ナタリー PowerPush - 勝手にしやがれ

結成15周年ベストアルバム 武藤&飯島が語る軌跡

また俊美さんと何か作ってみたい

──その後に、多彩なアーティストとのコラボシングルを立て続けに3作リリースするというのがありました。

武藤 勝手にしやがれをいろんな人に知らしめたいから、1年ぐらいかけてコラボ3部作をやらないか?っていうアイデアをスタッフが出してくれて。幸いなことに俺はドラムボーカルだから、フロントに誰かボーカルを立てたときに、俺がドラマーに徹することもできる。それが勝手にしやがれの特徴でもあるから。じゃあ、誰がいいかって話したとき、まず同じニオイを感じるというのもあって(渡辺)俊美さんの名前が挙がって。

──それで第1弾が渡辺俊美さん(TOKYO No.1 SOUL SET、THE ZOOT16)との「バーフライズ・ストンプ / マスカレード」だったんですね。

インタビュー写真

武藤 勝手にしやがれで持ちかけた話だから、こちらでいろいろ準備したところにちょっと乗っかってもらうような感じでいいですよ?って感じで、まず「マスカレード」っていう曲を用意して。そこにギターと歌を入れてもらう予定だったんだけど、俊美さんのほうから「どうせやるんだったら、僕も曲書いていい?」って言ってくれて。打ち込みで簡単なデモの「バーフライズ・ストンプ」っていう曲を作ってくれて、それを元にしてバンドがアレンジして「歌詞は武藤ちゃんよろしくね!」って。俊美さんと俺が歌って様になるような情景ってなんだろう? やっぱ酒かなあって(笑)。

──勝手にしやがれの持ってる裏街感と、俊美さんの持ってる雰囲気って相通じるものがありますもんね。

武藤 俊美さんはやっぱり、リスペクトする人がほとんど一緒なのね。ジョー・ストラマーが大好きでどっぷりハマってるし、そういうのに影響を受けたミクスチャーのバンドが好きだし、ジャズのセンスにしても同じような感覚を持ってるし、マヌ・チャオやらマノ・ネグラも好きだし……っていう感じで、話がすごく合うんで。そういえば今回、俊美さんが15周年記念のコメントで「勝手にしやがれをバックにツアーをまわりたい」って書いてあった(笑)。あれ読んで、また俊美さんと何か作ってみたいなって思って。ちょっとした作品を作ってツアーに回るっていうのは本当にやりたい!

素人がカラオケでは歌えないデュエットソング

──次にリリースされたのが、EGO-WRAPPIN'とのコラボ「ヴェルモット・フラワーズ」。

武藤 EGO-WRAPPIN'もやっぱりセンスが似たところがすごくあるから。完成型がお互いに見える感じだったから、作り込むというより楽しめればいいやって感じで。コンセプトは、絶対に素人がカラオケでは歌えないデュエットソング(笑)。「3年目の浮気」とか「ふたりの愛ランド」みたいなデュエットなんだけど、絶対に誰も歌えないっていう難しいものを作って。トム・ウェイツとベッド・ミドラーの「I Never Talk to Strangers」をイメージしつつ、それをまったりバラードにしたらクドいから、途中から軽快にしてスウィングしてみようって、ヨッちゃん(中納良恵)じゃないと歌えないだろうなって想像しながら作った。

──それまでって、勝手にしやがれのバンドサウンドに女性のボーカルが乗っかることはあったんですか?

武藤 大昔にあったね。勝手にしやがれのメンバーが定まってない頃、俺がメインボーカルというのも決まってない頃にいろいろチャレンジした時期があって、シャンソンが得意な女の子がいたんでフランソワーズ・アルディのカバーやったりしたね。そういう時期もあったから、女性ボーカルが入ることについては、全く違和感がなかったね。

オダギリくんは歌う役を演じた

──驚きだったのが、オダギリジョーさんとのコラボ「チェリー・ザ・ダストマン」でした。

武藤 オダギリくん自体、音楽の仕事っていうのが初めてだったから、曲を作る前からがっぷり四つで一緒に酒を飲んで話し合って。彼の中でのいろんな葛藤や、レコード会社の要望もあったりして、俺が板挟みに合いながらね(笑)。どういうスタイルならばみんなが納得するだろうって考えたときに、役者オダギリジョーが歌を歌うんじゃなくて、歌う役を演じるっていう発想でできないか?って思いついたんよね。ストーリーテラーとしてこんなお話があって、それをボーカリスト役として歌ってみせる。で、トム・ウェイツがお互いに好きだっていうのは意見が一致してたから、トム・ウェイツが拡声器を持って、音楽に乗せてひとつの物語を伝えている役をやってくれないか?っていうね。だから、音を録ってそれをただ出すだけじゃなくて、ビデオクリップまで含めた表現として考えようと。監督選びから細かいところまでオダギリくんと一緒に考えて、それを踏まえたレコーディングをしたんです。

