音楽ナタリー Power Push - 川田まみ

I've中沢伴行と語る「彼女のブッ飛び方」

避けては通れない、「前の曲と似る」問題

──作詞にしろ作曲にしろ、今回のように原作ありきの楽曲を継続して手がけられる場合、やっぱり「前の曲と似る」問題は大きいですか?

中沢 毎回悩みますね。先ほども話したように、原作のイメージという枠組みの中で、次はどのようなアプローチを選択するのが正解なのか。

川田 そうは言っても、やっぱりある作品に継続して関われるというのは、とてもありがたいことですよね。「灼眼のシャナ」にしても「とある魔術の禁書目録」にしても、必ず「前作の曲」っていうのが枷になったり壁になったりするんですけど。

中沢 でも、やりたいんだよね。すごい苦悩するのはわかってるのに。

──そりゃそうですよね。「シャナ」にしろ「禁書」にしろ、続編が制作されるとなったとき、別のアーティストが主題歌を作ることになったらって考えると……。

中沢 ほかの人には任せたくないし、絶対に自分が一番いい曲を作れるって思ってるんですけど、そのやる気とか自信と同じサイズの苦悩が必ず襲ってくるんですよね。でも、2作目、3作目じゃないと出てこないアイデアってあるんですよ。ネタ切れを起こした末に、自分が切ってきた手札を改めて眺めてみて、ふと新しいアプローチを思い付くみたいな。それが、また次の作品に生かせたり。

川田 例えば、言葉というのも、実際に口に出すことでまとまっていったりするじゃないですか。だから曲も、リリースという形で自分たちの外側に出して、客観視することで、次の一手が見えてくるっていうケースもありますね。

作曲してみたら、意外と「女子」だった

──川田さんはカップリング曲「Halfway」では作曲もなさっていますが、作曲は、ひょっとして初めてですか?

川田 実は、4thアルバム「SQUARE THE CIRCLE」に収録された「F」という曲は、作曲・編曲クレジットは「中崎舞」になってるんですけど、これはI'veのクリエイターの“中”沢伴行、尾“崎”武士、井内“舞”子の名前をつなげたもので、メインで作曲しているのは私なんですよ。I'veって、たまに「高中崎伴武矢」みたいな、わけのわからない名前(“高”瀬一“矢”、“中”沢“伴”行、尾“崎”“武”士のユニット)をクレジットすることがあって、「中崎舞」もそのノリですね。だから、「川田まみ」として作曲にクレジットされるのは今回が初めてになります。

──ということはつまり、作曲自体は以前からやられていた?

川田 はい。数は少ないんですけど、どうやってオリジナリティを出すかっていうチャレンジの一環として、5~6年前から。ただ、この「Halfway」もそうなんですけど、私の書く曲って、わりとまったりした曲が多いので、世に出すタイミングをつかみあぐねていたところもあって。

中沢 センチメンタルで、かわいいメロディを書くんだよね。

川田 意外と「女子」だったっていうね。あと、ちょっと暗い(笑)。でも、そういうことに気付かされたという点でも、オリジナル曲を書く意味がわかった気がしていて。

中沢 これは私見だけど、作曲って、案外嘘がつけないんですよね。どうしてもその人本来の色が出てしまうというか、川田まみって、世間的にはバキバキしたイメージがありますけど、本人が作る曲はもっと優しかったり、柔らかかったり。

川田 ちょっとそれ営業妨害になるんでやめてもらえます?(笑) 私、優しくないっす。冷たいっす。

Halfway=途中であることに未来を感じる

──今、川田さんが冗談めかして「営業妨害」とおっしゃったように、素の川田さんを表に出すことで「バキバキした」川田まみ像がぼやけてしまうかもしれない。だから、「Halfway」はいわば温存していたということですよね?

