音楽ナタリー Power Push - 川本真琴
“ふとしたこと”を積み重ねてきた20年
今年デビュー20周年を迎えた川本真琴が初のセルフカバーアルバム「ふとしたことです」を11月23日にリリースする。
デビュー曲「愛の才能」をはじめ、「1/2」「アイラブユー」「タイムマシーン」「gradation」といった代表曲をピアノ弾き語りというスタイルでセルフカバーした本作。シンプルなサウンドで生まれ変わった楽曲群は、彼女が持っている天性のソングライティングのセンスと、唯一無二の魅力を改めて感じることができる仕上がりとなった。さらに待望の新曲「ふとしたことです」の収録や、人気写真家・川島小鳥による撮り下ろしアートワークによって今の川本真琴の姿もリアルに切り取られた、まさに20周年というアニバーサリーにふさわしい内容となっている。
衝撃的なデビューから独自のペースで歩み続けてきた川本真琴の20年。その時間を振り返りながら、変わることのない音楽性についてじっくりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき
気付いたら20年経っていた
──今年5月でデビュー20周年を迎えましたが、お気持ちはいかがですか?
10周年のときはお祝い事みたいなことがまったくなく静かに過ぎ去っていったんですよ。なので20周年もそういうものだと思ってたら、今年は偶然にもいろんな企画が動いて、いろいろリリースできることにもなったので20周年らしくなってます(笑)。喜ばしいことですね。
──振り返るとどんな20年でした?
ホントにいろんな時期がありましたよね。いいときもあれば悪いときもあったというか。メディアにたくさん出ていた時期もあるし、まったくリリースやライブがなかった時期もあるし、お友達同士だけで活動してる時期もあるし。で、気付いたら20年経っていた感じ。
──確かに露出の仕方や活動ペースは時期ごとにさまざまですけど、不思議と川本さんにはずっと“現役感”があるんですよね。姿が見えないときですら、休んでいるようには思えないというか。
ああ、そうですね。私は基本、外に出る人というよりは制作者だと自分では思ってて。なので、ずっと音楽を作り続けてるってことは20年間まったく変わらないんですよ。周りからは「今、川本真琴って何してるのかな?」って思われていたとしても制作はずっと続けていたし、ライブもコンスタントにはやっていたと思うので、休止している時期はなかったですね。
──音楽に対する愛情や熱意もまったく変わらない?
うん。あんまり変わってはないですね。やりたいことは時期によって細かく変わりますけど。私はけっこう飽きっぽいので(笑)、自分の中の音楽的な旬みたいなものは半年とか1年くらいしか続かないんです。で、だんだん飽きてきたらまた違うところに行く、みたいな。作品ごとに色がガラッと変わるのはそのせいですね。
──迷ったりくじけたりした瞬間はなかったですか?
えー、それはすごいありますよ。曲作りに関していうと、煮詰まってらちが明かなくなってくると頭が真っ白になって「あーどうしよう……」って倒れ込むことはよくありますし。そういうときは1回頭を切り替えるために飲みに行ったりしてから、またやるみたいな(笑)。だいたいはそれでうまくいきます。
──正直辞めたいと思ったこともありますか?
それもちょくちょくあります。体調が悪いだけで、「もう音楽辞めたい」ってなりますし。疲れてくるとホントすぐ辞めたいってなるんですよねえ(笑)。ま、そういうときにも遊びに行くとかしてリフレッシュすれば大丈夫なんですけど。飽きるまで遊べば、また音楽に戻れるっていう。そこも基本的には変わらないですね。
メジャー時代は「ギターを持って歌う人」
──デビューからの約6年間、メジャー時代のことって今どう感じていますか?
