音楽ナタリー PowerPush - 横山健

横山健&MINORxU監督が出会いからDVD発売までを語る

次はすごく気軽なロックンロールを目指してる

──ちょっと新曲の話も聞かせてください。今回のDVDにはなぜ「Stop The World」という新曲入りCDを付けようと思ったんですか?

横山 いろんな理由があって。1つはバンドが今新曲を作っていて、その中で変わった曲が1曲できたということ。アルバムには向かないけれども、例えばオムニバス盤にはいいかもっていう曲だったんです。もう1つは、やっぱり劇場公開から1年経ってDVDを出すときに、今の自分を入れたいと思ったんですよね。

──歌詞がものすごくタイムリーというか、今日本が直面している現実が描かれていますね。

横山 そうなんです。曲そのものは去年にはあったんですけど、歌詞は今年の初夏ぐらいに書いて。だから今の自分がちゃんと入り込んでるんだと思います。歌詞の内容を説明するのちょっと野暮ですけど、僕的には二面性を入れたつもりなんですよ。例えばすごく表層的なところで、戦争があって一発の爆弾で子供たちが死んでいくという現実を突き付けられて、じゃあ僕たちはどうすればいいのかって考えがある。と同時に、それを全部乗り越えた優しい心を持つ人もいるわけです。すごく暴力的な側面と、非暴力な側面。僕の中にも両方あるわけで、どっちが正解というわけでもなく同居している。もちろん戦争が正解ではないと思うけど、ガンジーが正解とも思えないんですよ。そうやって自分で歌詞を書きながら新しい価値観を獲得しようと戦ってる、面白い時期の面白い歌詞になったなと思いますね。

横山健

──これが答えじゃない、これを聴いてあなたは何を感じるか?という楽曲だと思いました。この曲はちょっと変わったタイプだと言いましたが、となると次のアルバムが非常に楽しみになりますね。

横山 そうなんです。次の作品が、ちょっとまた異質なんですよ。「Stop The World」はどちらかというと前作「Best Wishes」の世界観をもっとシリアスにしたものだと思うんです。ところが次のアルバムでは、すごく気軽なロックンロールを目指してるんですよ(笑)。

──ある意味真逆じゃないですか(笑)。

横山 やっぱ反動なのかな。「Best Wishes」のときには自分が戦うべきところをどうやって音楽に反映させるかっていうのをすごく考えたけど、今は社会的なことは社会的なことで置いといて、エルヴィス・プレスリーのここがカッコいいとかそういうことでキャッキャしてる時期ですね。車を運転してるときも初期The Beatlesをすげえ熱唱してるし(笑)。

──ずっと1つのことだけを考えて生きていても息が詰まってしまうこともあると思うし、だからといってそこに背を向けてるわけではないですもんね。

横山 うん。だって当たり前ですけど、僕はただのロックンローラーなんで。今はそれをエンジョイしてる時期ですね。で、レコーディングの直前になると歌詞を書き始めるんですけど、ライトな曲にヘビーなテーマの歌詞を乗っけるっていうこともなんとなく想像できるんです。もしかしたらそこでまたモードがギアチェンジするのかもしれないですね。

──じゃあ完成してみないことには、どういう作品になるかはわからないかもしれないと。

横山 はい。なので楽しみにしておいてください。

映像作家としての生き方を見せてもらいたい

横山 いやあ、今日は面白かったなあ。監督、何か言い残したことない?

MINORxU え? 言い残したこと……。

横山 僕はね、MINORxU監督の次の作品を楽しみにしてるんです。だって4年も5年もずっと一緒にいたから、彼の思考回路とかもわかってるつもりなんですよ。だからそういった彼が次はどんな取材対象をどう切り取るのか、すごい気になるし。こいつ、頭いいんですよ。

左から横山健、MINORxU。

MINORxU いやいやいや(笑)。

横山 それが完成するのは5年後かもしれないけど、映像作家としての生き方っていうものを見せてもらいたいですしね。僕ね、映像作家がもっともっと気軽に、ポンポン出てくる日本になってもいいなと思うんですよ。

MINORxU それに当てはまるのかどうかわかりませんが……映画って制作会社がいて配給会社がいてっていう、ある程度決まったフォーマットがあるんですよね。今回の映画はそれをちょっと逸脱してるっていうか。俺がカメラ1台で撮影して自分で編集してというスタイルで、あの規模感で公開するのって今までの映画にはないフォーマットなんです。もちろん横山さんと撮ったっていうのもあるしPIZZA OF DEATHの人たちが尽力を注いでくれたのもあるんですけど、やり方として多少は夢があるのかなって思いました。普通の映画を撮るよりは小さい規模、少ない予算でもこれだけの作品が成立することが証明できたので、今後の自分の指針にもなったし、誰かにとってもそうなってくれたらいいなと思ってます。

横山 ああ、それはちゃんと話しとくべきだよ。映像作家を目指している人たちのためにも。

──映像に興味を持ってる人が観たら、「この撮り方は面白いな」とか「あ、このスケール感で60館上映なんだ」とかすごく勇気をもらえると思うし、新しいことを始めるきっかけにもなりますよね。

MINORxU そう思ってもらえると本望ですね。

横山健(ヨコヤマケン)
横山健

1969年10月1日生まれ。Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。2013年11月にはドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が、全国60館の劇場にて公開。2014年9月、新曲「Stop The World」を収めたCDが付属したDVD「横山健 -疾風勁草編-」を発売する。