香取慎吾が11月27日に3rdアルバム「Circus Funk」をリリースした。
「東京SNG」以来およそ2年7カ月ぶりのリリースとなる今回のオリジナルアルバムには、先行配信された「Circus Funk(feat. Chevon)」「TATTOO(feat. 中森明菜)」の2曲を含む全11曲を収録。それぞれの楽曲でSHOW-GO、LEO from ALI、Chevon、Night Tempo、村田陽一、Kroi、在日ファンク、中森明菜とSOIL&"PIMP"SESSIONS、乃紫、緑黄色社会、Yaffleという豪華なゲストを迎えている。
アルバムは香取自身が全体像をイメージし、それぞれの曲の共作相手にそのイメージを伝えて作り上げていったという。音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、香取の豊かなイマジネーションのもとに生まれた「Circus Funk」の世界観を織りなす全楽曲の制作エピソードを本人に聞いた。
取材・文 / 柴那典
「楽しかった! もう終わり!?」みたいな、笑顔しかないものを作ろう
──アルバム、全曲聴かせていただきました。
どうでしたか?
──ファンキーで華やかなアルバムという感じがしました。
ファンキー、感じましたか?
──感じました。かつエンタメ性もあり、スター性もあるなと思いました。
ああ、よかった。うれしいです。
──前作「東京SNG」(2022年4月リリース)はジャズがコンセプトのアルバムでしたが、今回はファンクをコンセプトに作っていったんでしょうか?
「Circus Funk」と言っても、僕はファンクをあまり知らなくて、言葉の響きから入っていったんです。僕は絵を描くんですけれど、絵のタイトルを決めるときのような感じで「サーカス」と「ファンク」を合わせてみたんですよ。だから、もともとファンクのアルバムにするつもりはなくて。音楽的な“ファンク要素”は在日ファンクさんに任せよう、と。ハマケン(浜野謙太 / 在日ファンク)さんにもそう言いました。そのほかの曲は“Circus Funk”というテンションだけを持って作っていった感じですね。だから、このアルバムからファンキーさを感じてくれたのがすごくうれしいです。
──「Circus Funk」という言葉がコンセプトの入り口だった、と。このコンセプトはどういうところから思い浮かんだんでしょうか?
自分がグループから1人になってステージに立とうとしたタイミングがコロナ禍の始まりだったんですね。いいスタートが切れたわけではなかったけど、徐々にライブでお客さんが声を出せるようになってきた。そこで次に何をしようか?というときに思い浮かんだのが「Circus Funk」というテーマだったんです。「胸が熱くなる」とか「涙腺が……」とか、そういうのを全部排除して、始まりから終わりまでとにかくみんなでワーワー騒ぎたいなと。「楽しかった! もう終わり!?」みたいな、笑顔しかないものを作ろうとしたのが始まりです。
──アルバムは全曲ゲストを迎えた共作のスタイルになっています。カバー曲を除いて作詞作曲のクレジットにも香取さんご自身の名前がありますが、こういった制作方法はどういう由来なんでしょうか?
今は「フィーチャリング」という言葉があるけど、それこそグループの頃もいろんな人に楽曲提供してもらって、その人たちと話し合いながら曲を作っていたんです。そのときは「feat.」という言葉が付いていなかったけれど、今は「feat.」という言葉が付いていて、一緒に歌ってもらったりもしている。その違いだけで、自分がやっていることは変わらないんです。僕はピアノもギターも弾けないし、楽譜も読めない。でも、誰かに「こんな曲を作りたい」と伝えて作ることは、ずっとやってきたことなので。
──コラボ相手の選び方についても教えてください。これから世に出ていくようなバンドやシンガーソングライターに声をかけて一緒に曲を作っている、その目利き力がすごいと思うのですが、そのあたりのアンテナの張り方についてはどうでしょうか?
自分が聴いて本当にカッコいいなと思った人たちに「一緒にやりたいです」と声をかけているだけなんです。常に音楽ファンとしてアンテナを張っている部分はあるけれど、それは一緒に何かをするためというわけではなくて。ただ聴いてめちゃくちゃカッコいいから、その瞬間にファンになって声をかけただけ。「今だからこの人」という感じじゃないんです。
うわー、Chevonだ! 一緒に曲を作りたいんだけど!
──ここからは曲ごとに制作の背景を聞かせてください。まずは表題曲の「Circus Funk(feat. Chevon)」について。Chevonにはどういうきっかけで声をかけたんでしょう?
