10年前のルールで番組をやったとしても、この熱さはなかったと思う
鈴木 先攻と後攻があるじゃないですか。やっぱり後攻の方が楽なんですか?
KEN THE 390 2ターン制だったら圧倒的に後攻の方が有利ですね。先攻だと相手への返しが1回しかできない分、攻撃力が半分になってしまうので。
鈴木 それでも「先攻で」って言うのは意地ですか?
KEN THE 390 だと思います。それによって客を持っていくんですよ。「不利な道に行った。男らしい!」って。
鈴木 実際それで勝つ人いますもんね。心理戦ですよね。俺、そこも面白くて。
KEN THE 390 あとモンスターがうまいのは、先攻になったときに話題を決めちゃうんです。「俺はこの話し合いをするよ」って決めて、フリーのディベートに持っていかない。相手の得意なテーマじゃなく、先攻で自分の勝てそうな話題に持って行くのも技術なんです。そこにフォーカスを絞って、その言い合いなら絶対負けないみたいな戦い方もあるんです。DOTAMAくんとかすごいうまいですね。先攻でテーマを設定して、それ以外の話題を言わせないようにしちゃうみたいな。
鈴木 いろんな戦法が見えてくるところも面白いですね。
KEN THE 390 日本のMCバトルもすごく変わってきていて、2000年代に「B BOY PARK」で流行ったときは制限時間1分ずつで、どっちがどれだけ韻を踏めるかを競う感じだったんです。それから地下に潜っている間にどんどんルールが変わって、8小節=約20秒の短いタームを繰り返しながら2人がコミュニケーションするのが面白いという流れになっていったんです。昔は1分で鐘を鳴らしてレフェリーが止めていたのが、ノンストップでひたすら言い合うバトルが主流になって、短いタームで相手に返すアンサーの内容が重視されるようになった。「フリースタイルダンジョン」でそういうバトルに日が当たったら「これめっちゃ面白いじゃん!」ってことになって。たぶん10年前のルールで番組をやったとしても、ゾワゾワ来る熱い感じとか、観てて泣いちゃうようなパッションのぶつかり合いはなかった気がします。
鈴木 格闘技的な要素が加わったのが大きいんでしょうね。僕も毎回現場に行ってラッパーの皆さんに挨拶するんですけど、最初の頃は怖かったです(笑)。
KEN THE 390 まあ、愛想のない人たちも多いですから。挨拶しないとか(笑)。
鈴木 普通に生活してたら出会うことない人たちじゃないですか。関係者入口でパスもらって会場に入っていくまでの通路のスラム感と言ったら(笑)。でも、出演者たちで1回飲み会やったじゃないですか? そこで打ち解けた感じがあって。そのときもみんなでお題を決めて韻を踏むゲームを始めて、本当にラップが好きなんだなと感心しました。
KEN THE 390 ははは!(笑) よくやってます。
鈴木 漢さんとも新宿に飲みに行ったりして緊張感はなくなりました。僕、芸人さんとかお相撲さんとすごく仲いいんですけど、どちらも強烈なルールがある世界じゃないですか? 同じようにヒップホップって強烈なルールがあるから、すごく面白いなあと思います。
今はファッションでヒップホップかどうかを言うほうがナンセンス
鈴木 Zeebraさんたちが出てきてから20年以上経ったので、T-Pablowくんみたいな人たちは、Zeebraさんから見て子供くらいの世代なんですよね。
KEN THE 390 今の若い子はYouTubeでいろんなバトルを観たり曲を知れたりするから、最初からうまいんですよ。
鈴木 R-指定さんと話したとき、ブラマヨ(ブラックマヨネーズ)の漫才のスピードを参考にしたって言ってました。お笑いの世界もラップと同じで、ダウンタウンさん以降はお手本がいっぱいあるから、漫才のクオリティって激しく上がってるんです。
──バトルのスタイルやラッパーのスキルのほかに、長年かけて変わってきたと感じることは何かありますか?
