アナログ派の矜持がここには詰まっている
──アルバムの1曲目を飾る「Parasites」に、「Forms decay, we will die, but our souls somehow survive / Living in someone as parasites(肉体は滅び オレ達は死ぬ しかし魂は生き残るのさ / 誰かの寄生虫としてね)」という歌詞がありますが、音楽のポジティブな価値について、恒岡さんの死と向き合った今の健さんだから歌えることを、エネルギーを込めて歌っていると感じました。
横山 自分の賞味期限が切れたとしても、次の世代に寄生して生き残ってやるっていう。音楽とか文化って、そういうもんだろって。ちょっと自虐も入ってますけど。誰かの心に寄生してまで生き残りたい欲って、みっともなさもあるかもしれないけど、カッコいいと思うんですよね。それをてらいもなく出すことが、自分ではイケてる気がします。
──リリースペースは音楽シーンの潮流に合わせた動きを選ばれましたけど、アルバムの中身、特にサウンド面は決してそうではないですよね。音作りに関してはどういったこだわりがあったのでしょうか?
横山 歌も楽器も、感情的になっている自分をパッケージすることをすごく意識しましたね。
──実際、アルバムを聴いてそれはすごく感じました。ギターのハウリングやシンバルの響きがゆっくり消えていくところまで録音されていたり、呼吸が荒れている感じが音に乗っていたり。その音に終始、心が震えました。
Minami まったく修正してないわけではないですけど、あんまりやっちゃうとKen Bandらしさがなくなるから、いいさじ加減で。ライブでも決してものすごくタイトというわけではなく、その時々の健さんの感情とかをすごく大切にしているバンドなので、それをアルバム音源でもちゃんと再現することは大切にしました。
横山 今の時代、1人で曲を作って、発信までできるじゃないですか。それはそれで否定することではないんですけど、僕たちみたいなアナログ派の矜持がこのアルバムには詰まっている感じですかね。本当にアナログなんですよ。メンバーのスケジュールを聞いて予定を立てて、街の練習スタジオを予約して、逆算して曲を作って……と全部人力でやってるので。アルバムのタイトル、「人力のすべて」にすりゃよかったな(笑)。
Minami バンドでも、作曲者がある程度打ち込みで作って、それをデータでメンバーに送るというやりとりをしているところが多いと思うんですけど、僕らはスタジオに集まり、健さんが実際に楽器で曲を弾いてみせて、それを各自で録ってという感じ。
横山 打ち込みができないっていう、まず技術的なジェネレーションギャップもあるんですけど(笑)。それに全部自分で作っちゃうとイメージが限定されちゃうと思うんですよね。バンドマジックが起こらない気がするんです。だからあえて1人で音を作ることを避けている部分もあります。
──「心を癒すものとしての音楽の価値」「ロックバンドのカッコよさ」が失われていることと、録音物がきれいになりすぎてバンドマジックが音源から消えていることは、無関係ではないんじゃないかと考えてしまうんですよね。
横山 それはレコーディングの現場にいるとよく思いますよ。全部修正できるじゃないですか。そうすると、いい意味での揺れとかもなくなるんですよね。確かに、マジックが入ってる音源が少ないから、最近の音楽に魅力を感じないというのはありますね。
思いついたことは全部実現させる
──今の音楽に対する悲観的な話もしてしまいましたけど、このアルバムの大事なところは「A Pile of Shit」で社会のクソみたいなことを痛快に蹴散らし、「Long Hot Summer」で太陽が降り注ぐようなサウンドスケープで「Anything, make it real(オレたちには不可能はないんだ)」と歌い、そして「Heartbeat Song」で死ぬまで全速力で駆け抜けていくステートメントを表明して終わるという、健さんのエネルギッシュな生き様も見えるところだと思っています。
横山 僕の中にすごくネガティブな部分と、希望を持ったポジティブな部分、人として両面があるんですよね。歌詞書くときに、どちらが真ん中にあるのかはわからないですけど、どこかの面が顔を出すわけで。今回も希望を歌っている歌がいくつかありますし。そういう曲は人前で歌うとまた別の“希望”として跳ね返ってくるんですよ。言霊じゃないですけど。だから最近、前よりも「希望を歌いたい」と思うようにはなってきましたね。ライブをやっていると特にそう思います。「世の中の不条理とかを暴くのがパンクだろう」という意見もあると思うんですけど、怒りを書こうとして曲作りに取りかかるのは、ちょっとね、ネガティブすぎるかなって最近は思うんです。僕は時代を射抜いたような意見、怒りを言葉や歌にすることのカッコよさを浴びて育った人間なので、表現方法としては当然ありだと感じますけど、なぜかね、最近はステージに上がると希望を歌いたいなと思うんですよね。
──それはどうしてなのでしょう。健さんの心の状態によるものなのか、時代の影響もあるのか。
横山 コロナがあったこともデカいかもしれないです。本当に怖かったじゃないですか。先が見えなかったし。なかなかない、全世界共通の体験だったと思うんですね。特にコロナ以降だな、そうやって希望を歌いたいなと思うようになったのは。
──Minamiさんも、健さんのそういった変化を感じるところはありますか?
