Ken Yokoyama「Better Left Unsaid」インタビュー|コロナ禍を乗り越え新たなステージへ

Ken Yokoyamaがニューシングル「Better Left Unsaid」を受注生産限定でリリースした。

2015年リリースの「I Won't Turn Off My Radio」以来、約8年ぶりのシングルとなる今作は、横山健(Vo, G)らしいメロディアスで明るいサウンドながらも「言わないほうがいいことだってあるんだ」と独白するビターな歌詞を採用した楽曲となっている。

音楽ナタリーでは、コロナ禍にあえいだ約3年を乗り越えて、新しい一歩を踏み出したKen Yokoyamaにインタビュー。3月にスタートし、ひさしぶりの声出し解禁でも話題になったライブハウスツアー「Feel The Vibes Tour」の手応えをはじめ、シングルの内容、さらに5月20日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で開催するワンマンライブ「DEAD AT MEGA CITY」に向けての思いを聞いた。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 西槇太一

熱狂のライブハウスが戻ってきた

──まずは3月13日にF.A.D YOKOHAMAから始まったライブツアー「Feel The Vibes Tour」について聞かせてください。全国9カ所のライブハウスを回るこのツアーで声出しが解禁されたわけですが、初日の3月13日はマスク着脱が個人の判断に委ねられるようになった日というタイミングとも重なりました(参照:Ken Yokoyamaがライブハウスに帰ってきた!ツアー初日の第一声「この感じ、ひさしぶりだな!」)。

Hidenori Minami(G) もともとは「そろそろ少しずつ昔の形に戻したいよね」というコンセプトのもとにツアーを組んだので、思ってもいない偶然といいますか。

横山健(Vo, G) とはいえ、ステージに上がる前に多少不安はあったよね。

Minami まあね。

横山 コロナ禍でこちらも3年分歳を取っているじゃないですか。しかも、その間に環境のいいところでのライブにも慣れてしまっていたのもあって、正直「ああ、戻ってきちゃったよ……」という気持ちもありました。ただ、音を鳴らしちゃえば「そう、これこれ!」って感覚に戻りましたけど。

横山健(Vo, G)

横山健(Vo, G)

Jun Gray(B) 俺は単純に疲れました(笑)。この3年間はZeppとかでライブをやっていましたけど、環境がいいからそれ以前と同じ長さのライブをやってもそこまで疲れるというわけではないんです。でも、今回みたいに小さい規模感のライブハウスでやってみると、2倍とまでは言わないけど1.5倍くらいは疲れるものなんだなと。それを3年で忘れてしまったことに気付き、また体力作りをしないとダメだなと実感しました。

横山 ベースをベンベン弾いてるだけでそれですからね(笑)。

Jun うるせえよ、ベンベン弾いていても疲れるんだよ!(笑)

──EKKUNはあの規模感の会場で、ステージの後ろでドラムをひたすら叩き続けるのは熱気とかもあってかなり過酷ですよね。

EKKUN(Dr) めちゃめちゃ暑くて、サウナ状態でした(笑)。いつも通りの感覚でやろうとライブに臨んだんですけど、ひさびさに目の当たりにする、人がわちゃわちゃしている光景によってテンションが上がりました。

横山 去年の暮れにライブハウスツアーをやろうと企画して組んだんですけど、そのときには世の中がどうであれ、ああいうライブをしようとは思っていたんです。もう数カ月前のことは皆さんお忘れかもしれないですけど、国から補助金も出なくなり、それなのに会場には50%しか(観客を)入れられない、そうなるとライブハウスも商売にならない。当然バンドも一緒です。そこでこのコロナ問題に対して国の指導力がまったくないと痛感して、「だったら勝手にやります!」ってつもりでライブハウスツアーを組んでいたんですね。ただ、コロナに対する恐怖感を持った方がそこにどれくらい来てくれるのか、なんの規制もなくどれだけ楽しんでもらえるのかは未知数。で、マスクに関するアナウンスがあって……考えてみると、本当に国の指導力がないですよね。どうしてほしいのかわからないですもん。どうしてあげようというのも伝わってこないですし。

──外面だけいいところを見せようという姿勢が、特にここ数年際立ちますよね。実際に、海外では昨年の時点で普通にマスクを外して、フルキャパのライブも開催されていました。もちろん、そこには行く行かない、マスクを付ける付けないという自己判断もあって成立しているわけで、なんで日本はこんなに遅れているんだろうと、この1年でモヤモヤが増すばかりでしたし。

横山 日本ってなんなんだろうと、本当に思いますよね。だって、マスクをしていればキャパ50%で声出しありと言われても、「それって本当に安全なの?」と思いますし。じゃあ、何が安全で何が安全じゃないのかしっかり検証して、生活者に提示すべきですし、提示できるほどのデータがないんだったら縛るべきじゃない。

──その検証自体やる気もないわけで、今は「結果、よかったね」で終わろうとしている。そこに気持ち悪さを感じますし、その気持ち悪さが常に付きまとっていたからこそ、僕は3月24日の東京・ANTIKNOCKで目にした光景に心を揺さぶられたんです。周りのお客さんに目を向けると、心の底からの喜びを大声で伝えている人もいれば、感極まって静かに涙を流す子もいた。それぞれいろんな感情を抱えてここに集まったんだなと、1人ひとりから伝わってきました。と同時に、アーティスト側では数曲ごとに「後ろに一歩ずつ下がって」とお客さんに促したり、換気の時間を何度も作ったりと、来場者に対しての安心要素もしっかり用意していました。