KEN THE 390 風通しもよくなってきましたね。昔は僕みたいな髪型では審査員席に座れなかったと思うんです。10年前まではキャップに坊主じゃなきゃダメって空気があったけど、今はファッションでヒップホップかどうかを言うなんてナンセンスだよねみたいな空気になってきています。
鈴木 ケンザさん、デビューして何年ですか?
KEN THE 390 11年です。
鈴木 ケンザさんって服装もそうだし、今回のアルバムを聴いてもすごくポップじゃないですか。それって最初からそうなんですか?
KEN THE 390 もうちょっと複雑なラップをしてました。僕、サラリーマンだったんですよ。働きながらバトルに出て、CDもインディーズで出して、みたいな生活を3年半ぐらいやってて。もともと違法なこととかバイオレンスについてのラップはしないんですけど、今みたいな歌メロはなく、とにかくラップを詰め込みまくってましたね。
鈴木 そこからどうやって今のスタイルになったんですか?
KEN THE 390 試行錯誤しつつ、時代性もすごく大事にしているので流行をどう入れるか考えながらですね。今のアメリカのヒップホップの流れってメロディアスな曲がすごく多いんです。歌とラップの境界がどんどんなくなってきてるので、それを日本語でやるならどういうアプローチがあるのかを探っていて、それに合わせて変わっていった感じです。
鈴木 わかりやすくしようという気持ちが多少はあるんですか?
KEN THE 390 今は自分のレーベルでやってるんですけど、メジャーにいたときはありました。同時に悩みもいっぱいあって。当時は着うた人気がすごかったので、「ラブソングを歌ってもらわないとシングルリリースはできません」みたいなことを言われることもあって。今なら「それでもカッコよくやれんじゃないかな」とクリエイティブに受け止めることもできると思うんですけど、当時はよくぶつかってました。
メジャーレーベルは巨大ロボット
鈴木 今、メジャーレーベルと組むメリットってなんでしょう?
KEN THE 390 うーん、難しいですね。僕はメジャーレーベルは巨大ロボットだと思っていて。操縦席に乗った人が会社の人と信頼関係を築けていてうまく操縦できればすごいスピードで動けるけど、操縦できない人が乗っちゃうと全然動かないから、自力で歩いてる奴のほうがよっぽど速い。メジャーでちゃんと操縦できてるラッパーって、一部を除いてまだまだ少ないとは思います。
鈴木 まだCDが売れた時代ならともかく、配信やストリーミングで十分いい時代になってきた中、今メジャーとやることに意味はあるのかなって、すごく思うんです。
KEN THE 390 筒抜けの時代なんですよね。広告展開したからといって、よくないものはよくないというレッテルを貼られるし。「こういうものが売れるからやってよ」って言われたことをその通りにやって売れるほど甘くない。だから本当に信頼できるスタッフを見つけられて、マネジメント的なスタンスで組んでいけるんだったらメジャーもアリだと思います。
鈴木 ああ、マネジメントはそうですね。
KEN THE 390 そこまで行けないんだったら自分でやったほうがいい。同じ取り分をメジャーでもらうつもりならインディーズの5倍ぐらい売らなきゃいけないわけで。今みたいに10万枚売れることなんてまずない世界でメジャーに行ってやりたい音楽をきちっとやるのはかなり難しいです。
鈴木 自分は本を出すとき、例えば2000冊刷ったら、極端な話メジャーな本屋にだけ100冊ずつ置いてほしいという考え方なんです。CDも同じで、大きな店にだけ置いてあれば十分だと思う。近くで買えない人も本当に欲しけりゃ通販で買うだろって。
KEN THE 390 テレビとか全国各地のラジオとかだとメジャー流通じゃないとなかなか流してもらうのが難しいから、そういうところで流れてヒットする音楽をやりたいならメジャーと組んだほうが正解かもしれない。どのくらい世の中のニーズにフィットしてるのかで変わりますよね。大衆向けじゃない音楽を指向してるのに、その楽曲を全国津々浦々のラジオでかけたところであまり意味はないし。自分がどうなりたいのかというビジョンを描いて、そのためのスタッフを選んでいかないと難しいんじゃないかな。あとは投資だと思うんです。インディーズだと自己資金でやらないといけないじゃないですか。だから才能ある若手でも1stアルバムをあまりいい体制で制作できない。
鈴木 なるほど。
KEN THE 390 いいビデオ、いい音質。メジャーのメリットって、才能があると思った若手に対してほかの売れてるアーティストが稼いだお金でいきなりいい環境を与えられるじゃないですか。そうすると本当の才能がしっかり磨かれて世に出て行く。それをちゃんとやってくれるんだったら素晴らしいと思うけど、そういう投資ができないメジャーだとしたらあまり意味がないと思います。
- KEN THE 390「リフレイン」
- 2018年2月14日発売 / DREAM BOY