──勝手にしやがれが元々持ってる音楽って、シアトリカルな部分もあるから、だからこそオダギリジョーさんとのコラボも成り立ったのかもしれないですね。

武藤 この曲はリアルな実体験から話は始まってるんだけど、それが不思議に映って見える光景だったり。普通のドラマだけどありえねえってものを観るんだったら、最初からおとぎ話を聞いてたほうが、俺は好きだったりするから。そういった俺の世界観が勝手にしやがれの世界観につながってたりするから。例えばグリム童話だったら、架空の話で内実はドギツいものだったりするじゃないですか? そういったものって、逆に架空なんだけど一番リアリティがあるというか、人の心理に訴求する何かがあるなっていう。俺はそういうやり方が好きだし。本当はエグい内容でも、ちょっとメルヘンだなって感じられる表現が、俺は素敵だなって思うから。オダギリくんとのコラボは、それがすごくハマった。イメージとしては「チム・チム・チェリー」(ミュージカル映画「メリー・ポピンズ」のサウンドトラックに収録)の子孫の話。おじいちゃんが煙突掃除屋さん(笑)。

ベストアルバム「シルバー&ゴールド~ ゴールド 2004-2010」

  • [2CD] 2012年6月20日発売 3990円 EPICレコードジャパン ESCL-3921~3922 / Amazon.co.jpへ
収録曲
DISC1
  1. フィラメント
  2. 円軌道の外
  3. ブラック・マリヤ
  4. ヴァニタス
  5. 哀しみのクラウン
  6. U-K
  7. ブコウスキーの夢
  8. イズ・ユー・イズ・オア・イズ・ユー・エイント・マイ・ベイビー?
  9. ハウリング・ウインド(インスタント・セッション/武藤Vo.)
  10. オーヴェール・ブルー
  11. エル・ソル
  12. ロミオ
  13. 黒い瞳
  14. マ・ジョリー
  15. ラスト・ダンス
  16. ケーキーズのテーマ
  17. ラグタイム
  18. ゼン・サマー・ケイム
DISC2
  1. バーフライズ・ストンプ(+THE ZOOT16)
  2. ロミオ(+チバユウスケ)
  3. 撃沈魚雷
  4. 詩人の血
  5. U-K-2
  6. ヴェルモット・フラワーズ(+エゴ・ラッピン)
  7. グッドバイ・ポーク・パイ・ハット
  8. ブラック・エメラルド(未発表)
  9. ペイン(インスタント・セッション)
  10. チェリー・ザ・ダストマン(+オダギリ ジョー)
  11. ご・め・ん・だ・ぜ
  12. U-K-3
  13. ユード・ビ・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ(+中島美嘉)
  14. ドライ・ボーン・ブルーズ(インスタント・セッション)
  15. マスカレード(+THE ZOOT16)
  16. アーバン・カウボーイ(+オダギリ ジョー)
  17. スーパーヒーロー
  18. アシェズ・トゥ・アシェズ(未発表)
LIVE INFORMATION
勝手にしやがれpresents 7 o'clock jump ~15th 勝手誕生祭~
  • 2012年7月13日(金)東京都 代官山UNIT
    OPEN 18:00 / START 18:30
    <出演者>
    勝手にしやがれ
    ゲスト:SOIL & "PIMP" SESSIONS / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
勝手にしやがれ(かってにしやがれ)

武藤昭平(Dr, Vo)、田中和(Tp)、福島忍(Tb)、浦野正樹(B)、田浦健(T.Sax) 、飯島誓(B.Sax) 、斉藤淳一郎(Piano)によるジャズパンクバンド。1997年に結成し、2001年に1stアルバム「WILD ROOM」をリリースする。パンクやスウィングジャズなどの要素を含む独特な音楽性で注目を集め、2004年にはアルバム「フィンセント・ブルー」でメジャーデビューを果たす。2006年には、THE ZOOT 16、EGO-WRAPPIN'、オダギリジョーらとコラボレーションを展開し注目を集めた。結成15周年の2012年1月、約3年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「メロディ」とインディーズ時代のベストアルバム「シルバー&ゴールド ~シルバー 1997-2003」をリリース。6月にはメジャーレーベルでの楽曲を集めたベストアルバム「シルバー&ゴールド ~ゴールド 2004-2010」を発売した。