ナタリー PowerPush - 河村隆一

社会を“刺激”するロックとは? 10thソロアルバム「Life」完成

「うーん……。とりあえず河村隆一が歌うロック」

──今作の参加ギタリストの中には「河村隆一」もいますよね。

ええ。1曲目の「Holy Song」は全部僕が弾いてるんですけど、これには理由があって。デヴィッド・ボウイの過去のアルバムなんかを聴いていると、コードのメジャー / マイナーを決める3度の音が長3度(メジャー)なのか短3度(マイナー)なのかよくわからない、よく言えばメジャーとマイナーの区別を付けない浮遊感のあるギターサウンド、悪く言えばヘタクソなギターなんだけど、それがカッコいいみたいな曲がけっこうあるんですよ。「Holy Song」ではそのあいまいなカッコよさを追求したかったんですけど「だったらオレが弾けばいいじゃん。要はスケールアウトすればいいんだろ」って(笑)。で、10回、20回、あえてスケールアウトさせながら弾いてみて、カッコよく音を外せているテイクを選んだら、ああいうサウンドになったんです。でもアルバムの中にはその反対にキレイにギターのハーモニーを聴かせたい曲もある。そういうギターなんだからこの人にしようって感じで1人ひとり選定していったんです。

──SUGIZOさんとINORANさんが参加することで「音がLUNA SEAっぽくなるんじゃないか」って不安はありませんでした?

まったくなかったですね。僕がいいなと思っているギタリストに弾いてもらおうと思った瞬間、当然真っ先に出てきたのはSUGIZOとINORANでしたから。「今度ソロアルバムを作るから、よかったら曲を書いてギターを弾いてほしいんだけど」って頼んだのは、確か神戸のイベント(2013年5月27日の「KOBE SUPER SESSION」)のときだったと思うんですけど「どんな曲?」って聞かれたから「うーん……。とりあえず河村隆一が歌うロック」って答えただけでしたし(笑)。

「お願いしまーす」「はーい」で生まれるロックの最新型

──あはははは、失礼ながら発注が雑すぎる気が(笑)。なのにキーボードがフィーチャーされたエレクトリックなINORANさんの「トパーズの丘」と、同じフレーズがミニマルにループしつつも女声コーラスが入ったりしてだんだん展開が派手になるSUGIZOさんの「永遠の詩」。このLUNA SEAとは一線を画す2曲ができあがった、と。

河村隆一

ええ。「なんでもいいから書いて」って頼んだら書いてきてくれたのが、ちゃんと「カッコいいな」って思える曲だったんですよ(笑)。このアルバムの制作現場に仮に真矢くんとJがいて、INORANとSUGIZOと僕が一緒に曲を奏でることになったら、限りなくLUNA SEAに近いものになったとは思うんですけど、INORANはINORANの曲、SUGIZOはSUGIZOの曲ってセパレートされている上に、リズム隊のメンバーも違うから、ちゃんと差別化されてるんでしょうね。

──「でしょうね」って言葉もある意味スゴいですよね(笑)。この作品は「河村隆一のソロワーク」である上に、隆一さん自身、曲も書くしギターも弾く人なんだから、もっと座長然としているというか、もっとガチッとディレクションしているんだと思ってました。

いやいや、そういうことは全然してないですね。確かにソロワークだから僕が座長といえば座長なんですけど、特に今回のアルバムの作り方はバンドのときとあんまり変わっていない。「お願いしまーす」「はーい」とか「この曲カッコいいね」「歌っとくー」とか(笑)。そういう環境で作ってました。

今求められているのは自分と向き合える早熟さ

──作詞や作曲ってスムーズでした?

難産だった曲はないですね。ただ「My Love」はこれまでのソロワークにはない作り方をしています。最初に僕が考えたギターフレーズ、アコギのアルペジオを録音して、アレンジャーの葉山(拓亮)くんと一緒にそのフレーズを聴きながらリズムを作ったり、コード進行を考えたりして、最後に歌メロを付けたんですよ。で、その歌メロの付け方というのがどちらかというとLUNA SEAっぽい。LUNA SEAでは曲を書いてきたメンバーに「RYU、このメロディを歌って」って言われることもあれば、「こういうコード進行で、Aメロは8ビートでこういうギターフレーズが乗るから、メロディを付けてくれる?」って頼まれることもあって。今回はその後者のほうの作り方をしてみたんです。僕と葉山くんが奏でる音を聴きながら、インプロ(ビゼーション)というかアドリブでメロディを生んでいくっていう作り方をしてみたんですけど、そのときはさすがに緊張しましたね。「すごくカッコいいオケができあがりました、構成も固まりました。じゃあメロディは決まってないけど、とりあえず歌ってみて」「メロディは決まってないけど、ファンに届けられる最高の歌を歌ってみて」って言われているわけですから。ただ、いざ「♪ラララ」って歌い始めてみたら、メロディの頭からケツまでスルスルって、あの「My Love」のメロディが出てきちゃったんですよ(笑)。

