ナタリー PowerPush - KEI

人気ボカロPとサニーデイ田中貴が共闘する理由

いい曲を書いていたからプロデュースを即決

──では改めて田中さんにも入っていただき、お話を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。今回のプロデュースはKEIさんからのご指名だったそうなんですけど、田中さんが引き受けた理由は?

左からKEI、田中貴

田中貴 これまでボカロ的なものってほとんど聴いたことがなかったんですけど、お話をいただいて、KEIくんの過去の音源を聴いたら、すごくいい曲が多かったので「もう、すぐにでもやりましょう」みたいな。あのとき、全部で30何曲か聴かせてもらったんだよね?

KEI お渡ししたのはそうですね。

田中 で「これやりたい」「あれやりたい」っていう感じで、その30何曲かの中からお互いがやりたい曲を選んで、あとは「代表曲はもちろん入れましょう」「新曲も書いてみようか」って感じで打ち合わせを始めましたね。

──その「いい曲」の「いい」っていうのは具体的にはどんなところなんでしょうか?

KEI それはまた別の機会というか、僕のいない席で聞いてもらえるとうれしいんですけど……。

田中 あはははは(笑)。いやでも、まず今回選んだようなストレートなギターロックから、ちょっとアイドルソングっぽい曲まですごくいろんなタイプの曲が書ける上に、アレンジもちゃんとしているし、ギターもうまい。そういう器用さがありますよね。で「あっ、この曲はMOBY(オカモトタクヤ)に叩いてもらおう」って曲を聴いたときには、なんとなくドラマー候補が頭に浮かんだので、そのままMOBYとGEN(原秀樹)ちゃんと西浦(謙助)くんに声を掛けたって感じですね。MOBYと西浦くんとはレコーディング前に1回ずつセッションしていて、そのときに3曲お願いして、GENちゃんとは2回セッションしているので6曲お願いしたんですけど、その割り振りも合いそうな曲を選んでみただけなんです。

ボカロ曲をロックアレンジするということ

──ではアレンジやレコーディングはスムーズでした?

田中 そうやってそれぞれに似合う曲をお願いしたつもりなんだけど、MOBYは大苦戦してましたねえ(笑)。

KEI あはははは(笑)。自分がニコ動バージョンのアレンジしているときって「僕の脳内完璧ドラマー」がいるんですよ。で、そいつに実際に人が叩けるのかどうかを一切無視した「僕の脳内完璧フレーズ」を叩かせているので、それを再現していただくのは大変だろうなあ、とは思ってました。

田中 確かに同じ曲をもらってバンドアレンジしたらここまで速くはなってないっていうアレンジだよね(笑)。でも、こういうボカロ曲の場合は、その原曲のテンポ感がすごく大事なんだとは思うので、それを極力再現しながら、でも自分らしさを出していくようにはしたくて。最初はホントに苦戦したんですけど、セッション中やレコーディング中には、それを乗り越える楽しさみたいなものはありましたね。

──実際、ニコ動バージョンとは違う、このメンバーならではのロックファンも絶対にうなづくだろうアレンジになっていますよね。

田中貴

田中 かなりカッコいいものができましたよね。曲を選ぶ時点で僕はポップな曲、メロディのいい曲を選んだつもりで、その歌メロを立たせることが得意なメンバーを集めたんですけど、本当にそういう内容になったな、とは思っています。

KEI ボカロバージョンまんまではない、新しいことができたのはホントにうれしかったですね。

田中 KEIくんも僕らもちゃんとバンドサウンドにしたかったんですよね。だから、もしかしたらKEIくんのアレンジのまま正確に叩けるドラマーもいたのかもしれないんだけど、そういう人選はしたくなかった。西浦くんのように、言ってしまえば面白くて変わったドラムを叩く人が入ることで、より人間らしくしたかったし、実際にそうなったのはよかったな、と。

KEI ええ。打ち込みまんまを叩いていただくんなら、何もドラマーさんにお願いしなくてもいい。打ち込みでいいわけですから。でもそれは僕のやりたいことじゃなかったんです。だからホントに自分1人でやんなくてよかった(笑)。1人でやっていてもこういう作品は絶対にできなかったはずなので。

「絶対楽しいからギターを弾きなよ」

──そのKEIさんのやりたいことの話を続けると、せっかくメジャーで仕事ができるんだから自分の曲をプロの手に預けてみたかった。だから、田中さんに完全にお任せしてしまいたかったらしいんですよ。

田中 そうだったのか(笑)。

KEI 実は(笑)。

──そうやってお任せした結果、先ほどの言葉のとおり、KEIさん的には「1人では絶対に作り得ない作品」ができたらしいんですけど、任された側ってどういう気持ちだったんでしょう?

田中 完全に預けられていたことを今知ったくらいですから、そんなにプレッシャーはなかったですね。したことといえばアドバイスくらいのような気もしますし。バンドでライブをやってはいるけど、自宅でライン録音でしかレコーディングはしたことがないっていう話だったので、せっかくだからアンプで鳴らした音を拾った、いわゆるバンドサウンドで録ってみたほうが面白いんじゃない、って話をしたくらいで。あっ! でも、ギターは弾かせました。

KEI ホントは弾きたくなかったんですけどねえ……。どう考えてもうまいプレーヤーではないもので……。

田中 そんな感じで最初「ギターは弾きたくない」「誰か連れてきてください」って言っていて、僕も「そうかあ」なんて思ってたんですけど「いや、違うだろ」って(笑)。「音源を聴いてもこれだけ弾けてるんだから、自分で弾きなよ」「そっちのほうが絶対楽しいから」って。

ニューアルバム「dialogue」 / 2013年2月20日発売 / GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
初回限定盤 [CD+DVD] / 2625円 / GNCA-1346
通常盤 [CD] / 2100円 / GNCA-1347
CD収録曲
  1. dialogue
  2. タワー
  3. 走れ
  4. 隔離病棟
  5. 声で言葉で
  6. アイラビユーアイニジュー
  7. Hello, Worker
  8. ピエロ
  9. mercy
  10. Neverland
  11. ユートピア
  12. エコー
初回限定盤DVD収録内容
  • Dialogue PV
  • Interview about "dialogue"
KEI(けい)

ロックバンド・NO LEAF CLOVERのハヤシケイ(G, Vo)のソロ名義。2008年2月、ニコニコ動画にボーカロイドナンバー「スターシップ」を投稿したところ、瞬く間に注目を集め、以来、ギターロックを基調としたアップリフティングながらもどこかシニカルな楽曲を立て続けに発表。ニコニコ動画ユーザーを中心に高い人気を獲得する。2013年2月にアルバム「dialogue」にてメジャーデビュー。

田中貴(たなかたかし)

1994年、メジャーデビューの3ピースバンド、サニーデイ・サービスのベーシストとして活動する傍ら、タルトタタンのサポートベーシストや、声優ユニット・ワンリルキスのプロデュースなども手がける。また2013年2月にはボーカロイドプロデューサー・KEIのメジャー1stアルバム「dialogue」のプロデューサーも務めた。