ナタリー PowerPush - 川田まみ
もうひとりの自分との出会いが生んだ転換期に迫る
アニメ「灼眼のシャナII」のオープニングテーマ「JOINT」や、「とある魔術の禁書目録II」のオープニング曲「No buts!」などで知られる川田まみが、4thアルバム「SQUARE THE CIRCLE」を8月8日にリリースする。自ら制作の中核を担った今作は、デジロック系のアニソンシンガーというパブリックイメージを踏襲しつつも、詞曲ともに新たな地平を目指した野心的な1枚となっている。
ボーカリストとしてのキャリアをスタートさせて10年、メジャーデビューから7年。常に順風満帆な活動を展開し続けてきた彼女が大きな転進を図ったその理由には、もうひとりの私「川田まみさん」との出会いがあったという。「川田まみさん」とは? そしてその出会いの末に生み出された新しい川田サウンドとは? 彼女自身の言葉から、その実態に迫った。
取材・文 / 成松哲 インタビュー撮影 / 佐藤類
札幌中心で活動してたときはずっと会社に守られていた
──1st「SEED」から3rd「LINKAGE」までは、2006年3月、2008年3月、2010年3月と丸2年おきにアルバムをリリースしていましたが、今作「SQUARE THE CIRCLE」の発売は、前作から2年5カ月後の2012年8月。少し期間が空いたのはなぜですか?
単にスケジュールが押しただけなんですよ、これが(笑)。私の所属している音楽制作プロダクションのI'veってそもそも少人数の上に、ちょっと変革期に入っていたもので。
──変革期?
I'veは札幌を拠点に活動していて、これまでは「札幌でやっている」ということにこだわりがあったんですね。ただ、それだけにちょっと閉鎖的になってしまう部分もあって、ここ2年くらいは「新しいステージを目指そう」というムードになっていた。そこで、ほかのアーティストさんとライブをしたり、東京での活動を少し増やしてみたり、いろんな方と関わることで、何かまた新しいきっかけや変化を生みだそうとしていたんです。
──実際、川田さん個人のバイオグラフィを見てみても、2010年以降「電撃GENEONミュージックフェス」「リスアニ!LIVE」「DK ANIME COMPLEXFES」と、I've以外のアニソンアーティストや声優さんと共演するイベントにも積極的に出ていますよね。
ええ。なので、私にとってもすごく大きな変化のあった2年間ではありました。
──具体的にはどう変わりました?
札幌を中心に活動していたときは、ずっと守られていたんですよね。まず会社が守ってくれていて、しかも、KOTOKOさんや島みやえい子さん(ともに2011年にI'veから移籍・卒業)のような先輩もいらっしゃったので、皆さんの後ろをついていけばよかった。そして、たまに先輩方の肩越しに「いえーい!」って感じでヒョイっと顔を出していればよかった(笑)。私の気持ちとしては常に1年生。のほほんと活動していたんです。でも実際は、事務所にもレーベルにもかわいい後輩たちがたくさんできていて、その後輩やファンの方々にしてみれば、私はもうデビュー7~8年目の中堅シンガー「川田まみさん」なんですよ。イベントに出演したり、東京で活動したりすることで、周囲に「川田まみさん」として見られていることや、実はその「川田まみさん」像は自分自身が一番望んでいる姿であることが自覚できました。
「川田まみさん」という存在から目をそらしたくない
──川田さんの言う「川田まみさん」ってどんな人物なんですか?
自分で言うとちょっと恥ずかしいんですけど、I'veを引っ張っていくお姉さん的存在みたいな(笑)。アーティスト写真、それから楽曲もそうだと思うんですけど、どちらもクールでツンとしたイメージだから、そう見られてるんでしょうね。で、私自身もそういう人を目指していたつもりなんですけど、札幌でやっている頃は全く追いつけていなかったし、追いつけないことへの葛藤に気付かないふりをしたり、ごまかしたりしていたんです。会社や先輩に守られていたので、それでもやっていけましたから。でも、東京でも多くのお仕事をやらせていただくようになって、いろんな人たちと切磋琢磨する機会が増えた今は、私の武器でもある「川田まみさん」という存在から目をそらしたくない、立ち向かってみたいという気持ちになって。この2年間の経験や環境の変化のおかげで、私自身と「川田まみさん」のギャップを埋め合わせるきっかけが見つかった感じなんですよ。
──ただ、新譜「SQUARE THE CIRCLE」を聴かせていただくと、ギャップを埋め合わせるどころか、川田さん自身が「川田まみさん」のさらに一歩先へと進んだ感があります。
ホントですか!?
──「Going back to square one」のような既発のシングル曲を思わせる楽曲もあれば、オトナなクラブでスピンされそうなダンスチューン「Don't stop me now!」、ちょっとストレンジなんだけどいかにも夏っぽい「Clap! Clap! Clap!」、ダウンテンポのブレイクビーツを取り入れたインスト曲「Usual...」、キラキラな青春ポップの「らせん階段」も収録されている。みんなが知っている、硬質なデジロックを歌う「川田まみさん」像をいい意味で裏切る1枚になってますよね。
そういうふうに聴いていただけるとうれしいです。この2年間で川田まみとして新しい一歩を踏み出せたことだし、4枚目のアルバムは、その次の一歩を踏み出すための1枚にしたいっていう意識がすごくありましたから。これまでの3枚は、このアルバムのプロデューサーでもある中沢伴行さんがコンセプトからタイトルまで全部決めてくれていたんですけど、今回は裏方に徹してもらって、どんな作品にしたいのか、どんな楽曲が欲しいのかといった話は私からさせてもらったんです。そうやって川田まみとしてより強く意思表示することで「川田まみさん」らしくもあり、私自身の姿もきちんと投影されている、本当の意味で私らしい作品に仕上げたかったんです。
ニューアルバム「SQUARE THE CIRCLE」/ 2012年8月8日発売 / ジェネオン・ユニバーサル
CD収録曲
- SQUARE THE CIRCLE
- No buts!(TVアニメ「とある魔術の禁書目録Ⅱ」オープニングテーマ)
- my buddy
- Don't stop me now!
- Clap!Clap!Clap!
- Usual…
- See visonS(TVアニメ「とある魔術の禁書目録Ⅱ」新オープニングテーマ)
- live a lie
- Midnight trip // memories of childhood
- らせん階段
- F
- Going back to square one
- Serment(TVアニメ「灼眼のシャナⅢ-Final-」2ndオープニングテーマ)
川田まみ(かわだまみ)
2月13日生まれ、北海道出身の女性シンガー。学生時代から歌手を志し、2001年に島みやえい子の推薦でI'veのオーディションに参加し合格。同年11月に発表された「風と君を抱いて」で歌手デビューを果たす。2004年6月にリリースされた「I've Girls Compilation 6『COLLECTIVE』」収録曲「IMMORAL」「eclipse」で高評価を受け、2005年2月に中沢伴行プロデュースによるシングル「radiance / 地に還る~on the Earth~」でソロデビュした。以降、さまざまなアニメのテーマソングを手掛け、独特の繊細なビブラート、透き通るように伸びやか、かつ力強い歌声で幅広い層からの支持を獲得。2012年8月に通算4枚目のアルバム「SQUARE THE CIRCLE」をリリースする。