──なんか我々の考える難産とは次元が違いました(笑)。最後にちょっと大づかみな質問なんですけど、なぜ河村隆一という人はロックの持つダイナミズムやある種の攻撃性と、多くの人への優しい言葉という、ある意味相反する2つを1曲の中で両立させられるんでしょう?

なんでだろう(笑)。もしかしたら経験なのかもしれないですね。20代の頃のLUNA SEAは「もうこんなにたくさんツアーやれるわけないだろ」「体力的にムリだよ」っていう、本当にいろんな夜を経験していて。実際、体力的な谷というか限界を感じたこともあったんですけど、その経験があったおかげで今はすごくラクに声を出せるようになった。実は僕、今が一番歌えている状態なんですよ。ようやく素人から職人になれた感じがするんです。で、そうすると時間の余裕も出てくるんですよ。

──これまでよりも歌うことに悩んだりせずに済むから?

そうなんです。自分と社会のありようについて考える時間もできるし、「ロックとはなんだろう?」って掘り下げる時間もある。20年前の僕が「ロックをやろう」って言ったら乱暴さや粗暴さしか表現できなかったと思うんだけど、それだけがロックではないことを知っているから、「Life」みたいな音を作れたんじゃないかって気はしますね。だから今回アルバムでギターサウンドを選び取ったことにも実はメッセージを込めたつもりなんです。さっきもお話した通り、何か目指すものがあるとき自分のマインドと真正面から向き合って、その目標を達成するためには何が必要なのか、そのマインドを仕分けしなければならない。例えば僕のように「ロックアルバムを作りたい」と願ったなら「オレの考えるロックとは」ということを一度考えてみなければならない。20代の僕にはその余裕がなかったように、アルバムを聴いてくれる若い人たちには少し難しいことかもしれないけど、それでも心のどこかで絶えず意識するようにしていれば、少しは自分のマインドを見つめる時間は作れるはずなんですよね。そういう早熟な人でいてもらいたいんです。

ニューアルバム「Life」 2013年9月11日発売 / avex trax
「Life」CD+DVD / 3990円 / AVCD-38742/B
「Life」CD / 3150円 / AVCD-38743
CD収録曲
  1. Holy Song
  2. Life
  3. 星と翼とシグナル
  4. Sea of Love
  5. 七色
  6. トパーズの丘
  7. Love & Peace
  8. 永遠の詩
  9. My Love
  10. Miss you
  11. the earth ~未来の風~
  12. 女優 ~枯葉に落ちる優しい雨のように~
DVD収録内容
  • Miss you(Music Video)
河村隆一(かわむらりゅういち)
河村隆一

1970年5月20日生まれ、神奈川県出身の男性シンガー。1992年にLUNA SEAのボーカリストRYUICHIとしてメジャーデビュー。1997年、バンド活動休止期間中にシングル「I love you」でソロ活動をスタートさせる。2ndシングル「Glass」は100万枚以上、1stフルアルバム「Love」は320万枚を超えるセールスを記録。そのほかドラマ出演や小説の出版、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースなどでも活躍。2000年12月のLUNA SEA終幕を経て、2001年よりソロ活動を再開。2005年にはLUNA SEA時代の盟友INORAN(G)と、H.Hayama(葉山拓亮 / Key)とTourbillonを結成し、日本武道館でデビューライブを行った。2009年3月にはBunkamuraオーチャードホールにて、マイクを一切使わないコンサート「No Mic, No Speakers」を実施。2011年5月には日本武道館にて、6時間半で104曲を歌いきるコンサートを行い、ギネスワールドレコーズに認定された。近年は復活したLUNA SEAの活動に加え、役者として「CHICAGO」「嵐が丘」「銀河英雄伝説シリーズ」「走れメロス」などのミュージカルや舞台にも出演。2013年5月、約2年ぶりとなるシングル「七色」をリリース。さらに9月には10枚目のオリジナルアルバム「Life」を発表した。