音楽ナタリー Power Push - 川本真琴
“ふとしたこと”を積み重ねてきた20年
10日もビッチリ練習したら心が乱れる
──ピアノのアレンジは川本さんがやられているんですか?
今までライブで弾き語りしたことのある「アイラブユー」「タイムマシーン」「1/2」、あと新曲の「ふとしたことです」は私がアレンジしたものですね。で、残りは自分が頼みたいと思ったピアニストの方にお願いしました。林(正樹)さんと葛岡(みち)さんというお二人なんですけど、それぞれ独特の素敵なプレイを持っている方なので、絶対面白い仕上がりになるだろうなと思って。基本的にはアドリブっぽくアレンジしてもらったんですけど、私も一緒にスタジオに入って、「ここはもうちょっとニューオリンズ風になりますか?」とかリクエストしたりもしましたね。
──で、それをレコーディングでは川本さんが弾くわけですよね。
はい。アレンジをいただいてから10日間……実際1週間くらいなんですけど(笑)、練習してレコーディングした感じです。
──その3日の誤差は?
実際は10日ごとにレコーディングをしないと間に合わない感じのスケジュールになっていたんですけど、1曲録り終わると……ちょっと遊びたくなっちゃって(笑)。なので、10日間の練習期間の内、最初の3日は遊んで、残りの7日間で練習するっていう。で、レコーディング当日はめっちゃ10日間練習しましたっていう顔で。あははは(笑)。
──そういう体で(笑)。まあでも、あんまり根を詰めるとね、集中力が続かないですから。
そうなんですよ。10日もビッチリ練習したら、ちょっと心が乱れるっていうか(笑)。リフレッシュと集中、メリハリって大事じゃないですか。なのでしっかりリフレッシュをしつつ。そういう部分に関しては、自分に対して大盤振る舞いなところがあるので(笑)。
──ほかの方がアレンジしたものを弾く難しさはありませんでしたか?
ありました。最初はアレンジャーさんのプレイをそのまんま弾きたいと思っていたんですけど、その方ごとの手癖っていうものがあるので、それをマネするのは難しいと思ったんですよね。その方の癖をマネするってことは、自分の癖を直すっていうことでもあると思ったので、それは音楽的なことではないなと。相談したら「全然変えてもいいですよ」って言っていただけたので、自分流に変えて弾いたところもあります。
新曲「ふとしたことです」
──新曲の「ふとしたことです」は、タイトル通りほっこりした曲ですね。
ほっこりしました? よかった。これ、曲自体は6、7年前からあって、歌詞もそのときから付いていたんですよ。ただ、そこに描かれている心情が当時とはちょっと変わっているところもあったので、今回歌詞を書き直した部分もあります。
──作詞は、川本さん楽曲で名前をたびたびお見掛けするトクガワロマンさんとの共作になっていますね。
はい。今回リリースすることになって、部分的に一緒に歌詞を作り直しました。「ふとしたことです」っていうタイトルもトクガワロマンさんから出していただいたものですね。「雰囲気あるなあ」と思って、それにしました。
──川本さんのイメージにマッチしたタイトルだと感じましたよ。
あ、そうですか? その言葉が歌詞にも入ったことで、曲がよりしっかりできあがった印象もありましたね。
──ほかの方の語感が入ると刺激になりますか?
