音楽ナタリー Power Push - 川田まみ
I've中沢伴行と語る「彼女のブッ飛び方」
中沢伴行の「飛んでるだろ」に対する信頼感
──お話を伺う限り、全体として「飛んでない」とか「スコーン」とか、抽象的な言葉の応酬で不安になってしまうのですが(笑)、それで意思疎通できてしまうのもI'veの強みなのかなと。
川田 今回に限らず、これがいつものI'veのやり方なんですけど、例えばメールでデモをもらって電話でやりとりするとかではなくて、いつでもみんなで集まれて、その場で面と向かって意見し合える環境で曲作りができるので。顔を付き合わせているから抽象的な言葉でのニュアンスが伝わるんだろうし、そうやって作ることが私たちにとってはすごく重要でしょうね。
中沢 面と向き合っているがこそ、ときに険悪になったりもするけどね(笑)。
──「はあ? ちゃんと飛んでんだろ!」みたいな?
中沢 そうそう(笑)。でもまあ、まみちゃんに「飛んでない」って言われるときは、だいたい自分でもどこかに引っかかりを感じていたというか、「やっぱり?」みたいに折れることが多かったですね。でも、本当に飛べてるときは、突っぱねることもあります。
川田 そういうときの中沢さんは、動かざること山の如しですよ。私が何を言おうと「いや、これで大丈夫だから」って、まったく譲らない。逆に言うと、それは中沢さんの中でアレンジから何から全部見えてるってことだから、こっちも安心できる。中沢さんにはこの10年間、私のプロデュースをずっとやってきてもらっているので、そこは信頼しています。
I'veサウンドにもバリエーションが出てきた
──「Contrail~軌跡~」ではストリングスも効果的に使われていますよね。もともとI'veサウンドというと、ストリングス使いがうまいっていうイメージがあるんですけど、川田さんの楽曲では珍しいですよね?
中沢 僕の作曲じゃないけど、「See visionS」(「とある魔術の禁書目録II」後期オープニングテーマ。2011年2月リリース)にはストリングスが入ってますね。
川田 井内(舞子)さんの作曲ですね。でも、言われてみればそれくらいかも。
中沢 僕はあまりストリングは使わないので、今回はわりとチャレンジした感じですね。しかも、生演奏ですから。やっぱり作品の世界観を表現するのに、生のニュアンスが欲しいなと。
──透明感や浮遊感が出そうですよね。
中沢 そうそう。
川田 生演奏自体がけっこう珍しいですよね。やっぱりI'veサウンドは打ち込み主体というか、最近はギターとかは生音ですけど、10年前に私が入った頃は、まだ生じゃなかったですし。
中沢 当時のI'veには、いかに自分たちだけで完結するか、みたいなテーマもあったから。
川田 それが、徐々にアニメの楽曲のお話とかもいただくようになって、I'veサウンドにもバリエーションが出てきて。
中沢 僕に限って言えば、いろんなアーティストさんと一緒に仕事をするうちに、手札が増えてきた感じがありますね。つまり、アーティストさんそれぞれに独自のカラーがあるので、それが生きるアプローチの仕方を考える。そうすると、アーティストさんにもまた別のカラーが出てくるので、今度はそれに対して新たなアプローチを考える、みたいな。だから当初よりは、アーティストさんのイメージを大切に考えるようになったのかな(笑)。
──せっかくのいい話だったのに、なんで最後笑っちゃったんですか(笑)。
中沢 いや、たぶんまみちゃんは「そこまで考えてねえだろ!」って思ってるだろうな、って(笑)。
川田 そんなことないですよ! そういうふうに考えてプロデュースしてくださるから、I'veサウンドには昔から固定したカラーがあるようで、その中でいろいろと動きが出てるのかなって気がします。
ボキャブラリーに乏しい女と思われたくない
──「Contrail~軌跡~」の作詞については、何か苦労した点などはありますか?
