音楽ナタリー Power Push - 川田まみ

キャリア10年で魅せた新たな真髄「E.M.R」の正体

「錯視」の本をひたすら眺め続ける

──アルバムタイトルは、最初から「PARABLEPSIA」に決めていたんですか? それとも「parablepsia」という曲ができてから、これをタイトルトラックにする形で決まったんですか?

個々の楽曲ができる前から「PARABLEPSIA」にしようと決めてました。最初の会議で「E.M.R」という方向性が定まって、2回目の会議で私がさっきの「錯視」の話を持ち出してアルバムタイトルとしてどうかと提案したら、みんな気に入ってくれまして。でも錯視って、一般的な英語だと「optical illusion」っていうんですけど「イリュージョン」だと急に手品とかしそうじゃないですか。

──イリュージョン=引田天功みたいなイメージってありますもんね(笑)。

だから「PARABLEPSIA」というマニアックな医学用語に(笑)。ちょっと暗号っぽくもあり、謎めいてる感じもあっていいんじゃないかと。そこから一連の作曲作業が始まっています。

──素人目には、先に大枠を決めてから作詞するのは大変そうだなって思うのですが。思いつくままに詞を書いていってからその共通点を見付けてアルバムコンセプトやテーマを決めるほうが楽じゃないかと。

まあそうなんですけど、今回は初めから「E.M.R」というやりたいことが1つ明確にあったので、もうそこに合わせていく。タイトル曲以外にも、ちょっと錯視をにおわせるテイストを絡めていこうとか、そういうふうに進めていったんですよ。今までは先に曲を仕上げて、その中からタイトルを決めるやり方だったんですけど。

──逆に「錯視」というテーマにとらわれすぎてアイデアがでない、みたいなことはなかったんですか?

あ、とらわれはしましたね。作詞の最中、もうひたすらに錯視の本を、あのぐるぐる回る模様がいっぱい載ってる本を眺めて。

──それ、どう考えても余計に混乱しそうなんですけど……。

うん。今日はいつもよりよく回って見えるわ……みたいな(笑)。見れば見るほどぐるぐるして「あれ、私は何を書こうとしてたんだっけ?」ってなることはありましたね。だからタイトルトラックの「parablepsia」も、詞を書くのに時間がかかってたんです。時間がかかったのにはサビのメロディが途中で変わったりした影響もあるんですけど、本を眺めながら「この世界はいったいどうなっているんだ?」って、自ら錯視の渦に巻き込まれにいってしまっていた期間はありました。でも、特定のテーマに沿って自分の感情を整理しながら1曲1曲作詞することでいつも以上に自分の感情を明確に言葉にできた気がしますし、むしろアルバムタイトル先行でよかったなとは思ってます。

今作の楽曲は、ライブで再現不可能!?

──10月からは全国6カ所7公演のツアーが始まりますね。

そうなんですよ! ツアーが決まったときは「まだ先かなー」って思っていたんですけど、もう来月なんですよね。

──このアルバムは思いきりハードなエレクトロチューンに振っていますけど、ここに過去の楽曲をどう絡めていくのか、非常に気になります。

基本的には「PARABLEPSIA」の世界観は守りつつ、その世界観を崩さない程度にバリエーションのあるステージにしたいと思っています。今回のアルバムの曲って、全曲ライブ向きのようでいて、実はまったくライブ向きじゃない気がするんですよね。だからライブでは、アルバムと共通の世界観を持った別物という感じで収録曲を披露していければいいなと。このアルバムのクールさやハードさみたいなものを感じてもらえるように、見せ方や聴かせ方を工夫していくつもりではありますけど、さすがにアルバムそのままの雰囲気を出すというのはなかなか……。自宅で聴き込むとか、クラブでかけたりするのにはいいのかもしれませんけど、生演奏を交えてやるとなると、かなり大変な曲が多いですよ。

──確かに、ハードなダンスチューンばかりだからクラブユースには当然耐えますよね。あと、ホームリスニングも、例えば日曜日の昼下がりに聴くような音じゃないのかもしれないですけど、1人でヘッドフォンして聴いてもハマる。でもおっしゃる通り、これを歌い手とバンドがいるステージで、どうやって再現するんだろう?

そのへんはね、うまく考えながらやっていきたいんですよね。かなり難しいことにチャレンジする形にはなると思うんですけど、とにかくライブですから、皆さんが本気で楽しんでもらえるようにがんばります!

ニューアルバム「PARABLEPSIA」 / 2015年9月16日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
[CD] 3240円 / GNCV-1038
収録曲
  1. parablepsia
  2. Borderland
  3. I...civilization
  4. fly blind
  5. Eager Eyes
  6. PIST
  7. Enchantress
  8. here.
  9. HOWL
  10. Replica_nt
  11. It's no big deal
  12. Break a spell
  13. Dendritic Quartz
川田まみ(カワダマミ)

2月13日生まれ、北海道出身の女性シンガー。2001年に島みやえい子の推薦でI'veのオーディションに参加し合格。同年11月に発表された「風と君を抱いて」で歌手デビューを果たす。2004年6月にリリースされた「I've Girls Compilation 6『COLLECTIVE』」収録曲「IMMORAL」「eclipse」で高評価を受け、2005年2月にテレビアニメ「スターシップ・オペレーターズ」の主題歌に採用されたシングル「radiance / 地に還る~on the Earth~」でソロデビューした。以降、さまざまなアニメのテーマソングを手掛け、独特の繊細なビブラート、透き通るように伸びやか、かつ力強い歌声で幅広い層からの支持を獲得。2012年8月に通算4枚目のアルバム「SQUARE THE CIRCLE」をリリースし、2013年2月には初のベストアルバム「MAMI KAWADA BEST BIRTH」、ニューシングル「FIXED STAR」を立て続けに発表した。2014年にはアニメ「東京レイヴンズ」後期エンディングテーマ「Break a spell」を、2015年にはアニメ「To LOVEる -とらぶる- ダークネス2nd」のエンディングテーマ「Gardens」を発表。そして9月16日には3年ぶり5枚目のオリジナルフルアルバム「PARABLEPSIA」をリリースする。