あの時代は「ギターを持って歌う人」っていう、ある種、1個の企画みたいな感じでやってましたよね。川本真琴と言えばギターっていまだに思われてるのはあの当時のイメージだと思う。私は元々ピアノの人だったので、ギターはデビューのためにめちゃくちゃ練習したんですよ。
──当時、コードくらいしか弾けなかったそうですね。
今でもそうですよ。ソロ弾けって言われてもできません(笑)。ただ、今でもライブではギターを弾くことがあるので、やっといてよかったかなとは思う。あの時期がなかったら絶対にギターを弾くことはなかったと思うので。あと、作詞に関して真面目に考えるようになったのもメジャー時代があったからこそですね。デビュー前から作詞はやってましたけど、どっちかっていうと曲のほうを大事に思っていて、歌詞は付いていればいいやって感覚だったんですよ。あんまり興味がなかったっていうか。
──へえ、それはすごく意外ですね。
でもデビューしてからいろいろな本を読むようになったりとか、言葉に対してすごく興味を持つようになったんです。それはきっとたくさんの人に自分の曲が届いているからこそ、歌詞の重みを考えるようになったからだと思うんですけど。
──デビュー直後から一気にスターダムに駆け上がったわけですけど、それに対してのとまどいはなかったですか?
それはもちろんすごくとまどってましたよ。だって急にみんな「真琴さん」って呼ぶようになっちゃったから。本名は違うんで、それがすごいイヤだったんですよ。自分の両親まで「真琴さん」って言い出したときはすごく孤独な気持ちになりましたね。突然訪れた孤独(笑)。でもテレビとかにたくさん出られたのは面白かったですよ。カメラの方とか照明の方とか、いろんな職人さんがいる現場ってすごく好きなんですよ。緊張するし、めちゃくちゃ疲れるんだけど今にして思えばすごく楽しかったです。
──その後、活動の場をインディーズへと移したわけですけど、それは自分なりの歩幅、ペースで音楽を続けていくための決断だったんでしょうか?
そうですね、うん。インディーズって要は自主制作なんで、特に締め切りっていうものがないんですよ。できたら出すっていうのが基本。それが私には合ってたんでしょうね。でも、今回ひさびさにメジャーレーベルの日本コロムビアさんとお仕事させていただきましたけど、すごく自由にやらせていただけたので楽しかったですよ。ホントは6月くらいにリリースする予定が11月になっちゃったりもして(笑)。メジャーだから守んなきゃいけない期限があるんですけど、適当なものにしたくないっていう私の思いを汲んで時間を取ってくださったのですごくありがたかったです。ホントは守んなきゃいけないんですけどね、メジャーですから(笑)。
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収録曲
- アイラブユー
- fish
- 愛の才能
- gradation
- OCTOPUS THEATER
- ドーナッツのリング
- やきそばパン
- タイムマシーン
- ふとしたことです
- 1/2
- 川本真琴withゴロニャンず 1stアルバム「川本真琴withゴロニャンず」
- 「川本真琴withゴロニャンず」
- 2016年8月10日発売 / 2765円 / MY BEST! RECORDS / MYRD-100
- Amazon.co.jp
収録曲
- music pink
- summertimeblues
- ぱいなっぷるめろでぃ
- 私が思ってること知られたら死んじゃう
- エリエリ
- ハッカときみと太陽と
- フラッグ
- ごろにゃんずいっつぁすもーるわーるど
- プールサイド物語
川本真琴(カワモトマコト)
1974年生まれの女性シンガーソングライター。1996年5月に岡村靖幸が作曲・編曲・プロデュースを手掛けたシングル「愛の才能」でメジャーデビューし、いきなりスマッシュヒットを記録する。その後も「DNA」「1/2」「桜」などのシングルがチャート上位にランクイン。個性的な歌詞と独特の譜割り、ポップでキャッチーな楽曲で人気を博す。しかし、2000年代に入ると表立った活動が停滞。その後2006年に朝日美穂、もりばやしみほとの期間限定ユニット・ミホミホマコト名義でミニアルバム「ミホミホマコト」、タイガーフェイクファー名義によるシングル「山羊王のテーマ」をリリースし、本格的に音楽活動を再開させる。2010年2月には前作から9年ぶりとなるソロ3rdアルバム「音楽の世界へようこそ」をリリースし、音楽ファンの話題を集めた。2014年には植野隆司(テニスコーツ)、澤部渡(スカート)らと新バンド・川本真琴withゴロニャンずを結成。2016年8月に1stアルバム「川本真琴withゴロニャンず」をリリースした。同年、メジャーデビュー20周年を記念してセルフカバーアルバム「ふとしたことです」を発表する。現在は、神聖かまってちゃんとのコラボや、竹達彩奈、ぱいぱいでか美らへの楽曲提供なども精力的に行っている。