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初回限定盤 [CD+DVD]
4212円 / DBMS-040~1 -
通常盤 [CD]
2916円 / DBMS-042
- CD収録曲
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- Winter Song
- 夜が来るまで
- Light Up
- after party feat. HISATOMI
- 月明かりの下でダンス
- メモリーレーン
- 調子悪い feat. サイプレス上野, DOTAMA
- 君がいない
- 五月雨の君に feat. 鋼田テフロン
- Go Now
- リフレイン
- インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q
- 初回限定盤DVD収録内容
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<#ケンザワンマン2017>
- Clap
- メモリーレーン
- Chase feat. TAKUMA THE GREAT, FORK, ISH-ONE, サイプレス上野
- ガッデム feat. ERONE
- インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q
- after party
- 五月雨の君に
- Rock The House feat. 裂固, EINSHTEIN, じょう
- 真っ向勝負 feat. MC☆ニガリ a.k.a. 赤い稲妻, KOPERU, CHICO CARLITO
<ミュージックビデオ>
- リフレイン
- Winter song
- after party
- 五月雨の君に feat. 鋼田テフロン
- インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q
- KEN THE 390 LIVE TOUR 2018「リフレイン」
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- 2018年4月1日(日)
東京都 SOUND MUSEUM VISION - 2018年4月7日(土)
福岡県 THE Voodoo Lounge - 2018年4月29日(日・祝)
愛知県 HeartLand - 2018年4月30日(月・振休)
大阪府 CONPASS
- 2018年4月1日(日)
- KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
- フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年にアルバム「プロローグ」をリリース。2011年12月に主宰レーベル・DREAM BOYを設立し、活発なアーティスト活動を続けながら、レーベル運営からイベントプロデュースに至るまで多岐にわたって活躍している。現在はテレビ朝日系で放送中のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員としてもレギュラー出演中。2018年2月に約2年半ぶりのフルアルバム「リフレイン」をリリースした。
- 鈴木おさむ(スズキオサム)
- 1972年4月生まれ千葉出身。19歳で放送作家としてデビューし、バラエティを中心に多くのヒット番組の構成を担当する。さらに映画やドラマの脚本、舞台の作・演出、小説の執筆などさまざまなジャンルで活躍。2002年10月には森三中の大島美幸と交際期間0日で結婚して話題になり、「『いい夫婦の日』パートナー・オブ・ザ・イヤー 2009」「第9回ペアレンティングアワード カップル部門」を受賞している。5月11日には初監督作品となる映画「ラブ×ドック」の公開が予定されている。
- 「ラブ×ドック」
- 2018年5月11日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードシショー
- ストーリー
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人気パティシエ・剛田飛鳥は人生で成功を収めながらも、節目節目で恋愛に走り、仕事や親友をなくしてきた。そんな飛鳥が恋愛クリニック「ラブドック」を訪れ、危険な恋愛をストップできる特別な薬を処方してもらう。果たして彼女の恋愛模様は、薬で軌道修正できるのか……?
- スタッフ / キャスト
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- 脚本・監督:鈴木おさむ
- 出演:吉田羊、野村周平、大久保佳代子、成田凌 / 広末涼子、吉田鋼太郎(特別出演) / 玉木宏
- ミュージックディレクション&主題歌:加藤ミリヤ