アトリエで絵を描いているときは大抵サブスクでいろんな曲を流して聴いてるんですけど、Chevonの曲を聴いて「ん? 誰だ、これ?」と筆が止まったんです。そこからアーティストのページに飛んで、検索して、公式ホームページを見て、YouTubeを観て。この間コラボの情報がオープンになったからやっとフォローしましたけれど、その前からXもInstagramもメンバー個人のアカウントもチェックして、どんどんファンになっていました。
──そうだったんですね。
そのあと稲垣(吾郎)さんと草彅(剛)さんと、ファンミーティングで札幌に行ったんです。朝、札幌の街を眺めてお風呂に入りながらChevonを聴いてたら、ふと札幌在住のバンドだということを思い出して。ホテルからファンミーティングの会場に向かう車の中で、イベンターさんと「Chevonってバンド知ってますか?」「知ってます! ここ、地元です」「会えますかね?」「ちょっと調べてみます」という会話をしたんです。で、ファンミーティングが終わって楽屋に戻ったらChevonがいました。「うわー、Chevonだ! 一緒に曲を作りたいんだけど!」と僕が言ったら「いや、ちょっと待ってください。どういうことですか?」って。「『Circus Funk』っていう言葉、カッコよくない? 『Circus Funk』ってアルバムを作りたいんだよ。きっと表題曲になるわ」「え、どういうことですか?」みたいな(笑)。そんな感じで、その場で決まりましたね。
──実際、Chevonとの制作はどんなふうに進めていったんですか?
最初のデモは方向性が違っていたので、けっこうやりとりしましたね。制作中、Chevonのライブも観に行ったんです。初めて渋谷のO-EASTに。ライブが終わった直後に楽屋に行って「2曲もらったけど、2曲目はまったく違うわ。でも2曲目のこの部分がいいから、それを1曲目と合わせて……」みたいな話をして。でもChevonはライブの直後で汗だくで。「ホントごめんね、こんなときに。帰ろうか? またリモートでつなぐ?」「いや、大丈夫です!」みたいなやりとりがありました(笑)。
──香取さんの中に「Chevonとやるならこうなってほしい」という仕上がりのイメージがあったんですね。
Chevonだけじゃなく、全部の曲に「このイメージで曲を作りたい」というものがあるので、そこに近付けていくみたいな感じで仕上げていきました。
「今後ずっと歌っていこう」という思いも込められているから
──「TATTOO(feat. 中森明菜)」では中森明菜さんとのデュエットが実現しましたが、これはどういうところが始まりだったんですか?
「TATTOO」はずっと好きな曲で、いつかカバーできないかなと思っていて。「Circus Funk」の構想が自分の頭の中で進み始めたときに「今なんじゃない?」と思いが膨らんでいきました。そのときにちょうど、明菜さんがYouTubeに「TATTOO」とかを歌っている動画を上げ始めたんですよ。ひさびさに明菜さんを見て、やっぱり今なんじゃないかなと。で、「カバーをさせてほしい」とお声がけさせていただくときに、これも今言ったほうがいいんじゃないかと思って「もしも叶うならば一緒に歌ってもらえないですか」とお伝えしたんです。そうしたら「ぜひ」という返事が来て。
──そんな経緯があったんですね。
でも、OKの返事が来たら来たで信じられなくて「……本物の明菜さんなのかな?」と不安になっちゃって。スタッフに「誰とコンタクト取った? 大丈夫? 俺たちだまされてない?」みたいな感じになったんですけれど(笑)。でも本当に一緒に歌えることになりました。リアレンジのオケはSOIL&"PIMP"SESSIONSですが、SOILも前から大好きで、「東京SNG」のときにもご一緒したくて声をかけました。でもスケジュールが合わなくてダメだったんですよね。だけど、今「TATTOO」をやるならSOILだろうと思い、お話したらこちらも「ぜひ」と返事をいただきました。オケを作り、あとは明菜さんと僕が歌えば完成だっていうときに、SOILの社長(Agitator)が「もしものときは俺が歌います」って(笑)。「そうだね」なんて言いながらオケはできました。で、いよいよ歌のレコーディングの日になって。
──レコーディングはどうでしたか?
あんなに緊張感のあるスタジオはひさびさでしたね。まず来てくれるのかどうか、10分前までわからない。こんなコラボレーションが叶うなんて、そんな機会はなかなかないというようなレジェンドなので。そうしたら本当に来てくれて、「おひさしぶりです」とご挨拶したあとに「どうして来てくれたんですか?」と聞いたんです。そうしたら「香取くんのことはずっと応援していたし、ずっと見ていたから、香取くんに呼んでもらって来ない選択はない」って。そこからレコーディングが始まりました。
──実際に今の明菜さんと自分の声が重なっての感触はどうでしたか?
うれしくてしびれました。しかも一緒にブースに入ったんですよ。こんなこと普通はないんですけど、向かい合って歌ったんです。だから緊張というか、本当に1行1行、ずっとフルパワーでしたね。本気でした。歌い方についてもアドバイスをいただいて、ただただ感動でした。「Circus Funk」は僕にとって3枚目のアルバムで……1枚目と2枚目を出したときは、お祭り騒ぎみたいにパッとやってみて、それで終わることもあるんじゃないかとも思っていたんです。だけど今回のアルバムには「今後ずっと歌っていこう」という決意表明のような思いも込められているから。自分の中にそういう思いがあったところに明菜さんが来てくれて、本当にうれしいですという気持ちをレコーディング終わりに伝えたら、僕のほっぺたを持って「がんばってくださいね」って。涙が出ました。
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君の曲が必要なんだ