Ken Yokoyamaが約5年ぶりのオリジナル作品となる1stミニアルバム「Bored? Yeah, Me Too」をPIZZA OF DEATHの通販サイト限定でリリースする。
「ヒマだって? ああ、俺もだよ」という意味のタイトルを冠した本作は、コロナ禍でシリアスな空気が漂う世の中に投じられる、Ken Yokoyama(Ken Band)初のミニアルバム。横山健(Vo, G)のポップセンス、アレンジセンスが凝縮された楽曲が全6曲収録される。音楽ナタリーでは横山、Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、そして2018年末に加入したEKKUN(Dr / ex. Joy Opposites、FACT)の4人にインタビュー。2019年9月の横山の体調不良によりライブ活動を中止して以降、約1年間の沈黙を破った彼らが、これまでにどんなことを思い、音楽と向き合ってきたのか。現代における情報発信の難しさを抱えつつ、分断しがちな世の中だからこそ生まれたとも言える彼らの作品の真のテーマに迫った。
取材・文 / 矢島大地 撮影 / 西槇太一
ニューチャプターに入ったKen Band
──セルフコンピレーションアルバム「Songs Of The Living Dead」やNAMBA69とのスプリット盤「Ken Yokoyama VS NAMBA69」のリリースが2018年にあったとはいえ、Ken Yokoyama単独の完全新作としては実に5年ぶりになります。サウンドもメロディの躍動感も、本当に素晴らしい作品でした。
横山健(Vo, G) おっ、ありがとうございます。
──2年前にEiji(EKKUN)さんが加入されてから初の単独作品ということで、必然的にバンドの構造もサウンドも変化するところがあったと思います。実際に楽曲の躍動感とキレからフレッシュさを感じたんですが、ご自身としてはどんな手応えを感じていますか?
横山 今年の春に出たPIZZA OF DEATHのコンピレーションアルバム(2020年3月発表の「The Very Best Of PIZZA OF DEATH III」)にはEKKUNと一緒に作った新曲(「Out Alone」)で参加しましたけど、今作は現体制で初の単独作品ということもあって、ニューチャプターに入ったことを明確に表現したい気持ちが強かったです。サウンド面においても、楽曲全体としても、新しいものを示したいなと思って取り組んでいきました。それはメンバーもそれぞれ同じ気持ちだったんじゃないかな。
Hidenori Minami(G) そうですね。バンドって、新しい作品を作ることで固まっていくところがあるんですよ。新しい曲によってバンドが現在進行形になっていくというか。そういう意味でも、新しい体制を定着させるうえでも作れてよかったなと思う作品ですね。
──Jun Grayさんはリズム隊の相棒として、EKKUNさんの加入がもたらしたものをどう感じていますか?
Jun Gray(B) EKKUNはこのバンドで3人目のドラマーになるけど、やっぱりドラムが変わるとバンド自体が大きく変わるんだよね。去年の3月にEKKUNが入って最初のツアーを回ったけど、その時点で個性を存分に発揮できるドラマーだって感じたから、何も心配はなかったかな。ただ、やっぱりFACTとKen Bandではリズムのアプローチやグルーヴの捉え方が当然違いますよね。だからかなり大変だったと思うんだけど、EKKUN自身は絶対に食らい付いてくる気合いのある人間だった。4人のバンドとして固める時間は必要だったけど、今は本当に一緒に演奏しやすいドラマーだと思ってます。
──EKKUNさんご自身は、この2年弱でどんなことを考えながらKen Bandに向き合っていたのでしょうか。
EKKUN(Dr) 新しいメンバーとして入るからには新しい風を吹き込みたいと思っていて。でもJunさんが言ったように、最初はかなり苦労しましたね。FACTではクリックを聴きながら叩いていたのが、Ken Bandではリズムのアプローチだけじゃなくて人間的なグルーヴも要求されるというか……そこを捉えていくのが大変だったんですよ。でも去年ツアーを回ったり、いろんな話をしたりして過ごした期間を経て、このミニアルバムは現時点での万全な状態でレコーディングに臨めた作品だと思うので。100%の「どうだ!」っていう気持ちでいます。
──Ken Bandを拝見してきての印象ですが、音楽的なグルーヴはもちろん、生き様も全部さらけ出してシェアする人間的なグルーヴも要求されるバンドだとお見受けしています。そのあたりはいかがでしたか?
