その日の音を詰め込む
──眞呼さんのメッセージを独特なバンドアンサンブルで届けるわけですが、ビートに関しても変拍子含めて1曲の中にいろんな要素が含まれていますよね。
玲央 音楽理論上の「ここはこう来たほうがグッと盛り上がる」とかそういうことは重要視していなくて。眞呼さんもそうした音の表情の変化に合わせて歌詞に意味を持たせているのかなと、自分的には思っています。
──だからなのか、曲自体が生き物みたいに予測不能な動きをするというか。そこが本当に興味深いんです。プレイヤー目線では、それぞれレコーディングでこだわったポイントはありますか?
aie 常に変わらずですけど、その日の音を詰め込むってことですかね。事前に決めきって弾くことなく、その日その場所でフレーズを考えているし、そのときの思いつきで冗談っぽく弾いた音がカッコよかったりするんですよ。それこそ「リフレイン」の最後、16分の刻みはSallyちゃんを笑わせるためだけにやったんです。
Sally その日は遅れてスタジオ入りしたんですけど、録った音を聴かせてもらったら最後にとんでもないプレイが入っていて、「なんだこれ!?」と驚きました(笑)。
眞呼 keinのレコーディングはそんなことがいっぱいなんです(笑)。
aie 「いいのかな?」と思いながら変なプレイをしてみるものの、みんなが「カッコいい!」と言ってくれるので。変態の自覚がある身としては、音もそうじゃないと自分に辻褄が合わなくなりますからね(笑)。
Sally 僕の場合、前作は過去にあったものを再現しつつ、自分の持ち味を入れていく作業でした。今回はまっさらなところから始まっているので、向き合い方がまた違うんですよね。曲によってはベースとなるデモもあったんですけど、基本的にはみんなでスタジオに入っていろいろな意見を取り入れつつ、ちゃんと自分のプレイやフレーズを組み込めたのかなと思います。
──激しく前のめりなものから大きなノリまで、多彩なリズムが求められたと思いますが。
Sally 「曲の中で自分のドラムはどうあるべきか?」というのはバンドで合わせながら調整していきました。例えば「Spiral」はとにかく大きなノリ、デカいビートでという感じだし、「Puppet」は最初もう少し変拍子っぽいビートだったんですけど、メンバーの意見を参考にノリやすくしたり。で、攸紀さんの2曲(「Toy Boy」「Rose Dale」)は一応デモがあったんですけど、「好きなようにしていいよ」という話だったので好き勝手に叩きました。最後の「リフレイン」はaieさんがリフとかある程度原型を固めたタイミングで2人だけで一度スタジオに入って、ゼロからフレーズを作っていきました。
aie ホワイトボードに譜面を書いて、「ここはもっとアホっぽく叩いて」とか「ここはもうちょっとLUNA SEAぽく」とか言いながらね(笑)。
“普通”を裏切る
──攸紀さんのベースに関してはいかがですか?
攸紀 これまでのスタイルとして、一番自分らしいベースを弾いたのは「リフレイン」なんですよ。ただ、今作では少し違うこともやってみたくて、一番今までの自分らしくないプレイで臨んだのが「Spiral」と「Puppet」ですね。自分が書いた2曲に関しては、あまり得意ではないスラップに挑戦していて、それがうまくまとまったのでよかったなと思います。
──確かに「Toy Boy」と「Rose Dale」はスラップがいいアクセントになっていますよね。玲央さん、ギターに関してはどうでしょう?