横山 お客さんもこういうシチュエーションは3年ぶりですしね。3年間って意外と長いですし、体力も落ちるわけで、かつて培った感覚も忘れてしまっている人もいる。演者としてそこは意識して、換気の時間をたくさん用意するなどして、コントロールすることにも努めました。ただ、やってみて思ったのは、観客の声があるかないかは相当大きいなと。ホールでやっているときも、客席からの熱量は伝わるんです。ただ、「ここで声が聞こえてくればなあ……」とはいつも感じていて。客席がグシャッとカオスにならなくても「コミュニケーションさえ取れれば、こっちの一方通行感は薄れるのにな」とは思っていたので、このツアーは僕個人的には本領発揮という感じですね。

──それこそお客さんをイジったり、逆にメンバー間でのやりとりに対するお客さんからのリアクションだったり、ああいう光景もひさしく見られなかったですものね。ANTIKNOCK公演では新宿という場所にちなんだ、お客さんからのEKKUNイジリもありましたし(笑)。

一同 (笑)。

EKKUN めちゃめちゃビビりました。でも、嫌な気はしなかったです(笑)。

EKKUN(Dr)

EKKUN(Dr)

Hi-STANDARDカバーをやった理由

──そのツアー初日やANTIKNOCK公演ではHi-STANDARDの「THE SOUND OF SECRET MINDS」を披露していましたね。

横山 Ken Yokoyamaではこれまで、(Hi-STANDARDの)「STAY GOLD」と「THE SOUND OF SECRET MINDS」をたまにやっていまして、今回あの曲をチョイスしたのは演奏できるからという理由なんですけども、前もってセットリストには入れていなかったんです。ただ、今回のツアーでは「Without You」という亡くなった友とそのあとに続いていく時間についての曲をやっていて。それをツネ(恒岡章)に向けてというわけではなく……メンバーの3人には付き合ってもらう形になってしまうけど、自分の感情を表現するのにすごく合っていると思って、このツアーでは毎日演奏したんです。で、「Without You」をやるとやっぱり「THE SOUND OF SECRET MINDS」もやりたくなるんですよ。なので、出番前に「もし(『THE SOUND OF SECRET MINDS』を)やりたくなったら言うね」とメンバーに伝えてからステージに出ていて、決まった流れではなかったんですけど、理由は言わなくてもきっと演奏するだけで皆さんわかってくれるだろうと。なので、僕がやりたかったから、それをメンバーが気持ちを汲んでくれたからというだけなんです。

2019年にできた曲はコロナ禍を知らない

──あの2曲の流れを、会場にいた皆さんはしっかり受け止めていたと思います。あと、個人的には今回のツアーを通してアルバム「4Wheels 9Lives」の楽曲がようやく消化できた気もしていて。フロアとの相互作用もあって、「そうか、こうやって響かせたかったんだ!」と落としどころが見つかるきっかけにもなりました。

横山 それは演者もまったく一緒で。まさに「4Wheels 9Lives」なんて曲は、みんなでイエーイ!って歌うために作ったようなもので、なぜそれをコロナ禍にリリースしたかがまた謎なんですけど(笑)、本当にやっと「この光景が見たかった」というところにまで来られましたね。

Minami 自分の中ではまだあのアルバムのリリースの流れにいるので、やっとこれで決着がついて次の作品にバトンタッチできるかなと思います。

Hidenori Minami(G)

Hidenori Minami(G)

横山 そうそう、まだ「4Wheels 9Lives」の流れの中にいるよね。

EKKUN 僕は自分が加入してから最初のアルバムなので、それまで収録曲を演奏しても遠くのほうでみんな手を挙げるくらいだったのが、急に目の前に人が飛んでくる形に変わったことで、より手応えが得られて興奮しました。

Jun 健が言ったように、「4Wheels 9Lives」は当然シンガロングする曲だよなと思って作ったけど、リリースしてもコロナ禍だし、リアクションはあったけどお客さんは声を出せない。それがF.A.Dからツアーを始めてみたら、声がダイレクトに聞こえるようになって。「これよ、これなんだよな。結局このために作っていたんだよ!」と正解がつかめた気がしました。

Jun Gray(B)

Jun Gray(B)

横山 「4Wheels 9Lives」というアルバムは2021年にリリースしたけど、曲作りは2019年から始まっていた。こういう世の中になるなんて想定しないで作った曲たちだったので、しょうがないですよね。思ったことをすぐに吐き出せるわけではないので。結果として何年も時間がかかってしまったけど、なんとか着地できてよかったなという気はします。

──変な話、僕はリリースされた当時よりも今のほうがリピートしていますから。

横山 本当ですか。

──ライブでの見せ方、伝え方が理解できたからこそ、こちらも受け取り方がわかったといいますか。

Jun ホールやZeppみたいな会場でやっていたときって、ライブの仕方としてもちょっとミディアムな曲を多めに入れるようにしていたしね。うちらみたいな形態のバンドは、2ビートの曲を立て続けにやってフロアがグシャッとなる、それでライブが成立していたところもあったから、ホールでは勝手が違って、2ビートの曲をやってもかわいそうになってしまうというか。お客さんは楽しんでいるかもしれないけど、その場から動けない。でも、やらないわけにはいかないからやるんだけど、こっちから見ていても「そうだよね、動けないよね」と。それがこのツアーからは3年以上前とほぼ変わらない感じになったことで、ようやく「4Wheels 9Lives」の曲が報われたのかもしれないですね。