ナタリー PowerPush - KEI
人気ボカロPとサニーデイ田中貴が共闘する理由
ボカロとロックの架け橋としてのアートワーク
──「dialogue」ってそういう現場の雰囲気が丸ごとパッケージされていますよね。収録されているのは当然威勢のいいギターロックなんだけど、ニコ動バージョンやNO LEAF CLOVERバージョンほどエモくはないというか、どこか大人の余裕が感じられます。
KEI 自分もけっして若いとは言えない上に、ほかのプレーヤーも皆さん大人だからじゃないですか(笑)。プレーヤー1人ひとりによって曲の解釈が違うのは普通のことですし、その解釈には当然経験も影響を与えているんでしょうし。実際、一緒に作業をしていて「あっ、こういうふうにやってくるんだ」ってビックリすることが多くて面白かったんですよ。あと、DTMで作ったニコ動バージョンをわりとなぞるようなアレンジにはなってはいるものの、1回リハーサルスタジオで音合わせをしてからレコーディングに入るっていう、バンドで曲を作るときと同じ進め方をしたので。それもリラックスしているように聞こえた理由なのかもしれませんね。
──あとリードトラックの「dialogue」って実写PVを撮っていますよね。実はこれもいわゆるボカロPとしてはけっこう珍しいことですよね。
KEI 映像のことなんかなんにもわからないので、自分で考えるよりもわかっている人に考えてもらったほうが絶対に正しいっていう判断のもと、これも完全に丸投げしてみただけなんですけどね(笑)。自分自身、できあがった映像を観て「スゲー! PVみたーい!」ってビックリしたくらいですから。
──では何かコンセプトや目的があっての実写PVではない?
KEI いや、これこそシーンの架け橋になるようなものの1つだっていう意識はありますね。今ニコ動で人気のボカロ曲みたいなアニメ調のPVを作るのも1つの手ではあったんでしょうけど、たぶんそれではボカロシーンにしか届かなかったと思うんですよ。でも、自分は邦楽ロックを聴いている人が観ても納得するようなものにしたかったから、実写PVを作っていただいたっていう面はありますね。まさか、あんなにガッツリ顔出しするものだとは思ってなかったですけど(笑)。
──「架け橋に」っていう意識はアルバムジャケットにも現れています?
KEI そうですね。やっぱりデザイナーさんに丸投げなんですけど(笑)、昔からバンドの曲にせよボカロ曲にせよ、音楽を作るときは、それを通じて聴いている人と「dialogue」=対話をしたいとは思っていて。その「自分のメッセージを伝えたり、相手の思っていることを感じたりしたくて音楽を作っている」ということと、宇宙ネタが好きっていうことと、あとは「ミクちゃんをジャケットにするのはちょっと……」っていうことをお話しして(笑)、こういうジャケットにしていただきました。
「お前も1人だけど、大丈夫。オレも1人だから」
──その対話の内容、つまり歌詞なんですけど、あきらめてはいないものの、どこか達観していますよね。例えば「dialogue」では「『君がここにいてくれてよかった』 そんなセリフもきっと嘘偽りは無い」としつつも「一人が好きなんだって豪語して それもきっと本当」と言っている。そして「アイラビュー アイニジュー」では「割り込んで 並んだって 最前列なんて はるか先で つまんないぜ」と手放しに「がんばれ」「戦え」とは歌っていません。
KEI だから周りからは「性格が悪い」「基本的に社会に悪意を向けている」ってよく言われるし、実際自分もそんな気がしていて(笑)。ファンの方から「KEIさんの曲はさわやかな応援歌」っていう評価をいただいたりもするんですけど、自分はこれっぽっちもさわやかではないし、人を応援する余裕もないんですよ。そんなことより自分が応援されたい!(笑) だから曲を書くんです。
──ただ、だからこそKEIさんの曲に共感する人もたくさんいるんだと思いますよ。「応援してやる!」っていう上から目線の「人生の応援歌」よりも「ぶっちゃけキツいんだけど、とりあえずオレはがんばるよ」っていう曲に救われる人はけっして少なくないから。
KEI そうやって、自分と同じような境遇の人がなぜか応援されてくれているっていう状況が一番うれしいですよね。自分には高校生の頃から「天才的なミュージシャンには一生なれない」っていう確信があって(笑)。自分のことを凡人だと思っているから、音楽史を塗り替えるような名曲を作れる気は一切していないんですけど、でもそんな自分のことを正直に書けば、誰かとわかり合えるような気はしているんですよ。
──言ってしまえばリスナーの多くも普通の人たちなんだから通じ合える部分はあるはずですよね。
KEI なんて言うんですかね? 「同じ空のもと、僕たちは1人じゃない!」みたいなメッセージは大っ嫌いなんだけど、でも「お前も1人だけど、大丈夫。オレも1人だから」みたいな?(笑)
──「同じ空のもと、僕たちはみんな1人だから大丈夫!」(笑)。
KEI そういう距離感で対話したいんですよね。
- ニューアルバム「dialogue」 / 2013年2月20日発売 / GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2625円 / GNCA-1346
- 通常盤 [CD] / 2100円 / GNCA-1347
CD収録曲
- dialogue
- タワー
- 走れ
- 隔離病棟
- 声で言葉で
- アイラビユーアイニジュー
- Hello, Worker
- ピエロ
- mercy
- Neverland
- ユートピア
- エコー
初回限定盤DVD収録内容
- Dialogue PV
- Interview about "dialogue"
KEI(けい)
ロックバンド・NO LEAF CLOVERのハヤシケイ(G, Vo)のソロ名義。2008年2月、ニコニコ動画にボーカロイドナンバー「スターシップ」を投稿したところ、瞬く間に注目を集め、以来、ギターロックを基調としたアップリフティングながらもどこかシニカルな楽曲を立て続けに発表。ニコニコ動画ユーザーを中心に高い人気を獲得する。2013年2月にアルバム「dialogue」にてメジャーデビュー。
田中貴(たなかたかし)
1994年、メジャーデビューの3ピースバンド、サニーデイ・サービスのベーシストとして活動する傍ら、タルトタタンのサポートベーシストや、声優ユニット・ワンリルキスのプロデュースなども手がける。また2013年2月にはボーカロイドプロデューサー・KEIのメジャー1stアルバム「dialogue」のプロデューサーも務めた。