片平里菜が4thアルバム「一年中」をリリースした。
“春夏秋冬”をテーマに制作されたこのニューアルバムは、これまでの片平の内省的な楽曲イメージを覆す作品に。一時期は音楽活動を止めることまで考えていたと話す片平は、どのような思いで新境地を感じさせるこのアルバムを完成させたのか。本人に話を聞いた。
取材・文 / 小林千絵 撮影 / 笹原清明
今までの私だったら誰にも引っかからない
──オリジナルアルバムを発表するのは「愛のせい」(2017年12月リリース)以来2年ぶりですね。今作の発売を発表した際、「自分を新しく作っていくことを意識して挑戦してきた1年間」とコメントをしていましたが(参照:片平里菜、春夏秋冬を感じさせる12曲入りニューアルバム「一年中」)、ベストアルバム「fragment」(2018年11月リリース)を出してからはどのような1年でしたか?
試行錯誤の1年でした。ベストアルバムを出した次に作品を発表するというのは、私の中では再スタートを切るような感覚なんです。でも音楽市場で勝負することを考えたときに再スタートというのはけっこう難しくて、私の再スタートより、無名の新人のデビュー作品のほうが目立つと思うんですよ。今までの私のままだったら、もう誰にも引っかからないとまで思っていた。だから変えられるものは全部変えたいという気持ちで過ごした1年でした。それはビジュアルなのか、サウンドなのか、歌詞の書き方なのか、それとも人との接し方なのか。何を変えればいいかわからなかったので、とにかく変えられるものは変えていこうと常に意識はしていましたね。
──危機感のようなものを感じていた?
そうですね。音楽活動をしていく上で環境を大きく変えたこともあって(参照:片平里菜が個人事務所を設立「またあたらしい音楽人生を歩き出します」)、リリースのスパンがけっこう空いてしまって。その間にファンの子たちが離れていくのも感じていたし、ライブの動員数などいろんな数字が緩やかに下降しているのを自分でも実感していました。
──下降を感じるようになったのはベストアルバムを出したあとですか?
出す前からですね。正直、それに伴って自分のモチベーションも下がっていって、「もう楽しくないし、止めてもいいかな」くらいに思っていたんです。でも自分がどうしたいかがよくわからなくなっていたので、1回リセットしてみようと。
──ベストアルバムのインタビューをさせてもらったときはすっきりした様子で、すでに迷いから抜け出せていたように感じました(参照:片平里菜「fragment」インタビュー)。
3歩進んでは2歩下がるみたいな日々だったんじゃないかな(笑)。でもベストを出すあたりではもう、向かうべき方向は見えていたので、モチベーションは下がってなかったと思います。
──向かうべき方向というのは?
次に作るアルバムのイメージです。「愛のせい」は内省的に作ったアルバムだったのでどちらかと言えば暗い作品でした。だから次に出す作品はそこから光が差して、また新しく何かが始まるとか、とにかくいい方向に向かっていく兆しを感じさせるようなものにしたくて。ベストアルバムを出すあたりではそのイメージが浮かび始めた頃だったと思います。ただ、その光を自分自身が見つけられずにいて、もがいていた時期でもありました。
楽しいほうがよくないですか?
──先ほど「試行錯誤の1年」と話していましたが、この1年を経て片平さんにはどんな変化が生じましたか?
東京という街が自分の居場所に感じられるようになったことかな。家に1人でいるのが寂しすぎて(笑)、積極的に人に会いに行くようにしてたんです。例えばライブの衣装を探しに行った古着屋さんで店長さんと仲良くなったり、カウンターのあるお店で店員さんとしゃべりながらごはんを食べたり。そうしていくうちに音楽のつながり以外でも友達ができるようになって、居心地のいい場所が増えていきました。今は基本的にオープンマインドで過ごしています。
──そのオープンマインドな雰囲気は「一年中」からも感じられました。10月7日更新のnote(参照:ろんぐたいむのーしー|片平里菜|note)にも「次出すものはHappyなものだと思う。わたしがそうだから、みんなもそうなったらいいなって」とありましたし、今の片平さんはハッピーなモードなんですね。
基本的にすごく元気です! 明るいものの中に自分がいるような感じがする。今作の制作中も明るいもの、ハッピーなものに惹かれることが多くて。これまでは落ち着いた曲調のチルな音楽をよく聴いていたんですけど、最近はそういうものよりもリズミカルで明るい曲調の曲を好んで聴いてましたし。いつも楽しい方向に向いてました。
──どうしてハッピーなモードになれたんですか?
楽しいほうがよくないですか?(笑)
──それはそうですけど……楽しくなりたいと思っても簡単に楽しくなれるものでもないというか。
あはは(笑)。幸せになりたいと思っているからですかね。特に曲作りでハッピーな曲を作るように意識していたんです。私は陰と陽だったら“陰”のほうの人間だし、積極的な部分もあるけど消極的なことのほうが多くて、そういう人間だからこそ内気な部分を歌ってきた。その私がポジティブなことを歌うのって、すごくグッとくると思うから。
──内気な片平さんの曲に惹かれているファンの人もいたと思うのですが、その人たちを裏切ってしまうというような心配はなかったですか?
潜るだけだとつらいと思うんです。このまま潜って沈んで終わっちゃったら救いようがない。それは自分に対してもですし、これまで私の音楽に救われたと言ってくれて、今でもファンでいてくれてる人たちに対しても。だからむしろ、幸せであることを歌いたいと思いました。
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作家陣にしてもらったのは“壊す作業”