KEN THE 390が2年半ぶりのアルバム「リフレイン」をリリース。これを記念して、音楽ナタリーでは彼と放送作家・鈴木おさむの対談を企画した。
実は鈴木は本名を出さずにペンネームで、KEN THE 390が審査員としてレギュラー出演しているテレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」に番組立ち上げ時から関わっている。今回の対談では、MCバトルの一大ブームを作り出した「フリースタイルダンジョン」を最初期から目の前で見つめ続けてきた2人が、MCバトルシーンの現状についてトーク。さらに番組の裏側や、アーティストがメジャーレーベルで活動することのメリットなどについても語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 西田周平
最初の壁は「オンエアできない言葉をどうするか」
──鈴木さんは「フリースタイルダンジョン」の立ち上げから番組制作に関わられていたそうですね。
鈴木おさむ 僕があの番組の監修をやってることはずっと隠してたんです。もともとサイバーエージェントの藤田晋社長が「ヒップホップの番組をやりたい」ということでZeebraさんと打ち合わせをして形を作っていったんですけど、コアなファンがいるジャンルに対して僕の名前が最初に出てくると反発もあるんじゃないかと思って。
KEN THE 390 ずっと閉鎖的な世界だったから、地上波のバラエティというだけで懐疑的になる人もいますからね。
鈴木 ただ、まったく名前を出さないのもダメと言われたので、“36”名義にして監修に携わったんです。最初の壁は「オンエアできない言葉をどうするか」でしたね。ピー音で消すのは簡単だけど、それだと面白くない。その頃ちょうど「コンプライアンス」って言葉が会議でめっちゃ言われるようになって腹立ってたから、逆手に取って「コンプラ」ってマークを貼り付けるのはどうですかって言ったら、Zeebraさんがそれ面白いですねと気に入ってくれて。
KEN THE 390 1回目の放送前はみんなビクビクしてました。テレビでやるってだけで「大丈夫かな?」みたいな。
鈴木 やっぱり毎週テレビでやるとなると心配になる人もいますよね。実際、1回目の放送を観て批判していた人もいたし。そこを審査員含め、みんなで作り上げようぜっていう感じでした。最初の頃はホントひどかったんですもんね? 漢(a.k.a. GAMI)さんなんて超遅刻してくるんですから。
KEN THE 390 テレビと関係なく普通にダメですよね(笑)。
鈴木 今でこそちゃんとしてるじゃないですか? 最初の頃はみんな、テレビに対して「俺は迎合しねえぞ」みたいな空気を出してて、リハに2時間半遅刻して来る人もいたり(笑)。風向きが変わったのが、2回目の収録(first season Rec2)。Zeebraさんは最初、無敵と言われていたR-指定さんもいるし、「チャレンジャーを般若さんのところまで絶対行かせないから」ってスタッフに言ってたみたいですけど……。
KEN THE 390 いきなり焚巻くんが4人倒して般若さんまで行ったんですよね。
鈴木 般若さんも話が違うと思ったでしょうね(笑)。でも、そのバトルがめっちゃ盛り上がって。
KEN THE 390 あれがキーポイントでしたね。最後まで行った焚巻くんも4人目まで行ったCHICO CARLITOも、当時まだ全国区じゃなかった子がいきなりあそこまで行ったから、テレビの収録でこんな才能あるラッパーに初めて出会う機会があるんだってビックリしました。
M-1だったら出場者は審査員よりも後輩じゃないですか
鈴木 正直、審査するのも大変じゃないですか?