EKKUN そう、まさに生き様を音に乗せることが必要なんだと感じたのが、自分の中での大変さでした(笑)。ただ、自分の年齢を考えても最後の挑戦だと思ってこのバンドに入ったので。その都度難しいトライもありましたけど、絶対に負けたくなかったんです。
フレッシュな方向に進んだバンドの“経年変化”
──今お話しいただいたように、バンドの風通しのよさが曲の躍動感にもサウンドの爽快感にも表れている作品だと思って。全曲が突き抜けたポップさを持っているし、前作「Sentimental Trash」までに積み上げられてきた技巧も随所で効いている、すごく豊潤な作品だと感じました。
横山 ああ、うれしい。俺、「豊か」とか「豊潤」と言われるのが一番うれしいんですよ。例えばBad BrainsやSnuffみたいな、パンクでありハードコアでもありつつ、いろんな音楽のエッセンスが随所に感じられるバンドが好きですし。だから僕のバンド観としてもソングライティングとしても「豊かでありたい」と思ってやってきて。それをどんな形で表現するのかがテーマであり、作品に向かうときにすごく大事だと思ってるんです。
──例えば1曲目の「Runaway With Me」でも、コード感が変わる瞬間に景色が一気に広がったり、歌唱がソウルフルになっていたり、「バンドのニューチャプターを表現したい」とおっしゃった通りの新鮮さが音楽的なキレになっていると感じました。ご自身としては、具体的にどんなイメージを持って制作に取りかかったんですか?
横山 やっぱりメンバーが1人でも変わると、バンドはリセットされてしまうもので。だからソングライティング面での具体的なイメージは、ない状態だった気がします。1人ひとりのプレイヤーとしての個性、人間的な個性までフルに発揮してもらうことで「4人の集団になろう」ということが何よりのテーマだったかもしれないです。やっぱり「過去のメンバーのほうがよかった」なんて言われたら癪じゃないですか。だからこそ、個々が思い切り自分を発揮できる曲を書くことこそがニューチャプターになると思ってましたね。その結果、ちゃんと新しいサウンドを作れたんじゃないかな。
Minami 確かに、すごくいい作品ができたとは思うんですけど、意外と根詰めて作った感じはなくて。むしろ余裕を持って取り組めたんですよ。ベテランの余裕じゃないですけど……。
横山 そうそう、経年変化って感じだよね。だから、曲を作るうえでガラッと何かが変わった感覚はなくて、むしろ「Sentimental Trash」の頃から地続きでずっとここまできてると思うんですよ。
──ただ、経年変化として老成しているという話ではないと思うし、音楽としては非常に若返っていて、瑞々しい作品だと感じるんですね。そう言われてみて、ご自身ではどう思いますか?
Minami 確かに音楽として若返ってるとは思う。それこそ、そこはEKKUNのドラムスタイルが呼んだもののような気がするんですよ。
横山 そうだね。これはレコーディングの話になるけど、EKKUNのドラムって、マイクに乗せたときに“ちゃんと聴こえる”んですよ。
Minami そうそう。点がハッキリしてるんですよね。
横山 その分ビート感を出しやすくなるから、個性をフルに発揮させるという意味で言えば、音楽的な疾走感とか躍動感につながってくる。今回の楽曲は、それがハッキリ出てるとは思いますね。
──まさにそういう楽曲がズラリとそろっていますよね。
Jun 実際、ドラムのビート感によってミックスも変えたもんね。
横山 ああ、そうだ。EKKUNのドラムが立ってるから「ドラムと歌がちゃんと聴こえてればいい」っていうミックスにしたね。これまでは「ギターをもっとドカンと!」みたいな話になることが多かったんだけど、今回は自然と、今までとは違うサウンドになっていきました。
Jun だから今までの作品で一番ドラムが聴こえやすくなって、それによって歌も立つようになってるんじゃないかな。聴きやすい作品というか、メロディのよさも各楽器のフレーズも立体的に入ってくる感じ。
──まさに。4人の音が立体的に絡み合っていることが気持ちよく入ってくる音像ですよね。
横山 メンバーが変わると音も変わるっていう、言葉にすると当たり前のことになっちゃうんだけどね(笑)。ただ、ソングライティングの面では何がどう作用したかをうまく言語化できないんだけど……ただただ、楽曲の形をより立体的に出せるメンバーがそろったという感じですかね。だから、個人的に大きな変化があったかと言われたら、そうでもないんですよねえ。俺自身のメンタリティで言えば、「Sentimental Trash」のタームで箱モノのギターに出会って、古いロックンロールに惹かれるようになって、それを自分の音楽として消化していけることにすごくエキサイトしてたわけです。で、それが一過性のブームかと言ったらそんなことはなくて、音楽家としての血肉にちゃんとなったうえで今がある。だから、何か新しいものを見つけたっていう感じでもないんですよね。
次のページ »
新作のテーマはいつになく不可思議