川田 例えばアニメのキービジュアルにある「空」というテーマに合致する言葉って、「雲」、「青」、「海」、「鳥」とか、どうしても偏ってしまうんですよね。「Contrail~軌跡~」は、PCゲーム版から数えて5作目の「あおかな」楽曲になるんですけど、限られた語彙でどうやって詞を組み上げていくかっていうのは、毎回頭を悩ますところではあります。ただ、なんといっても、私たちにとっては5作目でも、アニメからこの作品に入ってくる人にとっては最初の曲になるわけじゃないですか。
──テレビで放送される以上、「あおかな」を知る人の数はゲーム時代よりも飛躍的に増えるでしょうね。
川田 なので結局は、初めて原作の主題歌を書くような、まっさらな気持ちで臨みました。とはいえ1点だけ、まさに「コントレイル」という言葉がすごく引っかかっていたんですよ。というのも、私はPCゲーム版のイメージソングでも「コントレイル」って単語をサビに使っちゃってるんです。だから「こいつ、コントレイルばっかだな」とか「コントレイル大好きかよ」とか思われたらどうしようって(笑)。
──いや、むしろ原作ファンはうれしいんじゃないですか? ちゃんとゲームとリンクしてる感じで。
川田 これは絶対に欠かせないキーワードなんだけど、でもボキャブラリーに乏しい女だと思われたくない……みたいなことまで考えちゃって、中沢さんにも相談しましたもんね。「この曲のここにも『コントレイル』って入ってるんですけど、どう思います?」って。
中沢 自分のことはなかなか客観的に見られないからね。僕からしたら、何をそんなに気にしてるんだろうっていう感じだから、「いいじゃん、入れれば。っていうか入れるべきでしょ」って軽く返して終わっちゃうんですけど。まあ、そのへんはお互い様だよね。
川田 中沢さんもデモを上げてきたとき、「前に作曲した曲と似てない?」って聞いてくることがたまにあるんですよ。でも私としては「えっ、どこがですか?」みたいな。
──誰しも自分だけしかわからない引っかかりがあるんですね。
川田 まあでも、「コントレイル」だけは最後の最後まで違う言葉に置き換えようか迷ったんですけど、それ以外の部分はあんまりこねくり回さず、わりとすんなり書けましたね。何より、このスコーンと飛んでいくイメージを壊したくなかったので、誰もが素直に前を向ける内容になっていると思います。
次のページ » 避けては通れない、「前の曲と似る」問題
- ニューシングル「Contrail~軌跡~」2016年1月27日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCV-0037
- 通常盤[CD] 1296円 / GNCV-0038
CD収録曲
- Contrail~軌跡~
[作詞:川田まみ / 作曲:中沢伴行 / 編曲:中沢伴行、尾崎武士 / ストリングスアレンジ:emyu:] - Halfway
[作詞:川田まみ / 作曲:中沢伴行 / 編曲:中沢伴行、尾崎武士] - Contrail~軌跡~(Instrumental)
- Halfway(Instrumental)
初回限定盤DVD
- 「Contrail~軌跡~」PV
ライブ情報
MAMI KAWADA FINAL F∀N FESTIVAL "F"
2016年5月21日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
<出演者>
川田まみ / KOTOKO / fripSide / 黒崎真音
ファンクラブ先行予約:2016年2月6日12:00~2月9日23:59
一般発売:2016年3月26日10:00
川田まみ(カワダマミ)
2月13日生まれ、北海道出身の女性シンガー。2001年に島みやえい子の推薦でI'veのオーディションに参加し合格。同年11月に発表された「風と君を抱いて」で歌手デビューを果たす。そして2004年6月にリリースされた「I've Girls Compilation 6『COLLECTIVE』」収録曲「IMMORAL」「eclipse」において、独特の繊細なビブラート、透き通るように伸びやか、かつ力強い歌声で幅広い層からの支持を獲得。2005年2月にテレビアニメ「スターシップ・オペレーターズ」の主題歌に採用されたシングル「radiance / 地に還る~on the Earth~」でソロデビューした。以降、さまざまなアニメのテーマソングを手掛け、2012年8月に通算4枚目のアルバム「SQUARE THE CIRCLE」をリリース。また2013年2月には初のベストアルバム「MAMI KAWADA BEST BIRTH」とニューシングル「FIXED STAR」を立て続けに発表した。その後も精力的に音源制作、ライブ活動を続け、2015年9月には3年ぶり5枚目のオリジナルフルアルバム「PARABLEPSIA」を発表。2016年1月にはアニメ「蒼の彼方のフォーリズム」のオープニングテーマを含むシングル「Contrail~軌跡~」をリリースする。なお川田は2016年中に歌手業を引退。5月21日に東京・TOKYO DOME CITY HALLでKOTOKO、fripSide、黒崎真音をゲストに迎えたファイナルライブ「MAMI KAWADA FINAL F∀N FESTIVAL "F"」を実施する。