ナタリー PowerPush - 毛皮のマリーズ
圧倒的大器メジャー移籍! 志磨遼平、その生きざまを語る
有名な音楽はいい音楽
──その頃「将来はこうなる」っていうバンドのビジョンはあったんですか?
うん、それはありましたね、明確に。それはもう、中学生くらいのときからずっとあった。ホントは18歳でデビューするはずやったんですよ。で、20歳くらいでスターダムにのし上がってて。だから、だいぶ遅れてるんですけどね。
──でも、やりたいことは変わってない?
そうですね、そこは変わってないです。レイドバックしたものがやっぱり好きなんで。シブいねえって聴いてるんじゃないですけどね。「ワオ! エキサイティング!」って思ってるので。人からすれば、どうもジジむさいってことになるんでしょうけど。
──そういう音楽に精神的に共感するところもありました? 今10代くらいのリスナーが毛皮のマリーズの歌に自分を投影しているように。
ありました。英語だから深くはわからないですけど、ポロポロありますよね。例えば「♪Go go, go Johnny go go go !」(Johnny B. Goode)とかもそうですけど。あと、アレは泣けますね。THE WHOの「Who's Next」の1曲目に入ってる「Baba O'Riley」。途中でピート・タウンゼントが「♪ドントクラーイ」って歌い出すんですよね。それはもう、聴くたびに「おお、泣かないぞ」って思いますから。
──志磨さんにとってはまったく古い音楽ではない、と。
全然古くないっすよ! すごく良いものって、時間を超越しますから。素晴らしい芸術は時間っていう枠には捕らわれないんですよね。何十年も前の曲が「今まさにできたばかり」っていう衝撃を与えてくれる。だから、残ってるものはやっぱりいいんですよね。残ってないものは良くないから消えたわけで。みんな無名なものを探そうとするけど、有名な音楽はいいんですよ。良いから有名になって今も受け継がれてるんですから。服やギターだって同じですよね。レスポールギターもそうだし。
──そういうことを10代から考えていた、と。
なんていうか、信用できるって思ってたんですよね。これをやっていれば大丈夫、食いっぱぐれないって。
──食いっぱぐれないかどうかは別にして(笑)、古いものに価値を置くっていうのはかなり老成した考え方ですよね。
それが出だしの遅さを招いてるんですよね。衝動に任せておけばよかったと、いまは思ってます(笑)。石橋を叩いて叩いて、渡る前に壊しちゃうタイプなんで。
ロックンロールは信頼のブランド
──というか、もともと時間がかかることをやろうとしてたんじゃないですか?
あ、そうかもしれないですね。やろうとしてることが年相応になってきたというか、昔は若すぎたのかもしれない。言ってることはずっと同じなんですけど、若いときはやっぱり「考えすぎ」とか「本読みすぎ」みたいに思われることが多かったから。だから、余計に「早く歳を取りたい」って思ってたんですよね。いちばんイヤやったんが、10コ上くらいのバンドマンから「俺の若いときみたい」って言われることやったんですよ。「昔は俺もそうやった」とか。「俺は絶対、オマエみたいにはならない!」って思ってましたけど。今はそんなことないし、みんなちゃんと聞く耳を持ってくれますからね。
──なるほど。でも、そこまでロックンロールを信じてるってすごいですよね。
だって、それこそ実績がありますからね、ロックには。例えば「60何年に、どこそこに何十万人を集めた」とか。信頼のブランドですよ。
──信頼のブランド! ロックをそんなふうに表現する人に初めて会いました。
でも、そうだと思いますよ。ロックンロールの歴史が始まってから、多分衰退したことは一度もないと思ってるんですよね。個人個人にはいろいろあると思いますけど、ロックンロール自体はずっと発展し続けてるというか。ちょっとでも退屈とかマンネリの影が見えてくると、すぐに新しい勢力が出てきて。だから、僕がすごいって話ではないんですよね、つまりは。僕自身は虎の威を借る狐っていうか、すごいのはロックンロールであって。小売店みたいなもんですよ、言ってみれば。ロックンロールを仕入れて、みなさんにお届けするっていう(笑)。
──いやいや、ロックンロールの真髄を体現しようとすること自体、ホントにすごいことだと思いますけどね。「ロックにはもう何の力もない」って思ってる人もいるわけですし。60年代にはラブ&ピースも有効だったけど今は何の効果もない、とか。
どういう行動を取るのか? っていう問題だと思うんですよ、それは。例えば愛する人がいたら、その人とピースフルな人生を送りたいっていうのは、誰でも思うことで。問題は愛する人に危険が及んだり、2人の生活を脅かす何かがあったときですよね。「2人の生活をジャマするな」って兵器を持って戦場に行くのが正しい行為なのか。それとも「NO NO NO」ってデモ行進をするのか、暴力反対を訴えて無抵抗を貫くのか……。そこで何かを歌うことが正しいかどうかもわからないですけどね。それだけが問題であって、ラブ&ピースやロックンロールが素晴らしいものであることには変わりがない。
──要は受け取る側の問題ということですよね。
我々の1stアルバムは「戦争をしよう」っていうタイトルなんですけど、それは全然好戦的な意味ではないんですよね。「そろそろタイトル決めてね」って言われて、どうしようかなーって考えてた頃に、ちょうどテポドンが飛んできたんですよ。それが日本海かどっかに落ちて、「めちゃくちゃやなー!」って言ってて。範囲を広くしちゃうと政治の話になっちゃうんですけど、例えば僕の彼女の上にミサイルが落ちてくるってなったら、それを黙って見過ごすわけにはいかないですよね。そこまでされて黙ってるのは間違ってる。そういうところから「戦争をしよう」っていうタイトルにしたんです。
──なるほど。
そういう大きい話だけじゃなくて、日常生活の中にも問題はたくさんあると思うんですよ。「今日、何を食べよう?」っていうのもそうですし。そういうときも僕は「ロックンロールかどうか?」っていうことだけが気になってますけどね。「パスタとカツ丼、どっち?」とか。
毛皮のマリーズ(けがわのまりーず)
志磨遼平(Vo)、越川和磨(G)、栗本ヒロコ(B)、富士山富士夫(Dr)による4人組ロックバンド。2003年に結成し、都内のライブハウスを中心に活動。2005年に発表した自主制作CD-R「毛皮のマリーズ」が話題を呼び、2006年9月にDECKRECから1stアルバム「戦争をしよう」をリリースする。その後も音源の発表を重ねつつ、ライブの動員も激増。コロムビアミュージックエンタテインメントと契約し、2010年4月21日にアルバム「毛皮のマリーズ」をリリース。