玲央 前作と大きく違うのが、ピックアップが3シングルのストラト(キャスター)を使ったこと。普通だったらハムバッカーのギターで弾いたほうがいいんじゃないかってところを、あえて3シングルでやったら面白いかなと思って、イングヴェイ・マルムスティーンのシグネチャーモデルを用意して全曲録りました。結果的に「普通だったらこういう音を出してくるよね」という方向に行かずに済んだ。フレーズに関しては、「Spiral」で少し隙間があったので、普通に考えたら「なんでここでソロが来るの?」というところにソロを入れてみたり、ほかのみんなが好き放題にやっている分、「ここは自分が土台を支えたほうがいいな」というときは控えめに弾いたり。そういう押し引きの部分に関しては、これまでの経験も踏まえてちゃんとできたと思います。
──そして、眞呼さんの歌が今回もすごく沁みました。「Spiral」での強弱や「Rose Dale」でのラップ調で歌うパーカッシブなスタイルなど、歌詞に使われている言葉やメッセージによっていろんなアクセントの付け方で歌を届ける。そのスタイルが前作以上に極まっている印象があります。
眞呼 恐れ入ります。「こうしたほうがいい」というよりも、「気付いたらこうなりました」っていう歌い方が今作は多いです。たまにしっかりメロディを作り込んで歌ってみるんですけど、自分で「いや、ちょっとこれ違うな」と思って、家に帰ってまた違うメロを持っていくんですよ。そうすると今度は「前のほうがよかった」と周りから言われたりする(笑)。だから基本的にはバンドで合わせて、すべてにおいて自然に導かれるものが形になった感じです。
keinはレギュラーバンド
──前作「破戒と想像」では過去の楽曲を今の演奏力、表現力で示すことで楽曲の持つ普遍性を強く打ち出すことに成功しましたが、「PARADOXON DOLORIS」は今を生きているkeinの熱量や、前進し続ける姿が強く伝わる内容だと思います。
玲央 ありがとうございます。そこに打算はないですし、「みんなが自由でいることこそが2024年のkeinです」と胸を張って言えるような作品になったと自負しています。
──バンド内に流れる空気感のよさも音からしっかりと感じ取ることができました。
aie それぞれの活動もあるから、こうやって5人そろうのもすごくひさしぶりなんですよ。また明日以降、ツアーに向けてのリハーサルに入るので、そこでバンドの充実度を実感するのかもしれないけど、今から新曲をライブで演奏するのが楽しみで仕方ないです。
玲央 keinを再始動するにあたって、各々の活動の邪魔はしないことだけは、絶対的なルールとして設けているんですよ。スケジュールも先に決まったものを優先するし、誰かに迷惑をかけてまではやりたくない。「みんなが幸せになる形でkeinを継続しましょう」という話で再び集まっているので、この今の関係性はすごく心地いい。だから、1回1回のスタジオがすごく楽しみなんです。
──それこそkeinが結成された90年代は、1つのバンドに心血を注ぐことが求められたけど、今は時代も変わりました。
玲央 何より、やれることが増えたことが大きくて。20代の頃は常にいっぱいいっぱいだったから、バンドを2つ掛け持ちなんて考えられなかったですけど、今は自分の中でパーテーションのように区切って、スリムに活動できるようになった。だから、keinはスポットではなくてレギュラーバンドなんですよ。ファンのためでもあり、自分たちのためでもあるバンドなので、今後も折を見てやりたいことを追求していきたいと思います。
公演情報
TOUR '2024「PARADOXON DOLORIS」
- 2024年11月23日(土・祝)愛知県 伏見JAMMIN'
- 2024年11月24日(日)愛知県 伏見JAMMIN'
- 2024年12月4日(水)大阪府 Yogibo META VALLEY
- 2024年12月5日(木)大阪府 Yogibo META VALLEY
- 2024年12月18日(水)東京都 新宿LOFT
- 2024年12月19日(木)東京都 新宿LOFT
プロフィール
kein(カイン)
1997年に愛知・名古屋で結成され、当初からヴィジュアル系バンドシーンで頭角を現す。2000年8月の公演をもって突如解散を発表し、人気絶頂の中でわずか3年の活動にピリオドを打った。その後、リーダーの玲央(G)はlynch.、眞呼(Vo)とaie(G)はdeadmanを結成するなど、メンバーそれぞれがアーティストとして活躍。2022年5月に突如として再結成を発表し、同年8月に愛知・DIAMOND HALL、10月に東京・EX THEATER ROPPONGIで復活ライブを行った。2023年8月には結成から26年を経て待望の1stアルバム「破戒と想像」をリリース。2024年11月には初のメジャーデビューEP「PARADOXON DOLORIS」をキングレコードから発表し、11月から12月にかけて3都市6公演のツアー「TOUR '2024『PARADOXON DOLORIS』」を行う。
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