中沢 そうですね。これまでは、曲の良し悪しの問題でまみちゃんが作った曲を出さなかったわけではなくて、まずはハードでクールな川田まみという方向性を確立する必要があった。でも、「Contrail~軌跡~」の話とまんまかぶりますけど、「PARABLEPSIA」でその方向性を極めたことで少し肩の力が抜けて、それこそMVでも笑えるようになった今だったら、この曲も生きてくるっていう、直感めいたものがあったんですよね。

──「戦略的」と言ったら、いやらしいかもしれませんが。

中沢 でも、ある種の戦略ですよ。まみちゃんとは10年間一緒に音楽を作ってきてますけど、やっぱりリリースのタイミングって重要だと思うんですよね。それによってアーティストの個性や楽曲の持ち味を生かすことも殺すこともできてしまうから。

──カップリングとしても、疾走感のある「Contrail~軌跡~」と、しっとりした「Halfway」というのは、相性がいいですね。

川田 この「Halfway」は、曲も詞も3~4年前に書いていて、ライブでも披露してるんですよ。だから熱心なファンの方は「あの『Halfway』って曲はいつ出るの?」と言ってくださって。それは非常にありがたいなと思う反面、そうは言ってもずいぶん眠らせてきた曲だったので、今回レコーディングするにあたって、まず歌詞を書き直すべきか悩んだんですよ。

──曲ができた当時と今とでは、考え方が変わっていたから?

川田 「Halfway」って、文字通り「途中」という意味ですけど、3~4年前に作詞したときは、自分が成長の途中にある、未熟であるということに悩んでいたんです。でも今は、途中という状態にこそ、未来を感じるんですよね。完成してしまったら終わりじゃないですか。だから、今より未熟な自分が書いたこの歌詞すらも輝かしく見えて、そのまま残すことにしたんです。この曲を聴いてくれた人の中には、ひょっとしたら当時の私のように悩んでいる人もいるかもしれないから、そこに寄り添えたらいいなとも思ってます。ファンの方々に、私はどんなメッセージを残せるのか。そのことを、最近はすごくよく考えるんですよね。

ニューシングル「Contrail~軌跡~」2016年1月27日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCV-0037
通常盤[CD] 1296円 / GNCV-0038
CD収録曲
  1. Contrail~軌跡~
    [作詞:川田まみ / 作曲:中沢伴行 / 編曲:中沢伴行、尾崎武士 / ストリングスアレンジ:emyu:]
  2. Halfway
    [作詞:川田まみ / 作曲:中沢伴行 / 編曲:中沢伴行、尾崎武士]
  3. Contrail~軌跡~(Instrumental)
  4. Halfway(Instrumental)
初回限定盤DVD
  • 「Contrail~軌跡~」PV
ライブ情報
MAMI KAWADA FINAL F∀N FESTIVAL "F"

2016年5月21日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
<出演者>
川田まみ / KOTOKO / fripSide / 黒崎真音

ファンクラブ先行予約:2016年2月6日12:00~2月9日23:59
一般発売:2016年3月26日10:00

川田まみ(カワダマミ)

2月13日生まれ、北海道出身の女性シンガー。2001年に島みやえい子の推薦でI'veのオーディションに参加し合格。同年11月に発表された「風と君を抱いて」で歌手デビューを果たす。そして2004年6月にリリースされた「I've Girls Compilation 6『COLLECTIVE』」収録曲「IMMORAL」「eclipse」において、独特の繊細なビブラート、透き通るように伸びやか、かつ力強い歌声で幅広い層からの支持を獲得。2005年2月にテレビアニメ「スターシップ・オペレーターズ」の主題歌に採用されたシングル「radiance / 地に還る~on the Earth~」でソロデビューした。以降、さまざまなアニメのテーマソングを手掛け、2012年8月に通算4枚目のアルバム「SQUARE THE CIRCLE」をリリース。また2013年2月には初のベストアルバム「MAMI KAWADA BEST BIRTH」とニューシングル「FIXED STAR」を立て続けに発表した。その後も精力的に音源制作、ライブ活動を続け、2015年9月には3年ぶり5枚目のオリジナルフルアルバム「PARABLEPSIA」を発表。2016年1月にはアニメ「蒼の彼方のフォーリズム」のオープニングテーマを含むシングル「Contrail~軌跡~」をリリースする。なお川田は2016年中に歌手業を引退。5月21日に東京・TOKYO DOME CITY HALLでKOTOKO、fripSide、黒崎真音をゲストに迎えたファイナルライブ「MAMI KAWADA FINAL F∀N FESTIVAL "F"」を実施する。