そうですね。私とトクガワロマンさんはまったく違った言葉を出すタイプなんですよ。でも、それが曲の中で一緒になると、いい要素として面白くプラスになるっていうか。お互いの個性が相殺されない感じなのでうまくいってるんですよね。
──2人の個性が入っていてもデコボコした仕上がりになっていないですもんね。どちらがどの言葉を書いたのかわからないくらい絶妙に混ざり合っていると思います。
私は自分の書いたところがわかってるからアレですけど、知らない人からするとそう見えるみたいですね、うん。
──今回はピアノ弾き語りメインではあるものの、ストリングスなどの楽器が加えられている曲も多いですね。「ふとしたことです」では、後半に口笛などいろんな音が入ってきて楽しい雰囲気になっています。
ピアノ以外のアレンジをやるアレンジャーのセレクトはコロムビアの担当さんにお任せして、選んでくれたのが沢田(穣治 / ショーロクラブ)さんで。実は私、沢田さんとは知り合いだったからちょっとびっくりしましたね。私はピアノを録った段階で一応やり遂げた感じだったので、そのあとに沢田さんがいろんな音を入れてくれたものを聴いたときは「おー!」ってなりました。
──曲の完成をリスナー感覚で楽しめたと。
そうです、そうです。ホントにそんな感じでした。そういうやり方は面白かったですね。沢田さんのことは前から知っているけど、普段はカラオケで歌っているところくらいしか見ていないので、実はちょっと心配してたところもあったんですよ(笑)。でもすごくいいものにしてくださったのでよかったなって。
これからも自分のペースで
──20周年を祝うにふさわしい作品がメジャーレーベルからひさびさにリリースされたことで、気になるのは今後のことなのですが。何か展望はありますか?
今後ですか……今後のことはホントに何も考えてないんです。まあでもとりあえず今までやってきた感じでここからもやりたいかなあって思ってますけどね。やれる限り、自分のやれるようにやろうと思ってます。なるべく(笑)。
──今年は川本さんが参加されているバンド、川本真琴withゴロニャンずのアルバムがリリースされたりもしましたが、ソロとしてのフルアルバムにも期待したいところです。
はい……でも私、別にオリジナルアルバムにこだわる必要ってあんまりないんじゃないかなって思うんですよ。アルバム何枚出したから偉いだろってこともないと思うので。それよりは楽曲単体として、例えばお店で流れてるのを聴いて「あ、これなんだろ? いい曲だな」って思ってもらえるのがうれしいなって。私の曲はそういうものであってほしいなって。
──“ふとした”ときに傍にあるものでいいと。
うん、そうですね(笑)。
収録曲
- アイラブユー
- fish
- 愛の才能
- gradation
- OCTOPUS THEATER
- ドーナッツのリング
- やきそばパン
- タイムマシーン
- ふとしたことです
- 1/2
- 川本真琴withゴロニャンず 1stアルバム「川本真琴withゴロニャンず」
- 「川本真琴withゴロニャンず」
- 2016年8月10日発売 / 2765円 / MY BEST! RECORDS / MYRD-100
- Amazon.co.jp
収録曲
- music pink
- summertimeblues
- ぱいなっぷるめろでぃ
- 私が思ってること知られたら死んじゃう
- エリエリ
- ハッカときみと太陽と
- フラッグ
- ごろにゃんずいっつぁすもーるわーるど
- プールサイド物語
川本真琴(カワモトマコト)
1974年生まれの女性シンガーソングライター。1996年5月に岡村靖幸が作曲・編曲・プロデュースを手掛けたシングル「愛の才能」でメジャーデビューし、いきなりスマッシュヒットを記録する。その後も「DNA」「1/2」「桜」などのシングルがチャート上位にランクイン。個性的な歌詞と独特の譜割り、ポップでキャッチーな楽曲で人気を博す。しかし、2000年代に入ると表立った活動が停滞。その後2006年に朝日美穂、もりばやしみほとの期間限定ユニット・ミホミホマコト名義でミニアルバム「ミホミホマコト」、タイガーフェイクファー名義によるシングル「山羊王のテーマ」をリリースし、本格的に音楽活動を再開させる。2010年2月には前作から9年ぶりとなるソロ3rdアルバム「音楽の世界へようこそ」をリリースし、音楽ファンの話題を集めた。2014年には植野隆司(テニスコーツ)、澤部渡(スカート)らと新バンド・川本真琴withゴロニャンずを結成。2016年8月に1stアルバム「川本真琴withゴロニャンず」をリリースした。同年、メジャーデビュー20周年を記念してセルフカバーアルバム「ふとしたことです」を発表する。現在は、神聖かまってちゃんとのコラボや、竹達彩奈、ぱいぱいでか美らへの楽曲提供なども精力的に行っている。