」を発売した。