ナタリー PowerPush - 毛皮のマリーズ

圧倒的大器メジャー移籍! 志磨遼平、その生きざまを語る

全曲解説(後編)

06. バンドワゴン
僕が一番燃える音楽、というのが明確に僕の中にはありまして、それは「3コード+1(この+1、がセンスの見せ所)くらいの単純なロックンロールで、BPMは120~40台、バンド+ピアノ、ホーンセクション」というのがそのスタイルなんですね。えぇ。例えばストーンズの“Rocks Off”なんですけど、あと新しいのでいえばPRIMAL SCREAMの“Call On Me”とか、RCの“ドカドカ~”なんかもその系譜に入るんですけど、売れないロックバンドはホーンセクションを雇う金がなくてですね、今まで叶えられなかった夢が今回メジャーの後ろ盾を得まして、遂に叶ったワケです。もう、この曲と“それすら”を録音できただけでも「メジャーでやれてよかった」と思えます、ホント、一口坂のスタジオでホーンをオーバーダブしてる時にしみじみそう思いました。
ホーンセクションはNATSUMENから稲田ヌボンバ貴貞(Tenor Sax)、加藤雄一郎(Alto Sax)、カッキー(Trumpet)。ニッキーなピアノとビリーなハモンドはもちろん奥野真哉さん。
世界中のツアーバンドに、神のご加護と交通安全を!
07. サンデーモーニング
これは僕らの(数少ない)友達の間で、昔ヒットした曲です。この曲が再収録されるコトを、学生時代の同級生や前身バンドの頃から付き合いがあるバンドマンなんかはヒジョーに喜んでくれています。まぁ“今夜はブギー・バック”でいう『その頃のぼくらの心のベスト10第1位』ってヤツです。一緒にツアー回ったバンドが最終日にドッキリでこの曲演ってくれたり… アレほんと泣けたなァ!
書いたのは20歳の頃で、毛皮のマリーズの最初の自主制作盤(2003年)と、「初期名曲集」(2004年)という自主盤に2度収録されているので、これで3度目の録音、と。その度にアレンジが若干変わっていまして、これが最もヘッドアレンジに近いバージョンです。まぁ早いハナシが“Let It Bleed”です。今となってはもうこんな歌詞書けんなぁ… 「ふたり肩ならべて/キスして/笑った」って… やだ… 恥ずかしい…
タイトルは当初「桜の花の満開の下」っていういかにも厨二病全開なタイトルが付いていましたが、近頃春になるたび「桜」ソングが大量発生するのを鑑みての変更です。
L寄りの甘いブルージーなリードはおおはた雄一さん、R寄りのクランチなリードがウチの越川。
08. それすらできない
ホーンセクション第2弾は、サザン(茅ケ崎ではなく)なミディアム・バラード。もろにザ・バンドかSTAXか、といったカンジです。
「知らない街に降りしきる5月の雨」ってのはですね、私が単身で上京してすぐの頃、あまりに金がなくて(食事は一日に200円のロールパン一袋のみ)工事現場の警備員を数ヶ月間してたんですね、で、新百合ケ丘の山奥の現場だったか西葛西の現場だったか、ほぼ運休状態の現場に雨の中ただただ8時間立つだけ、という悟りを開かざるを得ん作業内容の日がありまして、「きっと今が人生で一番キツい時期なんだろうなぁ」と思った記憶が未だに強く残っていまして、その日のコトを歌っています。
昨年忌野清志郎さんが亡くなられて、思えばずいぶんこの頃は助けられていたので、今度は私がそういう気分の若者を救えるよう願って、書いてみました。間奏の素晴らしいソロは加藤a.k.a.塾長さん。
09. 金がなけりゃ
すいませんシリアスなムードに耐えかねました。私の悪いクセです。
いや、といいつつ古くからロックンロールとこういう「中南米トロピカル系」のムードってのは相性がよござんして、AxSxEさんのお力を借りたところ想像以上にエキゾ感満載に仕上がりまして(最初は常磐ハワイアンセンターくらいの距離感)、もう大成功であります。
パーカッションはMONGHANGのyohei bohemianさん! あと名前もわからない謎の楽器を私がカジャカジャいわしております。ハワイアンなスチールはおおはた雄一さん、アコーディオンとマリンバが奥野さん。
コロムビアの担当ディレクターの方からは「ひっさしぶりにここまで開けっぴろげな『金くれソング』聴いたわ!」とお褒め頂きました(褒め言葉ですよね)。
10. すてきなモリー
ここで初のヒロTリード曲! メロディが最初浮かんだ時から「あ、コレはヒロTに歌わそう」と決めていました。なぜか脳内では木村カエラちゃんの声で再生されてました。ので仮タイトルは「木村治」でした(歌詞に登場するモリーちゃんが太宰治の小説に出てきそうな性格だから)。しかしヒロTが歌ってみるとあまり声質にそぐわないカンジだった為、急遽「みっくみくVer.」に変更いたしました。
なんとなくイメージはパワー・ポップなカンジです。ライブでは私はもじもじ踊ってるだけです。モリーちゃんは悪い男にダマされる、思い込みの激しい純朴な田舎娘(赤毛のおさげ、歯に矯正、フリルのついたギンガムチェックのワンピ)という設定。タイトルは60年代洋楽の邦題風。
奥野さんのminiKORGが素晴らしすぎる! 脳内サウンドを忠実に再現して頂けました。そして飯尾芳史さんのミックスも的を得すぎてもう感無量であります。
11. 晩年
遂にラストは、前回に引き続き弾き語りで締めです。当初はバンドアレンジでしたがあまりパッとせず、ニール・ヤングをイメージした弾き語りVer.に変更しました。
本作の製作期間だった昨年は太宰治の生誕100周年で、いたるところで太宰を目にし、あえて長らく遠ざけていた太宰作品を一から読み返した年でした。故にこのアルバム・タイトルも「晩年、或いはファースト」というタイトルにしようと考えていたのですが、「戦争をしよう」と本作で2枚1stがあるバンドとしましては、ここで再スタート、心機一転、わかりやすく座標を立てる為にあえてバンド名を冠しました。
話が逸れましたが、これも春の夕暮れの曲。若さに春は似合いますな、やっぱり。あの独特の気怠さ、エロス、焦燥感、自分の生まれ月が3月というのもあってか、私は春が来ると異様に興奮します。何故かある日突然、いてもたってもいられなくなるのです。思えば春がくるたび無謀な行動をとっている気がしますが(高校中退、上京、バンド解散、レコード会社に座り込み、etc.)、しかしまぁそれらが今に繋がっているのかと思えば、私は春に押されてここまで来ているのかもしれません。と、なんとなく歌詞の内容とも繋がったところで全曲解説これにて終了、と。