KEN THE 390 いや、難しいですね。
鈴木 普段一緒にやってる人を審査しなきゃいけないし、複雑な心境だったんじゃないかなと思うんですけど。
KEN THE 390 「フリースタイルダンジョン」って、当初審査員に現役のラッパーが3人(晋平太、ERONE、KEN THE 390)いたじゃないですか? 例えばダンスもそうですけど、ほかの大会ではあまり、現役で大会に出ている人は審査しないものなんです。
鈴木 だいたいOBですよね。
KEN THE 390 ええ。僕らは現役なのに、自分よりキャリアが上の先輩が戦ってるのをジャッジしなきゃいけない。でも、やっぱりヒップホップは現役感がないとジャッジするのが難しいジャンルでもあることはわかっていたので、恐れ多いけれども誰かがやんなきゃいけないと思って。
鈴木 Zeebraさんとの打ち合わせのとき、僕が「例えば、いとうせいこうさんはどうですか?」って言ったんです。ただ僕からしたら、せいこうさんが今のヒップホップの人からどういうふうに見えてるのかとかが全然わからなくて。ラッパーにもいろんな派閥があるだろうし。だけど、せいこうさんはテレビ的にもすごい方だし、ぜひ出ていただきたいなと思って。
KEN THE 390 ヒップホップ的にもオリジネイターというレジェンドなので、多くのラッパーからリスペクトされてるんです。だから、せいこうさんがいてくれるのは説得力が増します。
鈴木 現役のラッパーが現役のラッパーを判定するって、なかなかやらない。例えば、M-1だったら出場者を年次で切ってるから絶対審査員よりも後輩じゃないですか。
KEN THE 390 「M-1で先輩芸人に点数付けられねえよ」みたいのありますよね、絶対(笑)。
応援する空気のスイッチが切り替わる瞬間
鈴木 僕、ヒップホップは正直詳しくなかったんですよ。もちろんある程度のものは聴きますけど。でも、皆さんと知り合って、フリースタイルで売れることと音源が売れることの違いとか、すごく勉強になりました。
KEN THE 390 やっぱり「フリースタイルダンジョン」はガチでやっていいよって言われたのがよかったですね。テレビって普通は制約があるものだと思うんです。僕らが歌番組に出るにしても、曲の中に使えないワードがあったり、ラジオでフリースタイルをしても「その単語はやめてください」って注意されることもあったり。けど「コンプラ」だと、ピー音とは違うじゃないですか? ピー音だと放送禁止用語を言ったみたいで、言った人が悪く見える。それを「コンプライアンスにより流せませんでした」って説明することでテレビ側の都合っていうニュアンスが出るから。
鈴木 それはすごく言われました。「コンプラ」って言葉はすごい発明だって。僕はあれ、テレビに対しての最大の皮肉なんです。テレビ側がこれはダメなんですよってことだから、別に放送禁止用語言ってるわけじゃないんだよっていう。
KEN THE 390 それがすごくポップに響くんですよね。流せない単語にはコンプラと入るけど、Zeebraさんからは「何をやってもいいよ」と言われてるからNGワードは作らないし、あとはみんなに任せますみたいな。
鈴木 字幕も付けるかどうかすごく悩んだんです。でもやっぱりこれはテレビショーとして付けるべきだろうって。Zeebraさんもそれ望んでいて、「やっぱりテレビでやるからには今まで以上にわかりやすく」って考え方を持ってました。ただ、晋平太とT-Pablowが戦ったことがあったじゃないですか?
