ナタリー PowerPush - 河村隆一

社会を“刺激”するロックとは? 10thソロアルバム「Life」完成

政治家の言葉や役所の文書がお堅くなる理由

──今、隆一さんの言っていた「みんな」って誰のことですか?

「誰」って?

──アルバムを聴いていても、お話をしていても射程が広い気がするんです。LUNA SEAファン、河村隆一ファンだけを愛しているわけでもないし、逆にバブルを謳歌した拝金主義的な人や、最初の一歩を踏み出せない若者に敵意を向けてもいない。

河村隆一

ああ、確かに基本的には人のことを信じちゃってるかもしれませんね(笑)。よく政治家が悪い、官僚が悪いなんて言われがちだし、僕自身も今の政治のあり方に怒りや不満はありますけど、その理由の1つはお互いが使っている言葉が違うだけっていう気がしていますから。例えばお役所の文言は僕らが作詞のときに使う言葉よりもはるかにお堅いですよね。でも法律や役所の文書っていうのは社会の通念や観念、みんなの思いを1つにまとめるためのものだから言葉が堅くなるのはある意味、当然なんですよ。

──個人の思惑や感情に左右されないテキストを書こうとすると、文体はどうしたって木で鼻をくくったようになるし、堅くもなりますよね。

僕らのように身近な言葉で語りかけるわけにはいかないんですよね。ただ、そういう言葉って耳慣れないから僕らのような市民にとって怖さもあって、それが「絶対に政治家や官僚を信じないぞ」っていう気持ちにつながっている面もあると思うんですよ。だからその誤解やすれ違いは解きたい。それこそ友人同士が語り合うように「えっ、なに、憲法改正しちゃうわけ?」「うん、やってみよう?」「でもさ、それにはこんなマイナス面があるんだよね」「そっか、そっか。じゃあ、そのマイナスを織り込めばいいよな。はい、これでいい?」みたいな感じで議論を進めたり、そのときどきに総括をしたりしながらも、でもみんなで前に向かっていければいいな、って思うんですけどね。

意見の合わない人とうまくやれるチャンネルはある

──品のないやり口ではあるんですけど、自分の正義を守るためなら、仮想敵を作ってキレちゃったほうが正直ラクというか……。

人間、そういう気持ちになることは絶対にありますよね。

──でも今、隆一さんは「みんないろいろ事情があるんだから、誰かを悪しざまにするんじゃなくて、協力できる方法を考えてみましょうよ」と言っている。昔からそういうタイプでした?

……うーん、なんて言えばいいんだろうな。昔からある局面では意見が合わない人とでも、違うチャンネルにいくとウマが合ったりするタイプなんですよ。例えば「サッカーをしているときにはアイツにすごくいいパスを出せるんだけど『メシを食おう』ってなると絶対に意見が合わない」とか「お互い政治や社会の話をすると絶対にソリが合わないんだけど、テニスのときはなんかいつも一緒だよね」とか、そういう友人が多いんです(笑)。で、政治の話はもちろんだけど、僕が食べたいメニューが絶対的な正解であるわけがないじゃないですか。

──そりゃそうですね(笑)。

だから意見が合わない人がいてもいい、いや、いて当然だと思っているし、その人とだってうまくやれるチャンネルがきっとあるだろうって期待しているんだと思います。

時代のサウンドを作るのはいつもギタリスト

──ここからは音のことを伺いたいんですけど「Life」ってニューロマや、ジャンルとしてもビジネスとしても大きな存在になり始めた80年代のロック的な雰囲気をまといつつも、ちゃんと2010年代の音になってますよね。

河村隆一

今回のアルバムの詞を書くときに自分のマインドを一回整理してみたように、音についても整理することが大事だな、と思ったんです。そういう思いもあって、さっき挙げたバンド以外にもChicagoやYes、それからエディ・ヴァン・ヘイレンや、性別は違うけどホイットニー・ヒューストンといった自分が憧れていたり、好きだったりするバンドやアーティストを改めて聴き直してみたんですけど、時代性を反映するキーになるのはギターの音色なんだな、ということに気付いたんですよ。もちろんベースやドラムにも60年代、70年代、80年代、それぞれの年代の音はあって。例えば、スネアに「♪シュトン!」って感じのゲートリバーブをかけてみたりとか……。

