KERENMI 蔦谷好位置×アヴちゃん(女王蜂)×RYUHEI(BE:FIRST)鼎談|情熱と衝動が共鳴したコラボ曲「アダルト」 (3/3)

「この人、めっちゃ怒ってるじゃん」

蔦谷 今回、RYUHEIくんも歌詞を書いてくれたけど、打ち合わせでアヴちゃんがRYUHEIくんに「枕に向かってガーッと叫びたいとき、あるでしょ?」って言っていて。

アヴちゃん 「叫びたいなら、ギャーでもいいから叫びなよ」って。

RYUHEI そういうことをちゃんと言ってくださるところが、本当に素敵で。叫ぶのにこんなに必死になったことなかったです。僕、端から見ると叫ばなそうな人間だと思うんですけど……。

アヴちゃん え、そう? 私がRYUHEIさんのことが好きなのは、めっちゃ怒っているからなんですよね。初めて映像でRYUHEIさんを見たときから「この人、めっちゃ怒ってるじゃん」と思った。「全身で怒ってるな」って。それで「女王蜂が好き」って聞いたから、納得した。そのあと初めて会っておしゃべりをしたときも「こんなに怒っているんだったら、私とサシでやってくれるかな」と思ったの。

RYUHEI ……今言われたからそう思うだけかもしれないけど、でも、そうなんですよね。昔から体の大きさがコンプレックスだったりして。だからこそ、身長が伸びて「大人っぽいね」と言われたり、「幼いのにダンスうまいね」と言われたり、そうやって褒められることがうれしくて。そのうれしさでほかの人のことを考えすぎて、俯瞰視しまくってきたんです。「誰かが気持ちよくなってなきゃいけない」という状況を無意識に作ろうとする癖がついていて。「ほかの誰かが一番」の状況にずっといたから、誰かと一緒のラインで踏み出すということに慣れていなかった。そういうことに、ここ最近でやっと触れてきたからこそ改めて思うんですけど、中学校の頃の自分って、一匹狼みたいなやつだったんです。1人で歩くことしかできないけど、ほかの人の目はめちゃくちゃ気にするから、勝手に自分の中に感情が溜まっていく。そういう連鎖がずっと続いていて……だからアヴちゃんが言っていることは合っているのかも。怒っているかどうかは自分では理解していないけど、何かは出ているのかもしれない。

アヴちゃん 私は「めっちゃ怒ってる」と思いましたよ。

RYUHEI それは、踊りとかを見て?

アヴちゃん ううん、いるだけで。

RYUHEI (笑)。

アヴちゃん (笑)。蔦谷さんも、ひさしぶりにお話したときに「今いける」というタイミングなんだと感じました。バンクシー的に「ここに入れたったんや!」って、自分のマークを強く打ち出せる瞬間が今、来ている。それは、同じラインで生きている人は絶対に気付くと思う。だから打ち合わせでいろんなことを話してくださったんだと思うし。私は、情熱の言語化をあきらめないでよかったなと思います。歌詞が書けてよかったなって。歌詞を書くってすごいコミュニケーションの方法だと思うんです。作る人のダイイングメッセージみたいなものだと思うから。

アヴちゃん(女王蜂)

アヴちゃん(女王蜂)

誰でもない自分を真剣に見てもらえた

RYUHEI 歌詞を書くときに、アヴちゃんが「歌詞は“脱いだ言葉”で表してほしい」と言ってくださって。「脱いだ言葉か……」と考えたうえで書きました。今まで、歌やダンスの練習に通って、「正解」を探してその場で当てていくということを繰り返してきたんです。その中で「周りのほうがうまい」とか「この人はこの先生の正解に近い」とか、そういうものがあって。自分もその正解に近付きたいんだけど、そうしようとすればするほど自分が崩れていくし、逆に戻そうとすると手に入れたものがなくなっていってしまう……スランプみたいなものですけど、そういう状況があって。それを表現したのが「もっと欲しいが無くせない荷物」という部分なんです。

アヴちゃん 素敵だと思う。

RYUHEI 僕がアーティストになりたいと思ったのは小学校2、3年生の頃にダンスボーカルに興味を持ち始めたのがきっかけなんですけど、「人を動かす力を持つ歌やダンスってなんなんだろう?」とずっと考えてきたんです。僕は今でも、自分の好きな人の歌声を聴くと泣きそうになる。歌詞がわからない、日本語ではない歌でも、聴いたら泣いてしまう歌声が自分には昔からあって。泣いてしまうというか……壊されるような感覚になる。そういう感覚を自分から人に与えることをプロになってから意識し始めたんです。「自分の言葉を聞いて応援してくれる人って、何を求めているんだろう?」とか。それに気付くことができる段階ではないことは自覚しているんですけど、アヴちゃんから「脱いだ言葉」と聞いて、自分が「脱いだ言葉」を出せば、今、自分のことを好きでいてくれているファンの方々は「もっと欲しい、もっと欲しい」と思ってくれるのかなと思って。そう考えて、過去も包み隠さずに書いたのが今回の歌詞です。