Minami ありますあります。らしくないなと思っちゃう部分も正直あったりはするんですけど、健さんがこういうことを言うことで勇気付けられる人はたくさんいるんだろうなと思いますね。
横山 らしくない?(笑)
Minami 例えば1stアルバムの「Believer」って、自分に対しての「I'm a believer」で、人に対してではないじゃないですか。もちろん、それを自分に当てはめて聴く人もいるだろうけど。「These Magic Words」みたいな打ち出し方で希望を歌うのが、当時からしてみるとらしくないなと思ったんです。
横山 なるほどね。
──「Indian Burn」を締めくくる「Heartbeat Song」は、最期の日までどうやって生きていくのかということを提示した1曲でもあると思うのですが、改めて、このアルバムを作り終えた今、どういうふうに生きていきたいと思っていますか?
横山 音楽をやってて、バンドをやってて、「ああ、あれやっときゃよかったな」と思うことがなるべくないように人生を駆け抜けたいなと思っているんですね。そう思っていたってやり残しは絶対に出てくるだろうから、もう本当に全速力で、思いついたことは全部実現させるくらいの勢いで生きていきたいです。「こういったアルバム作りたい」と思ったらすぐに取りかかる。明日何かを思ったら、もう明日中に手つける。もう50代なので、きっとそんなに先も長くないだろうから、それくらいのスピードで走りたいですね。「これをやりたい」と思ったことは全部やりたいです。
ライブ情報
Ken Yokoyama「Indian Burn Tour」
- 2024年2月16日(金)東京都 Spotify O-EAST
- 2024年2月17日(土)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
- 2024年2月23日(金・祝)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2024年2月25日(日)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2024年3月2日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2024年3月3日(日)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2024年3月9日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2024年3月10日(日)香川県 高松MONSTER
- 2024年3月26日(火)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2024年3月27日(水)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2024年4月7日(日)福岡県 福岡 DRUM LOGOS
- 2024年4月8日(月)長崎県 長崎 DRUM Be-7
- 2024年4月13日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2024年4月20日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2024年4月26日(金)東京都 立川ステージガーデン
プロフィール
Ken Yokoyama(ケンヨコヤマ)
Hi-STANDARDの(G,Vo)横山健が、2004年2月にKen Yokoyama名義のアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースし、バンド活動を開始。2008年1月に初の東京・日本武道館公演を行った。2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で実施し、2013年11月には横山のドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が劇場公開された。2023年5月に約8年ぶりとなるシングル「Better Left Unsaid」を発表し、初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブを開催。9月には木村カエラをゲストボーカルに迎えた楽曲「Tomorrow」を含むシングル「My One Wish」、11月に2023年第3弾シングル「These Magic Words」をリリースした。2024年1月にフルアルバム「Indian Burn」を発表。2月から全国ツアー「Indian Burn Tour」を行う。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は横山、Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、EKKUN(ex. Joy Opposites、FACT)の4人編成で活動している。
Ken Yokoyama(Band) OFFICIAL SITE