ナタリー PowerPush - Ken Yokoyama

バンド&ソロインタビューで明かす 傑作「Best Wishes」完成までの軌跡

振り幅が大きいアルバムであってほしい

──今回のアルバムはKen Yokoyamaの新作を待っていた人だけではなく、これまでKen Yokoyamaや、それこそHi-STANDARDを知らなかった人にもじっくり触れてほしい1枚だと思います。

例えばKen Yokoyamaの新譜を待ってた方には、普通に5枚目のアルバムとして届くわけじゃないですか。でも、僕の存在を知らない人、果ては日本にこんなロックがあることすら知らない人がこのアルバムを偶然手にしたときにどう思うのかなってことに興味があって。実はそこにいろんな可能性が秘められているのかなって気がしますね。だって、日本人はみんな等しく怖い思いをしたわけですから、音楽としてはただの騒音かもしれないけど、歌詞を読んでもらえたら何かが変わるかもしれないし。

インタビュー写真

──「Best Wishes」って表面上はストレートなパンクロックアルバムなのに、歌詞に目を通すと今までにないくらいに重く暗いテーマで、気軽に聴けそうなのにちょっと背筋を伸ばして聴きたくなるアルバムなんです。

自分が人前に出て、いろんな人が注目してくれて、いろんなものを発信できる立場の人間であるとするならば、やっぱりそういったものを作りたいんですよ。間口がすごく広くて入りやすいけど、誰かにとって生きる上でのヒントになったり、背筋を伸ばさせたり、そういう振り幅が大きいアルバムであってほしい。だって実際、ロッククラシックの名盤と呼ばれる作品も時代を反映した内容でありつつも、どんな角度からも入れるものだったりするじゃないですか。メロディが好き、この歌詞の世界観が好き、あのギターソロが好き、あの曲が持つ時代背景が好き。そういった作品を作りたかったのかなって自分では思いますし、もしそういった作品になってますよって言われるんだったら、それはうれしいですね。

──震災がなかったらこういう内容にはならなかったでしょうし、確実に今しか作れないアルバムだと思います。だからこそこのアルバムを作れたことに対する達成感があるのかなと思うんですが。

そうですね。認めたくないですけど、もしかしたらあるのかもしんないですね。まあここは文末に「カッコ苦笑い」と付けておいてください(笑)。

「Best Wishes」は宛先不明の手紙

──ところでこのアルバムになぜ「Best Wishes」というタイトルを付けたんですか?

この12曲の塊って僕にとっては宛先不明の手紙なんですよね。手紙だったら拝啓で始まり敬具で締めるわけですけど、敬具に相当する英語表現に「Best Wishes」って言葉があるんですよ。人によって、あるいは場面によっても「Best Regards」「Cheers」「All The Best」とかいろんな表現を使うんですけど、自分的には「Best Wishes」がしっくりきて。なんで手紙なのかっていうと……「Message in a Bottle」みたいな感じかな。瓶にメッセージを詰めて海に流すと、何年後かにどこかの土地の人が拾ってくれるかもしれない。そういったことを連想したというか。パンクもロックも関係なく、歌詞を読んでくれれば誰かに伝わるかもしれない。このアルバムはそういうものであってほしいなって気がしたんです。5年後10年後に、2012年に40代だった男がすごく大きな地震を経験していろいろ考えてこんなことを言ってるんだ、そういう代物であってほしいんです。

──宛先不明の手紙という表現はすごく理解できます。震災で被害に遭った人たちはもちろんのこと、それ以外の人たちに向けても歌われているのかなと感じました。

そうですね、うん。ボールはいかなる人にも投げてるって感じです(笑)。最近アメリカでもハリケーンが直撃して大変なことになりましたよね。そこで被害に遭った人がこのアルバムを聴いたら共感してくれるかもしれない。

──そういう大きな困難に直面したからこそ深く共感できるという部分はあると思いますし、そういう人にこそ聴いてほしいと思います。パンクロックという部分で聴き手を選んでしまうかもしれないけど、間口は本当に広い作品ですし。

今までの作品はそこまで間口の広い内容ではなかったですからね。そのときなりに自分の生きる姿勢を歌ってきたつもりだけど、今回はそれがより明確になって、明確に歌ったことで、元々ロックンロールが持っていた役割を取り戻せた気がするんですよ。だって音楽で政治のことを歌うなって言う人がいるんですよ、この日本に。そういうことを言う人がいること自体がおかしいですよね。そのくらい失墜してしまい、安っぽくなってしまった日本のロックから、本来担うべき役割、元々持っていた役割を取り戻したのかなと思ったりもしますし。だって時代を歌わないで何がロックですかって気もしますし。

──確かにそのとおりですね。

でもこうやってインタビューの場を設けてもらって話すから、さもすごいことをやったように思えるかもしれないけど、みんないろんなところで戦ってるんですよね。例えばサラリーマンの方が毎晩企画をひとつ練るのと、ミュージシャンが毎晩1曲作るのと、僕は同じだと思うし。だからもし仮に「横山、すごいアルバム作ったな」って言う人がいたら、僕は「君にだってできるよ」って伝えたい。僕だけが特別なことをしてるつもりは全然ないので。そりゃ褒めてもらえたらやっぱりうれしいですよ(笑)。でもこの日本は、仮に震災がなかったとしても生きていくのが困難な時代になってきてるじゃないですか。このアルバムがそういう困難な時代で生活する人たちにとって何かの足しになってくれたらいいなと思います。

インタビュー写真
ニューアルバム「Best Wishes」 / 2012/11/21発売 / 2300円 / PIZZA OF DEATH / PZCA-59
ニューアルバム「Best Wishes」
収録曲
  1. We Are Fuckin' One
  2. You And I, Against The World
  3. Soul Survivors
  4. Not A Day Goes By ※
  5. This Is Your Land
  6. Ricky Punks III
  7. Everybody's Fighting
  8. Sold My Soul To Rock'N Roll
  9. I Can't Be There
  10. Good Bye For A While
  11. Save Us
  12. If You Love Me (Really Love Me) ※

※カバー曲

Ken Yokoyama(けんよこやま)

Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。


2012年11月29日更新