香取慎吾「Circus Funk」全曲解説インタビュー|3rdアルバムに込めた“笑顔の決意表明” (2/3)

君の曲が必要なんだ

──アルバムのオープニングを飾る「COLOR BARS(feat. SHOW-GO)」はSHOW-GOさんのヒューマンビートボックスと香取さんの歌のみによる挑戦的な曲だと思いましたが、これはどういうところから作っていったんでしょうか?

SHOW-GOはYouTubeで見つけて。すごくカッコいい人だなと思って聴いていくうちに曲のイメージが膨らみました。そこからスタッフを通じて連絡を取ってもらおうと思ったら、レーベルも事務所もどこにも属していないから、なかなか連絡がつかなくて。やっとリモートで会えて、彼の話を聞いて「こんなことをやりたいんだよ」と言ったんですけれど、そこからもなかなか難しくて。というのも、彼は音を切り貼りしてないんですよ。編集なし、3分だったら3分やり続けたものが僕の曲になると。そうなると、そこで僕が歌うにはどうすればいいんだって。ヒューマンビートボックスと一緒に歌うことは、そう簡単ではなかったですね。SHOW-GOとどうしたらいいかを何度も話し合い、結果この曲がアルバムの中で最後に完成した曲になりましたね。期日ギリギリでした。

──香取さんの中には、どんなイメージがあったんでしょうか?

僕のアルバムって、ステージのことを考えて作っているんです。アルバムを引っさげてライブをするじゃないですか。それにはこの1曲目が必要だったんですね。「Circus Funk」のステージはヒューマンビートボックスで始まるんだという。SHOW-GOにも「君の曲が必要なんだ」と熱い気持ちを伝えて作っていきました。

──では、2曲目の「SURVIVE(feat. LEO from ALI)」に関してはどうでしょうか。

LEOは僕のステージのダンサーの子が紹介してくれたんです。「ALIというバンドがいて、とても合うと思う」って。実際聴いてみて「間違いない、2曲目だ。SHOW-GOの曲のあとはALIだ」と思いました。コンタクトを取ったらけっこう早くにOKしてもらえて。歌詞は何度か会って話しましたけど、曲はスタジオで一緒に作りました。その感じも楽しかったですね。打ち込みで簡易的に作ったものをとりあえず聴いてくださいというスタイルが苦手なんです。彼は「バンドみんなでやってるんで」と言うし、僕も直接会いに行くのが好きで、そのほうが早いとも思っているので「行く行く」と言って、演奏してもらって。もうその場で「めちゃくちゃいい、これだ!」となりましたね。あと、これは曲をお願いする方全員に対してそうなんですが、「ほかにはこんなアーティストとやっていて、こういう曲を作っている」と、曲を実際に聴いてもらっているんです。「この曲があるから次のこの曲はこういう感じにしたいんだ」って。そういう作り方はなかなか珍しいみたいですね。

香取慎吾

自分の始まりを後押ししてくれた、とても大きな曲

──「愛の言霊(ことだま)~Spiritual Message~(feat. Night Tempo)」はサザンオールスターズのカバーですが、Night Tempoさんに声をかけて一緒にやった理由は?

まずNight Tempoと何かできたらなと考えていました。オリジナル曲を作るより、既存の曲を一緒に新たなものにしたいなと思っていたときに「愛の言霊(ことだま)~Spiritual Message~」が引っかかったんです。この曲は自分が初めて主役をやらせてもらった「透明人間」というドラマの主題歌なんですね。まだ20代で、ドラマの主役というのはやっぱり大きなことだから緊張感もあるし、プレッシャーもある中、「この曲が主題歌に決まったよ」と聞いたときの追い討ちのようなプレッシャーはとんでもなかった(笑)。だけど、同時に本当に忘れられない曲になった。自分の始まりを後押ししてくれた、とても大きな曲なんです。そんな思いを巡らせながらNight Tempoに声をかけてみたら、Night Tempoは「どうして僕とやりたいんですか」みたいなことを言うので、「僕はこういう思いがあるからあなたと一緒にこの曲をやりたいんだ」と伝えました。Night Tempoとも何度もやりとりしながら作っていきましたね。彼はDJで世界中を飛び回っているから、「話せないかな?」と連絡すると「今はブラジルにいる」といったこともあって。この偉大な曲をNight Tempoという新しい才能と一緒にカバーすることができて幸せですね。

