ナタリー PowerPush - 毛皮のマリーズ
圧倒的大器メジャー移籍! 志磨遼平、その生きざまを語る
ライブハウスは大嫌いでした。才能のない人が多いから
──ロックに対する姿勢が徹底してますよね。「毛皮のマリーズ」には「晩年」っていう曲も収録されてますが、太宰治もロックンロールだと思います?
そうですね、もう他人事だとは思えないくらいに。太宰って、ジョニー・サンダースだと思ってるんですよ。
──ハハハハハ! え、どこが?
太宰の有名な、こういう写真(左手で頬杖をつく)があるでしょ? ジョニー・サンダースにもね、こういう写真(右手で頬杖)があるんですよ。それを反転させると、ホクロの位置まで同じなんです。なんていうんかな、あの“だめんず”ぶり? 業が深くて、ダメーな感じでしょ、2人とも。でも、顔がいいもんだから「どうせモテちゃうんでしょ?」っていう(笑)。他人のことはぜんぜん気にしてなくて、自分ばっかり悩んで、堕落しているくせに潔癖で、だけどユーモアもあって。大好きですね、どっちも。
──あれだけメチャクチャなのにちょっと笑えるっていう。そこは確かに共通してるところかも。
チャーミングっていうか。そこがいちばん好きなところかもしれないですねえ。
──ユーモアっていうのは、毛皮のマリーズにとっても大事な要素だと思います。でも、志磨さんはそこまで自堕落なタイプじゃないでしょ? むしろストイックに自分を律するほうかなって。
いや、それはね、改善したんですよ。20代の最初なんてまさに太宰でしたからね。「太宰の本を読んでいただければ、だいたいのことはわかるかと」っていうくらいの。“恥の多い生涯を送ってきました”ですよ、ホント。
──でも、音楽とは真摯に向き合ってたわけですよね?
「音楽のためになるかどうか?」ってことしか考えてなかったんですよ。だから僕にかかわった人の中には、男性女性を問わず、嫌な思いをさせてしまった人も多いと思います。僕はもう「別に迷惑かけてもいいやん。それを全部すごい曲にするんやから」っていうのを免罪符にしていて。
──すごいですね、それ。
付き合う人も才能があるかどうかで決めてたんですよ。人間的にどれだけ嫌な人でも、何かを僕にフィードバックしてくれる人とかかわりたかったし。逆に才能がないと思った人とは、口もききたくないっていう。だからライブハウスも大嫌いでした。才能のない人が多いから。
──まあ、誰でも出演できますからね。
そう、何の才能もないヤツがステージに上がりやがって……っていうね。しょうもない音とか、しょうもない会話が耳に入ってくるのもダメだったんですよ。だから、街を歩くのも大変やったんですよね。「この前ナンパした女が……」みたいな話が聞こえてくると、「うわ、アホがうつる」とか思って(笑)。そういうときはダッシュで部屋に帰って、戦前のブルースとかを爆音で聴いて耳を浄化するんです。まあ、病気みたいなもんですよね。
──そうっすねえ。でも、それがあるときから変わってきた、と。
2、3年前ですかね。これじゃダメだって思って、太宰を読むのもやめて(笑)。今はだいぶマシになってると思いますよ。虚勢を張らなくなってきたという。
──偶然かもしれないけど、毛皮のマリーズの存在が広まってきた時期と重なりますね。
そうなんですよね、不思議なんですけど。ギラギラしすぎてるときは、あんまり魅力がなかったみたいで。
これからは寝ないでがんばろうと思う
──最後に、アルバムのタイトルにもなってる“毛皮のマリーズ”という名前についても聞きたいのですが。これは「毛皮のマリー」(1967年、寺山修司によって書き下ろされた演劇。美輪明宏<当時は丸山明宏>の代表作としても知られる)に由来してるんですよね。
はい。寺山が大好きなので。
──いつ頃から好きだったんですか?
小さい頃からですね。あと、江戸川乱歩とか夢野久作とか澁澤龍彦とか。
──子供のときから澁澤龍彦を読んでた?
まず本人の写真に衝撃を受けたんですよね。女物のワンピースを着てたりして「なんじゃ、この人!?」っていう。あと中学くらいのときに丸尾末広のマンガと出会って、そこからすぐに天井桟敷(寺山修司の主宰による実験的な演劇グループ)なんかにもたどり着いて。デカダンっていうんですかね、そういう文化にどっぷり浸かってた時期もありました。
──それはバンド活動にも影響してる?
前のバンドをやってたときはかなりあったと思います。まあ、毛皮のマリーズっていうバンド名を考えたのも、そういう文化の影響ですよね。今のアー写にしても“そのまんま”ですからね。20代前半で毛皮のマリーズを結成したときの雰囲気を、そのまま再現してるっていう。そういう意味でもデビューアルバムにはふさわしいのかなって思いますけど。
──そうですね。ようやく、ここから始まるっていう感覚もあるんじゃないですか?
うん、ありますね! 僕ね、20歳とか21歳くらいのとき、すごく寝てたんですよ。1日12時間くらい平気で寝てて、友達から「なんでそんなに寝るの?」って言われたことがあるんです。「人生80年としたら、おまえは40年くらいしか動いてない。おまえの寿命は40や」って。そのとき僕は「もうちょっとしたら寝る間もないくらい忙しくなる。そのぶん今寝てるねん」っていう名言を吐いたんですよ(笑)。だから、これからは寝ないでがんばろうと思います。
──(笑)。しかし、エピソードの多い人生ですねえ。
そうっすね。昔から、何かあるたびに「これ、いつかインタビューで話そう」とか思ってたんで(笑)。
毛皮のマリーズ(けがわのまりーず)
志磨遼平(Vo)、越川和磨(G)、栗本ヒロコ(B)、富士山富士夫(Dr)による4人組ロックバンド。2003年に結成し、都内のライブハウスを中心に活動。2005年に発表した自主制作CD-R「毛皮のマリーズ」が話題を呼び、2006年9月にDECKRECから1stアルバム「戦争をしよう」をリリースする。その後も音源の発表を重ねつつ、ライブの動員も激増。コロムビアミュージックエンタテインメントと契約し、2010年4月21日にアルバム「毛皮のマリーズ」をリリース。