──あれはモロに80年代の音ですよね。だから今聴くとちょっとダサい(笑)。

そう(笑)。「これ、ゲートがなかったらカッコいいのにな」みたいな曲ってありますよね。でもそれってつまり、もしかしたら80年代のドラムセットや、60年代のドラムセットを使ったとしても、録り方やトラックダウンの仕方1つで2013年版の音が作れるということなのかもしれない。だけどギターだけは違ったんです。それはいろんなバンドの音を聴いても思うことだし、自分でギターを弾いてみてもそうで。今、僕はプライベートスタジオにThe Beatlesの時代から現行のモデルまで、いろんな年代のギターをそろえているんですけど、例えばThe Yardbirds時代のジェフ・ベックが使っていたモデルとまったく同じストラト(キャスター)とギターアンプがあれば、今でも60年代のジェフ・ベックの音にかなり近づけられるし、ブラッキー(エリック・クラプトンが愛用していたフェンダー社のストラトキャスター)なら70年代のクラプトンに近い音を出せる。だから、実はロックを年代ごとにわけるものってギターの音とギタリストなんじゃないかと思ってるんです。

──アルバムの収録曲ごとにかなりギタリストを変えているのはそういう理由から?

そうですね。ギターへのアプローチでサウンドが格段に変わるなら、ドラムは沼澤尚さんとカースケさん(河村智康)、ベースは種子田(健)さんと、リズム隊は鉄板のメンバーで固めておきつつ、自分の好きなギタリストを集めてみようと思ったんですよ。で、田中義人さんと福田真一朗さんっていう、いつもライブで弾いていただいている方々と、DEAD ENDの足立祐二さん、それからSUGIZOとINORANに参加してもらって。そうやって同じリズム隊とボーカルの上にいろんなギタリストの音が乗ったら、それぞれの曲が僕が好きな雰囲気の音になって、しかも今の音になるだろうという読みがあったんです。

ニューアルバム「Life」 2013年9月11日発売 / avex trax
「Life」CD+DVD / 3990円 / AVCD-38742/B
「Life」CD / 3150円 / AVCD-38743
CD収録曲
  1. Holy Song
  2. Life
  3. 星と翼とシグナル
  4. Sea of Love
  5. 七色
  6. トパーズの丘
  7. Love & Peace
  8. 永遠の詩
  9. My Love
  10. Miss you
  11. the earth ~未来の風~
  12. 女優 ~枯葉に落ちる優しい雨のように~
DVD収録内容
  • Miss you(Music Video)
河村隆一(かわむらりゅういち)
河村隆一

1970年5月20日生まれ、神奈川県出身の男性シンガー。1992年にLUNA SEAのボーカリストRYUICHIとしてメジャーデビュー。1997年、バンド活動休止期間中にシングル「I love you」でソロ活動をスタートさせる。2ndシングル「Glass」は100万枚以上、1stフルアルバム「Love」は320万枚を超えるセールスを記録。そのほかドラマ出演や小説の出版、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースなどでも活躍。2000年12月のLUNA SEA終幕を経て、2001年よりソロ活動を再開。2005年にはLUNA SEA時代の盟友INORAN(G)と、H.Hayama(葉山拓亮 / Key)とTourbillonを結成し、日本武道館でデビューライブを行った。2009年3月にはBunkamuraオーチャードホールにて、マイクを一切使わないコンサート「No Mic, No Speakers」を実施。2011年5月には日本武道館にて、6時間半で104曲を歌いきるコンサートを行い、ギネスワールドレコーズに認定された。近年は復活したLUNA SEAの活動に加え、役者として「CHICAGO」「嵐が丘」「銀河英雄伝説シリーズ」「走れメロス」などのミュージカルや舞台にも出演。2013年5月、約2年ぶりとなるシングル「七色」をリリース。さらに9月には10枚目のオリジナルアルバム「Life」を発表した。