──続く5曲目は「Full Moon(feat. 村田陽一)」。村田陽一さんは前作でもご一緒していた方ですよね。

はい。村田さんは前作でもご一緒しましたし、ステージでもバンマスとしていつもいてくれるんです。バンドメンバーもダンサーも、自分より若い世代がいっぱいいる中で安心感がありますし、ライブのアレンジもすべて任せられる存在ですね。アルバム全体はファンキーな感じなんだけど「Full Moon」はサーカス小屋のピエロがふらっと一人ぼっちになり、ミディアムテンポで明るめなジャズ風の曲を歌いながら歩いている、みたいな映像が浮かんだんですね。なので、そういう曲を作ってもらえないですか?という話を村田さんにしました。あと、英語の曲にしたいと思ったんです。英語だったら恥ずかしい感じもなく歌詞を書けるなと思って。「書きます」と言ったら、村田さんは「素晴らしい、ぜひ書いてください」と言ってくれました。

──この曲はアルバムの中での幕間のようなイメージがあります。

壮大な「Circus Funk」でバンドの鳴らす音がひしめき合って、ダンサーが踊りまくる。そんな中でポツンと1人ピエロが歌っていて、ポロッと涙して笑顔でいるような曲になったかなと思います。

“ファンは大事”という歌を作りたい

──6曲目の「UNERI KUNERI(feat. Kroi)」はどんな形で作った曲でしょうか?

Kroiの曲だけ、去年作っているんです。去年Kroiを知り、聴き込んで、絶対一緒に何かやりたいと思って話を進めていって。確か去年の「ベストヒット歌謡祭」に「BETTING」という曲で出させてもらったとき、楽屋に戻ってリモートで初めてKroiと会ったんです。

──アルバムの構想の前にできあがっていたということなんですね。

でもこの頃から、やっぱりファンクミュージックが気になってたんだと思います。Kroiはファンクなバンドなんですよね。それを知らずにカッコいいと思っていたところ、「僕ら、ファンクですよ」「そうなんだ」みたいな話をしたのを覚えています。その時点では(アルバムの)ほかの曲もないので、ずっと持っていた。“うねりくねり”してました(笑)。こうして「Circus Funk」というアルバムを作ったことで、「Full Moon」を披露したあとに、ライブで「よし、ここで立ち上がってください!」みたいな位置付けの曲になりましたね。

──「カツカレー(feat. 在日ファンク)」は先ほどおっしゃったように、アルバムの中で最も王道のファンクナンバーですが、在日ファンクに声をかけたのはなぜなんでしょう?

昔番組を一緒にやっていた、フジテレビのプロデューサーの黒木彰一さんという方が今年に亡くなったんですが、亡くなる1週間前ぐらいに病室で会えることになって。そのとき僕は「テラヤマキャバレー」という舞台をやっていたので、会場から病室に向かいました。黒木さんにあとどれだけ時間があるのかもわからない状況の中で「さあ、何を話そうか」と考えたとき「またアルバムを作ろうと思っていて、次はファンクをやろうと思う。あと報告しておくけど、これからもステージに立って歌い続けることを決めたから」と伝えたんですね。そうしたら「いや、めっちゃいいじゃないですか」と。黒木さんは音楽が好きですごく詳しい方だったので、もう長い間ずっと、いろんなことを教えてもらっていたんです。常にオススメのCDやレコードを教えてくれたりしていたから。で、「そんな感じのアルバムをやるんだったら誰とやったらいいかな」と言ったら、黒木さんが「いや、もう在日ファンクでしょ。間違いないですよ」って。だから「わかった」と言って、在日ファンクに声をかけさせてもらったんです。ハマケンさんにもこのことは全部言いました。

──そんな背景があったんですね。ハマケンさんとはどんなやりとりがありましたか?

曲を作り始めるときは、僕の中にある曲のイメージを、お願いする皆さんにそれこそ1時間とか2時間かけてお話させてもらっているんです。そこから第1稿のデモが来てやりとりが始まるんですね。僕、在日ファンクには“ファンは大事”という歌を作りたいと。在日ファンクの得意な感じで「ファンは大事」と繰り返す曲がやりたいと伝えたんです。人気が出て売れてくると自分のことのほうが大事になる。ファンよりも自分自分、いやでもファンは大事……みたいな曲にしたいって、そのときも熱く話して。ハマケンさんもノートを広げて真剣に聞いてくれていたんですね。なんですけど、上がった曲は「カツカレー」になってました。もう、衝撃的で(笑)。

──あはははは。そんなことが(笑)。

だって、ハマケンさんはノートを取っているんですよ? 一字一句、僕の言葉を聞き逃さない感じで。なのにこの「カツカレー」が来たのでびっくりして、とりあえず何度か聴き込んでみたけど……まだその時点では「これで行こう」とは言えなくて(笑)。「“ファンは大事”はどこに行きましたか?」と返したら、返事がすぐ来たんです。それは長文のメールで、「カツは香取さんで、カレーが在日ファンクで、白米がファンの皆さんだとしたら……」って、もうまるで宇宙みたいな文章が書いてあって。でも、それを受けてさらに聴き込んでみたらなんだかすごく好きになってしまい、「『カツカレー』で行きましょう」となりました(笑)。