あとがき

 数日前にマスタリングを終え、こうやって聴き返すと、このアルバムのテーマが複数浮かび上がってまいります。それらはあらかじめ意識的に設定したモノもあれば、無意識のうちにまとまっていたモノもあります。

 まず一つは春、という季節。これは意図的に、であります。春を連想させる言葉が歌詞に出てくる曲だけでも4曲収録されています。

 もう一つは架空のストーリーが、主人公からの視点で歌われる曲。これは実は全く意識していませんでした。ボニー&クライドを気取った少年と少女、恋にやぶれたカウボーイ、笑う事しか知らない悲しい男、最愛の母を亡くしたばかりのリリー、バンドワゴンに乗って旅を続ける少年、だまされた事も知らないモリー、とまさに様々な設定の主人公が出てきますがまぁなんと一様に不幸体質というか被害者体質というか自分でも呆れますが、言い切ってしまえばそういう境遇に置かれた人間というのは美しいと僕は感じます。

 そして最後は、小さくても大きくてもなにか夢を見ている若者(自分もまだ志半ば、というのは棚に上げて)に向けて書いた曲ばかり、という点、これはあきらかに意識して。自分がまだ20歳そこそこで、毎日毎日もがいて苦しんでいた時代を支えてくれたスターを亡くした時、信じられない事に今度は自分が同じように夢見られる番になっていて(バカな事に私は最近までそれを否定していました)、まぁ何ができるかといえばただ一つ、「その子達が不幸にならないための音楽」を僕は作らなきゃなぁ、と思ったのです。

 もし我々の音楽や主張に共感を抱いてバンドを始めた少年がいたとして、その子が数年後に「なんだ、ロックだバンドだ言っても結局くだらねぇじゃねぇか」という思いを絶対させてはならないと今私は強く思っています。これをお読みの業界の方で、世間知らずな少年少女を餌にするような仕事をしている人がいるならば、いいですか。私はアナタを許さない。夜道に気をつけるように!

 全てはきっとうまくいく、エブリシン・ゴナ・ビー・オーライ。

 こんなことを歌うならば、私は今幸せじゃないといけない。ロックンロールで幸せにならなければいけない。ちゃんと、生計を立てて、「実質的に」幸せにならなきゃ説得力がない!

 僕らがやってるのは浪花節じゃあない、ロックンロールなんだ! 「顔で笑って心で泣いて」とか「お客様は神様です」とか「親が死んだ日もステージがあるならそこに立つ」とか、そんな美談はもういらない! 僕らはとにかく幸せになるんだ。「悪魔に魂を売る」なんて、そんなしきたりはもう捨てるべきなんだ!

 今まで本気で「世界平和」を託されたポピュラー音楽がありましたか? ロックンロールはそれぐらいの器なんだと私はまだ信じています。ロックンロールは全ての願いを叶える魔法の音楽、そして人類の全ての願いが託された文化だと、私は信じています。

 長くなった、本当に長くなりました。お忙しい中最後まで読んで下さった関係者各位の皆さん、お時間割いて本当にすいませんでした。感謝します。感謝for you!(←清志郎さんで)

 こんだけゴタク並べて、ただのつまりは「ゴキゲンなロックンロールのレコード」がまたこの世に一つ増えたよ、ってのが事実です。うむ。とてもゴキゲン、それってとっても幸せだ。いいぜ。私の人生。

毛皮のマリーズ代表 志磨遼平

メジャーデビューアルバム「毛皮のマリーズ」 / 2010年4月21日発売 / 2500円(税込) / コロムビアミュージックエンタテインメント / COCP-36083

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CD収録曲
  1. ボニーとクライドは今夜も夢中
  2. DIG IT
  3. COWGIRL
  4. 悲しい男
  5. BABYDOLL
  6. バンドワゴン
  7. サンデーモーニング
  8. それすらできない
  9. 金がなけりゃ
  10. すてきなモリー
  11. 晩年
毛皮のマリーズ(けがわのまりーず)

志磨遼平(Vo)、越川和磨(G)、栗本ヒロコ(B)、富士山富士夫(Dr)による4人組ロックバンド。2003年に結成し、都内のライブハウスを中心に活動。2005年に発表した自主制作CD-R「毛皮のマリーズ」が話題を呼び、2006年9月にDECKRECから1stアルバム「戦争をしよう」をリリースする。その後も音源の発表を重ねつつ、ライブの動員も激増。コロムビアミュージックエンタテインメントと契約し、2010年4月21日にアルバム「毛皮のマリーズ」をリリース。