アヴちゃん 私のことで言うと、たくさんの人に好きになってもらう状況ってありがたいけど、もともと、私は自分で自分を好きになるところをがんばらなきゃいけなかったんですよね。私や蔦谷さんだったら、曲を作ることがステージに立つよりも先だったりするし、自分のバンドを組むこととオーディションに参加することの違いはやっぱりあるんだと思う。愛されてからスタートするかどうかの違い、というか。それで言うと、今の私は「もはや、愛しにいっているのかな?」と思う瞬間もある。愛せるかどうかを選んでしまう瞬間もあるしね。何にせよ、私が書いた歌詞に対して差し込まれる言葉が気取った言葉だと、割れちゃうというか、浮いちゃうかなと思って。それがどんな短いセンテンスでもいいと思うんです。本当に嫌だったことや、嫌なやつの名前でもいいかもしれない。でも、それがミステリアスなものになって、誰にでも伝わるものになるかどうかは、熱源がちゃんとあるかどうかだと思っていて。それもあって「脱いだ言葉」というオーダーをさせていただいたんです。

RYUHEI うれしかったです、すごく。

アヴちゃん そうでないとぬるいじゃないですか。ぬるいし、失礼だし、そんなの優しくもなんでもない。もっと熱くて、愛のあるものじゃないといけない。“勝負”だと思ったので。ビビらなくていい、全然「ちょうどいいもの」なんていらない、そういったこっちの気持ちをRYUHEIさんはちゃんと読み解いてくださったなと思います。

RYUHEI 普段、僕たちの曲のディレクションは社長のSKY-HIさんがやってくださっているんですけど、今回のレコーディングは全然違うものでした。普段の自分では受け入れない部分まで感性として見てくれている空間のような気がして、幸せでした。レコーディングのとき、自分が「誰でもない感じ」がしたんです。僕の歌声をただただまっすぐ、そして真剣に聴いてくれている感じがして、それがうれしかったです。ほかにない出会いを、僕はできたんだなって。

アヴちゃん すごい!

蔦谷 めちゃくちゃうれしいですね。

RYUHEI 僕は人のダンスを見るとき、その人が手を横に広げた瞬間に、自分の命をどこまで指先にまで研ぎ澄ませているかを見るようにしているんです。僕がよく教えられていたのは、指先から金の糸が出ているイメージ。それを生かすか生かさないかで、踊る人の考えていることや性格までわかると教え込まれてきた。それはほかのこともきっと一緒で。今回、アヴちゃんのボーカルのレコーディングをしているとき、目をつむりながら鍵盤の1つひとつを触って探っている蔦谷さんの後ろ姿を見たときに、「情熱」という言葉すら小さく感じるほどの心の炎を感じて。

蔦谷 ありがとうございます。

RYUHEI 僕はデビューした当時からグループで活動していて、それは自分にとって気持ちいいもので、そこにハマっている自分もいるんです。でも、今回は自分から動いたことに達成感というか、新しい楽しさを見つけることができた気がします。自分から動くとこんなにも見え方が変わるんだなって。やっぱり周りにBE:FIRSTのメンバーがいない状況って慣れていないんです。でも、そこに踏み出した自分に、この話を受けた自分に「ありがとう」と言ってあげたいです。

アヴちゃん 蔦谷さんから曲が送られてきてから、この取材まで、まだ1カ月ちょっとしか経っていないんですよ(笑)。激動ですよね。

蔦谷 本当だね(笑)。

アヴちゃん いつか、この曲をライブでやる日が来てほしいですね。この曲の1つの正解をレコーディングできたと思うし、MVもそういうものにできたと思うけど、でも、もっとたくさんの正解がある曲でもあると思うので。

左から蔦谷好位置、RYUHEI(BE:FIRST)、アヴちゃん(女王蜂)。

左から蔦谷好位置、RYUHEI(BE:FIRST)、アヴちゃん(女王蜂)。

プロフィール

KERENMI(ケレンミ)

YUKI、ゆず、エレファントカシマシ、米津玄師、back number、Official髭男dismなど数多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュースを担当するほか、映画やCM音楽なども幅広く手がける音楽プロデューサー・蔦谷好位置による変名プロジェクト。トラックメイカーとしての側面を強く打ち出したプロジェクトで、“KERENMI”は外連味(ケレン味:意表をつく・奇抜・ハッタリ・粋)を意味する。

アヴちゃん

バンド・女王蜂のボーカリスト。2009年に結成し、2011年にメジャーデビューを果たす。高音と低音を使い分ける個性的なボーカル、独自の世界観を貫くパフォーマンスと存在感で注目を浴び続けるほか、アニメや映画とのタイアップ曲を含めた作品を多数リリース。2023年5月にはテレビアニメ「【推しの子】」エンディング主題歌のシングル「メフィスト」をリリースし、ロングヒットを記録している。バンドの活動と並行して幅広いアーティストへの楽曲提供やプロデュース活動も展開。今年5月にはプロデューサーを務めた7人組グループ・龍宮城がメジャーデビューした。

RYUHEI(リュウヘイ)

2006年11月7日生まれ、7人組ボーイズグループ・BE:FIRSTのメンバー。2021年8月にシングル「Shining One」でプレデビュー、11月にシングル「Gifted.」でメジャーデビューする。9月からは初の全国ツアー「BE:FIRST 1st One Man Tour "BE:1" 2022-2023」を開催。12月には「NHK紅白歌合戦」への初出場も果たした。2023年8月25日にはグループにとって初のライブドキュメンタリー映画「BE:the ONE」の公開、9月13日にはニューシングル「Mainstream」のリリースを控えている。