KEN THE 390 すごい試合でしたね。
鈴木 ディレクターが試合後のやりとりにまでスーパー付けちゃって、局から怒られたんです(笑)。そりゃそうだろって。
KEN THE 390 現場の空気えげつないですよね。半端じゃなかったですね。「なんだこれ」って。こんな経験そうないよってくらいの圧がステージから出てました。
鈴木 晋平太戦もそうですけど、ラスボスの般若さんまで行くと会場の空気がすごいことになるじゃないですか? ああいうときって観ててもすごい鳥肌立ちますよね。
KEN THE 390 チャレンジャーがオーラ的なものをまとってくるんですよね。会場の空気にパチっとスイッチが入るときがあるんです。「あっ、これ行くかも」みたいなゾワゾワゾワって感じ。面白いのが、お客さんってだいたいモンスターを応援してるんです。
鈴木 そうなんですよね。
KEN THE 390 番組の趣旨的に本来はチャレンジャーを応援すべきなのに、毎週観ててなじみがあるからみんなモンスターを応援するんですよね。けど、チャレンジャーを応援する空気にスイッチが切り替わる瞬間がたまにあって。
鈴木 面白いですよね。R-指定に勝てる奴いないだろうと思っていたら、場の流れでチャレンジャーがパーンと勝ったり。
KEN THE 390 サッカーとかと一緒で、アウェイになるとすごくやりにくいんです。だから空気が変わるとR-指定もやりにくいはずなんです。
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10年前のルールで番組をやったとしても、この熱さはなかったと思う
- KEN THE 390「リフレイン」
- 2018年2月14日発売 / DREAM BOY
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初回限定盤 [CD+DVD]
4212円 / DBMS-040~1 -
通常盤 [CD]
2916円 / DBMS-042
- CD収録曲
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- Winter Song
- 夜が来るまで
- Light Up
- after party feat. HISATOMI
- 月明かりの下でダンス
- メモリーレーン
- 調子悪い feat. サイプレス上野, DOTAMA
- 君がいない
- 五月雨の君に feat. 鋼田テフロン
- Go Now
- リフレイン
- インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q
- 初回限定盤DVD収録内容
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<#ケンザワンマン2017>
- Clap
- メモリーレーン
- Chase feat. TAKUMA THE GREAT, FORK, ISH-ONE, サイプレス上野
- ガッデム feat. ERONE
- インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q
- after party
- 五月雨の君に
- Rock The House feat. 裂固, EINSHTEIN, じょう
- 真っ向勝負 feat. MC☆ニガリ a.k.a. 赤い稲妻, KOPERU, CHICO CARLITO
<ミュージックビデオ>
- リフレイン
- Winter song
- after party
- 五月雨の君に feat. 鋼田テフロン
- インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q
- KEN THE 390 LIVE TOUR 2018「リフレイン」
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- 2018年4月1日(日)
東京都 SOUND MUSEUM VISION - 2018年4月7日(土)
福岡県 THE Voodoo Lounge - 2018年4月29日(日・祝)
愛知県 HeartLand - 2018年4月30日(月・振休)
大阪府 CONPASS
- 2018年4月1日(日)
- KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
- フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年にアルバム「プロローグ」をリリース。2011年12月に主宰レーベル・DREAM BOYを設立し、活発なアーティスト活動を続けながら、レーベル運営からイベントプロデュースに至るまで多岐にわたって活躍している。現在はテレビ朝日系で放送中のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員としてもレギュラー出演中。2018年2月に約2年半ぶりのフルアルバム「リフレイン」をリリースした。
- 鈴木おさむ(スズキオサム)
- 1972年4月生まれ千葉出身。19歳で放送作家としてデビューし、バラエティを中心に多くのヒット番組の構成を担当する。さらに映画やドラマの脚本、舞台の作・演出、小説の執筆などさまざまなジャンルで活躍。2002年10月には森三中の大島美幸と交際期間0日で結婚して話題になり、「『いい夫婦の日』パートナー・オブ・ザ・イヤー 2009」「第9回ペアレンティングアワード カップル部門」を受賞している。5月11日には初監督作品となる映画「ラブ×ドック」の公開が予定されている。
- 「ラブ×ドック」
- 2018年5月11日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードシショー
- ストーリー
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人気パティシエ・剛田飛鳥は人生で成功を収めながらも、節目節目で恋愛に走り、仕事や親友をなくしてきた。そんな飛鳥が恋愛クリニック「ラブドック」を訪れ、危険な恋愛をストップできる特別な薬を処方してもらう。果たして彼女の恋愛模様は、薬で軌道修正できるのか……?
- スタッフ / キャスト
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- 脚本・監督:鈴木おさむ
- 出演:吉田羊、野村周平、大久保佳代子、成田凌 / 広末涼子、吉田鋼太郎(特別出演) / 玉木宏
- ミュージックディレクション&主題歌:加藤ミリヤ